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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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169.【異世界召喚+異世界召喚=召喚慣れ】

「誤解が解けたようで何よりだ。残念ながら俺にはそこまでの度胸はないからな。」

「分かる気がする。だけど、なんであの人襲ってたのかは分からない。」

「襲ってない!」

アキトの意志の強さがうんたらかんたらという事もあるが、ライラに対する苛立ち、妬み、嫉み。そんな悪感情の奔流は、どうにか抑えられるようになったようである。こんな幼気な少女にどうしてそんな事を思ってしまうのか、自己嫌悪が尽きることはない。それによって生じる心の摩擦も。

「それで、どうしてここにいるの?」

「ああ、いきなり黒い球体が現れて、そこに吸い込まれたというか。そん時の弾みでああいう状態になったんだ。襲ってた訳じゃない。」

現状確認。少女の飛ばされてきた時と、アキトの飛ばされた時との情報に、目立った齟齬はない。そのまま信じてもいいのならば、アキトは赤髪の少女を襲ってはいないし、ライラと同じような方法でこちらに飛ばされたことになる。ライラからすればちょっとした異世界召喚だ。

あたりを覆う森林も、そこを更に囲む山脈も、それを超えるほど大きな四角い箱のような建造物も。全てが全てライラのいた世界とは違う。そんな事をいったら、アキトは2度目の異世界召喚になるのだけれど、異世界で異世界に召喚されるなどややこしい事この上ない。そっと考えるのをやめながら、右足の痛みに顔をしかめる。

「どうしたの?右足、痛いの?」

「いや、すこし挫いただけだ。とりあえず、俺はこいつと周りを見てくる。どうだ?同盟を結ばないか?」

背に背負った軽い少女と周囲の確認。アイリスフィニカを指差しながらそういうと、同盟宣言に少女は目を丸くしていた。ライラとて、同盟宣言がどういう意味かは分かっているだろう。それでもこうしているということは。

「ま、返事は今じゃなくていい。それじゃあな。」

半ば強引に話を切り上げ、アイリスフィニカを背負い直して木々を抜ける。背後のライラの表情を気にしてやれる余裕はなかった。既にその少女は、忌まわしき対象へと塗り替えられてしまっていたから。

「ほんとに、クソみてぇな力だ。」

悪態をつきながら、確認作業へと進みたかった。


ーーーーー


「ん・・・アキト?」

「お、起きたか。体の傷は大分治ってたみたいだぞ。悪かったな、無理させて。」

「いや、大丈夫だ。ただ、なんでアイを担いでいる!」

「あ?別に軽いから大丈夫だぞ?なんならこのままでも」

「遠慮しておく!」

太ももフェチであるアキトにとって、その抱え方は非常に危険だったため、しっかりと肌はタオルで覆っていたのだが、よほど恥ずかしかったのであろう、顔を真っ赤にしてアイリスフィニカがアキトから飛び降りる。

「体調は大丈夫そうだな」

「あ、ああ。」

その俊敏な動作から見るに、致命傷とも言える傷跡の治癒は、完全にとは言わないが終わっていたのだろう。

アキトからの確認に、動揺しながらも言葉を返す。それに満足げに頷くと、アキトはその奥へと歩みを進めた。

生い茂る木々の種類は見渡しただけでも割と多く、見た目だけでも判断できるだけで5、6種類はあった。見た目では分かりにくいものを合わせればもっとあるのであろう。しかし、その見た目だけでも分かるというのには理由がある。

『実』種類ごとに異なる種類の果実が、その空間には溢れていたのである。

「こんなにたくさんあるなんてな。腹が減るんだったら食料には困らないな。」

この空間がどうしてあるのか、何が原因で飛ばされたのか。もしもバルバロスではないのだとしたら、餓死してしまう可能性もなくはない。こうして食べられそうなものがあるだけでもありがたい。

「って、ここはどこなんだ?」

「ああ、いってなかったな。って言っても、俺もよく分かってない。急に飛ばされて、気付いたらここだった。」

説明できることとしてはそれくらいなため、これ以上何かを言おうにも何も言えない。精々壮大な勘違いをされましたというぐらいだろう。

「なんでそんなに冷静なんだ!?こんな不気味なところなのに」

「慣れてるというか経験済みというか・・・」

苦笑しながらそう返す。ライトノベル的な世界では3桁いるかもしれないが、現実世界だとこんな経験をしたことがあるのはアキト以外にいなかったのではなかろうか。そうそう異世界召喚なんてされる機会はない。いやむしろ無い。

慣れ親しんだ新天地というちょっとズレた表現だが、この状況を表すのならば、それが1番適切なのだろう。

「んで、これは食えんのかな・・・」

赤く、林檎のような果実。日本にいた頃は林檎の皮むきだけを料理スキルとして習得していた。その久しぶりの肌触りは、少しではあるがアキトのテンションを上げた。

皮を剥く道具なんてあるはずもない。海外ドラマのようにワイルドにかじろうと口を開く。

「何やってるんだ!毒があったらどうするんだよ!」

さっと林檎モドキを掠め取られ、盛大なお説教を食らった。心当たりはありまくりなのだが、その言葉はアキトの行動を大幅に縛る。おそらく、もう林檎に手を出すことはできないだろう。

「アイが食べる。」

「お前はいいのかよ」

いう終わる間も無く、いとも容易くその果実をかじり取り、咀嚼して飲み込む。

「アイは毒があっても血ごと溶かすから大丈夫だ。」

こんなに華奢な少女の形はしているものの、やはり人間の上位種吸血鬼である。その化け物じみた力では毒すらも無力なのだろうか。全てがどうにかなんなんてことはないだろうが、中々に恐ろしい能力だ。

「まぁいいや、取り敢えず、同盟候補の奴が居るから戻ろう。」

取り敢えず。食料になり得るかもしれない物を手に入れたのだから、合否確認ついでにライラの元へと戻ろう。そうしてゆっくりと歩みを進める。心の中で燻っていた悪感情も今は無い。また少しの間耐えるくらいできるはずだ。

「嫌・・・アイ、アキトと2人がいいもん・・・」

「え?」

「え?」

言った本人が1番恥ずかしそうに、そして言われたアキトも呆気にとられる。

声にならない悲鳴が、森に木霊した。この森は何度叫ばれるのだろうか。

次回、イチャイチャ回。

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