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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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168.【馬鹿ども】

降り注ぐ大瀑布。水飛沫一つ一つが波となり、その水流の奔流が海を作り出す。それをたった一瞬で顕現させて、上からの質量攻撃と、下からの刺突攻撃乱舞。上下挟まれる形となった圧迫戦術。正直、万事休すとも思われる所業。

現れたのは、穴だった。


ーーーーー


「っ!ここは・・・」

びくりと痙攣し、今まで落としていた意識が完全に覚醒する。どこか遠い世界にそれを残してきてしまった。そんな感覚の喪失と、自身が踏みしめている、正しくは倒れている世界の実在を同時に認識する。

明らかに死んだと思われたそのユルカナミシスの大破壊。そこには、さすがの『嫉妬』ですら死んでいてもおかしくない攻撃力があった。それなのにもかかわらず、こうして意識を保ったり、何かを考えられているのなら、ここが天国でもない限り、生き残っているとしか考えられない。そして、そう思うのならば、絶対に無視できないイレギュラーが、そこにはあったはずだ。

「変な・・・穴?」

全てを飲み込んでしまいそうなほどに深い闇、それを濃縮したような暗闇の先。ゆっくりと口を開けたが最後、ライラの意識は途絶えた。

限定的ではあるが共闘するために武器化していた『シヴィルファフリー』改めレヴィアタンも、拒絶結界としての姿としてそこに残ってはいなかった。無論、霊力の限界消費をガンガン無視していた彼女の手に、精霊聖剣などあるはずもなかった。

「ほんとに、ここ、どこなの?」

鬱蒼と生い茂る木々、凛とした雰囲気の中には、張り詰めた弓から矢が放たれる寸前のように緊迫した何かを感じた。

黒く、暗く、闇であり、漆黒であり、混沌であり。

「っ!」

ガサリ、と。近くにライラがいるのにも関わらず、全く警戒した様子などない何かが、そのすぐそばの茂みを揺らした。もしライラに敵意があったとしたら、数瞬かからず首が飛んでいただろう。そんな思考をさっと追い払い、そんな馬鹿な主の元へと歩みを進める。

嫉妬されるのは慣れている。蔑まれるのは慣れている。疎まれるのは分かっている。拒絶されるのを、知っている。

しょうがない。しょうがないことだ。全ての『物』に愛されるという力の代償に、全ての『者』に疎まれる。それが、負うべき物でもあり、嫉妬の力。

「あなた、誰?」

傷つく準備をして、そっとその影に声をかけた。

そこには、赤髪のツインテールの少女。を押し倒す黒髪の怪しい人物が、とんでもなくバツの悪そうな表情でこちらを見ていた。

嫉妬、差し当たっては大罪囚。戦闘、思考、数え切れないほど行ってきた動作は、それを最適化、簡単に済ませようと、瞬時に済ませようとする。一瞬のうちに結論は出る。

「ちょ、これは誤解!」

「へんたぁぁぁぁぁぁい!!」

「誤解だからぁぁあああ!!」

暗い森の中に、馬鹿ども2人の叫び声が木霊した。


ーーーーー


心中、どれだけ覆い隠そうとしても、そこにいることが間違っている。こうして会話することすらしたくない。そんな嫌悪感が、自分の思考すら破壊しながら、暴言、暴力への波を、津波のように大きくさせた。

生前、まだ死んではいないのだけれど、はっきりとあちら側の世界で生きていた時。ミカミ・アキトは割と人を嫌っていた。

きっかけは何気ないことだった。いじめというものにあい、そしてその首謀者達に謝罪され、なんて人は素晴らしいのだろう。そんな馬鹿みたいな思考を持ってしまったばっかりに、その後に遭遇した人間の醜さに絶望した。ある種疑心暗鬼とも言える生活の中で、そこそこ仲のいい友人もいたが、心の底から信頼できる。心の底から一緒にいたいと思える。ましてや恋人なんて出来るはずもない。

と、そんななにやらがあったこともあり、アキトの心は捻くれに捻くれ、最終的に現在のように狡猾になった。結局リデアたちにそんな思い出をぶち壊された訳だが、残念ながらここで再発した。詳しくいうのならば、また再発した。

約3回目だろうか?この少女に対して、死んで欲しいと願ったのは。

自分より圧倒的な力を持った存在。触れずともアキトを屠ってしまえる存在。そんな恐怖、畏怖、自覚はあるのにも関わらず。先述考えたことは身の丈に合わない。

長々と綴った言葉、文章。それら全ては、自身の中の醜い感情を、どうにかして押さえつけられないか、逸らすことはできないものかと考えた結果だったのだろう。甘く見過ぎだ。

『海龍』ユルカナミシス、その本気である『海龍結界(ユルカナム・アイオラ)』ですら凌いで見せた嫉妬コンビ、ライラ・クラリアス。対応悪魔レヴィアタン。彼女らの用いる精霊聖剣『チスニプリウム』と、拒絶結界『シヴィルファフリー』の威力は、アキトだって知っている。その嫉妬の力で自身の感情が煽られているというのも知っている。けれど、たとえそうだったのだとしても。その風に煽られて嫌悪感をむき出しにしそうな自分に嫌気がさし、嘆く。


ーーー本当に俺は、馬鹿だ。


鳴り響いた甲高い声の残響が、どうしてだが心に痛みを植え付ける。

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