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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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170.【不思議の果実】

「アイ、アキトと2人だけがいいもん・・・」

「え?」

「え?」

何故お前が驚いて居る。言ったのも度肝を抜かせたのもお前だろう。そんな当たり前の言葉すらも出ないほどに、アキトの口はえ?という言葉を発することで精一杯だった。

なんだろう、そういう雰囲気はあったと言えばあった気がしなくもなかったと思わなくも無いのだが、ここまで素直に何かを伝えられるほど、この少女には対人スキルはないのではないだろうか。恥ずかしいやらなんやらで目を回し、涙目になりながらアワアワしている少女に対する認識は、間違っていたのだろうか。そんな思考が頭をよぎる。

「ち、違う・・・違うかりゃ!」

盛大に噛んでいるのだが、もう何も言わないでおこう。これ以上墓穴を掘ることなどない。ゆっくりと目を閉じて全てを忘れようとする。

「一緒に居られれば、いいから。大丈夫だもん。って、あれ!?」

さらに驚くような速度で墓穴を掘りに行く少女。ショベルカーがゴリゴリと地面を抉っている。やめて上げてほしい。そんなに掘ったらもう出てこれなくなる。

取り敢えず落ち着いてきたアキトは、状況の不可解さに気付く。明らかに意思とは違うことが起こっている。原因があるとするならば、間違いなくそれだろう。

「迂闊に食うから・・・」

すぐさっき食べた果実。怪しい世界の怪しい果実である。怪しいづくしでおかしいというのはわかったはずだっただろうが、毒無効という特性を過信しすぎて居たようだ。もし自白剤的な力があったのならば、それを毒と判別しないということもあるわけだ。

「もう喋んなよ。顔、真っ赤だぞ?」

「あぅ・・・」

両手で顔を隠すも、髪の間から覗く両耳が真っ赤になっている時点でもう分かってしまう。

アイリスフィニカの方をできるだけ向かないようにしながら、ライラがいる方向へと足を進めようと動き出す。と、そこで何かに引っ張られ、アキトは足を止めた。別に大して強い力ではなかったのだが、袖を引っ張るその手には、何か別のものを感じた。

「アキト・・・アイより、あっちの方が大事なの?」

「え・・・と・・・?」

ぷく〜っと頰を膨らませて、どうにか恥ずかしさを堪えて、アイリスフィニカがアキトに詰め寄る。震えているのは怒りと羞恥のどちらもなのだろう。可愛らしい表情にアイリスフィニカの美しい造形の顔があわさり、最強レベルの尊さになっているのだが、アキトは一点あまり狼狽えていない。

「どっちが大事なの!?」

「ああ・・・分かった分かった、もう少しここら辺を調べよう」

「っ!うんっ、うん!」

拗ねていた表情は一転。全てを照らすように輝く笑顔で、アイリスフィニカがアキトに抱きつく。

さて、おかしさにとうとう拍車がかかってきた少女の口にした果実。普通はあり得ないような効果を持っている。それこそ、『自分の内心を曝け出す』というものである。むしろ酒のようなものだろうか。

「えへへ〜」

「なんだこれ、慣れない。いつもの男口調どうしたし・・・」

「あの喋り方は、舐められないためだし。アイだって普通に喋りたいもん。」

「そうかよ・・・」

心のそこがむず痒いのだが、嫌な気はしない。取り敢えず効果が切れるまでこうしていようと、そっと考えるのをやめるアキトだった。

「ねぇ、どこ見てるの?」

「いや、お前ってよく見なくても可愛いな・・・と」

お世辞なんていう聞こえのいいものではなく、適当にあしらうつもりの冗談の一言。小っ恥ずかしくなったアキトの逃走経路である。

しかし、アイリスフィニカにとってはクリティカルダメージ、むしろノックアウトまで行くかもしれない。

「か、可愛いって・・・そんにゃ・・・あぅ」

めちゃくちゃ照れていた。

アイリスフィニカの表情が、心に光を落としてくれる。なぜだか、感受性の抜け落ちた心の傷に、それが大きく流れるような。それがとても痛くて、とても苦しくて。傷口に塗られる消毒液の痛みに悶絶したことなら、誰にでもあるのではないだろうか。それは、そんな痛みに近かった。アキトの抜け落ちてしまったこころを埋められるような。

ーーー無関心、貫け。

しかし、その救いの手を、アキトから振り払う。力を求めて、強くなって、世界に認めさせてやる。それが、どれだけ醜くとも、それが、どんな力であっても。そのための呪文のようなものだ。

アキトの心を取り戻せるのは、この呪文をどうにかしない限り無理、無駄だ。それだけ、その樹林での試練は、最弱には大きすぎた。

そのアキトの心を取り戻せるのは、

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