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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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166.【理不尽をぶち壊す】

駆ける炎の中、進む世界の先で、ようやく見えた崖からは、大きく揺れる影が見えた。

たどり着いたそこに、すでにアキトそっくりの姿はなく、アイリスフィニカとエゴロスフィニカ、兄妹2人だけ。

「それは、本当か。本当なのかシシュウ!」

喉が張り裂けそうなほどに絶叫するエゴロスフィニカ。人としてのなにかを、その叫び声に込めて、それら全てをどこかに吐き出しているかのように、人間だということを、吸血鬼だということを、全て無くしてしまいそうなほどに、彼の声は魂を伴っていた。

何を知ってしまった。何に触れてしまった。何が彼に、そこまでさせたのだろうか。

「兄・・・さん?どうしたの、どうしたの?・・・知りたがってた事、知れたんじゃないの?」

ーーーあ、ああああ、嗚呼嗚呼

「世界の始まり・・・、知れたんじゃないの?」

全てを壊してしまいそうなほどに狂気を孕んだ叫び。それを発する兄を、再びこちら側へと戻そうと、健気で幼い少女の、アイリスフィニカの小さな声が、手が、体が、全身全霊をもってエゴロスフィニカに浴びせられる。

それでも、エゴロスフィニカの知った事実は大きすぎた。立ち直ることのできない声。

「どうしたんだ!?おい、何か知ってるのか?アイリスの、エゴロスフィニカの事を!」

282のかすれた声。壊れてしまったラジオのように、掠れたノイズまみれの音をアキトへと流す282。そして、世界の始まりを知った男の、悲痛すぎる絶叫。

阿鼻叫喚。地獄絵図。これこそが、そんなものを表しているのだろうか。

「兄さん!兄さん!」

「お前が、お前が、そんなくだらない事を気にした所為で、所為で、所為で、」

いつしか、憎悪にまみれた嬌声は、アイリスフィニカへと方向を変えて、向かう怒りの大きさ全てが、アイリスフィニカへと『それ』を近づけていることが察せられた。

「世界の始まりなんてことを、おまえがしりたいなんていったせいで!」

それは、アイリスフィニカの、小さなただの疑問だったのではないか。この世界は、どのようにして生まれたのだろう。どうして自分たちはこうして生きながらえているのだろう。そんな疑問。

ビックバンによって生まれた星に水が降り注ぎ、様々なものが寄り集まってできた偶然の星。そこに住んでいたのがアキトたちだ。しかし、そんな理屈を知っていてなお、どうやって宇宙は作られたのだろうかという疑問は、具体的な答えとして知りたがっていた。アイリスフィニカとエゴロスフィニカにとってその話題は、ただの世間話のようなものであり、知るチャンスがあれば知りたかった内容だったのだろう。

そして、知ってしまったエゴロスフィニカがこうして狂ってしまうほどに、どうしようもなく醜いものだったのだろう。

アイリスフィニカ、アイリスフィニカ、アイリスフィニカ。

全てはアイリスフィニカのせいであり、こうして自分が狂ってしまうほどに狂気を持て余しているもアイリスフィニカの所為で、こんなくだらない疑問に疑問を持ってしまったこと自体が自分の落ち度ではないくアイリスフィニカがアイリスフィニカの所為であり、アイリスフィニカが持ってきた醜さで世界は美しかったはずだったかちへ、こんなに醜くはなかつた、これは全てはアイリスフィニカの所為で。

「このせかいがこんなにみにくいのは、おまえのせいだ。」

エゴロスフィニカの持っていた自我が、作り変えられる。ぴったりとはまっていたパズルがバラバラになり、完成されていたものとは全く違う形で型にはまろうとしている。むろん、それでパズルが完成するはずがない。余計なものをそぎ落とすように、へし折るように、パズルのピースは形を無理やり変えられて、無理やり新しい『自我』を形成していく。

そしてアキトは、見ることをやめた。

目を覆いたくなるようなものであった。しかし、見続けなくてはならない。そんな信念を持っていた。つまり、アキトのその強さならば、絶対に目をそらすことはなかった。その映像を消したのは、282だった。


ーーー空間の修理が終わった。


「・・・。ありがとよ。俺なんかに返せるもんなんてないかも知れないが、いつか、この借りは返す。」


ーーーうん。期待してるよ。



ごめんね。





それは、映像を最後まで見せられなかったということに対する謝罪だったのだろうか。それとも、何か違うこと対してのことだったのだろうか?

分からないけれど、アイリスフィニカの傷、呪いについてはもう分かった。

映像は切れてしまったけれど、もう簡単に理解できる。あれから、アイリスフィニカはバルバロスに入れられ、エゴロスフィニカの力によって今までのように生きてきたのだろう。


「助ける。ああ、そうだ。理不尽を与えられた奴同士、助け合わねえといけないだろ。」


アキトの憔悴しきっていた時に、ゆっくりと癒してくれた。優しく、抱きとめてくれた。脆い心を、守ってくれた。健気で、優しくて、暖かくて。そんな少女の理不尽を、ぶち壊そう。


「絶対に助ける。この絶望を、ぶっ壊して。」


記憶回廊から、奈落の大監獄へと。

落ちる意識の中で、ただそれだけ、決意を堅く。最弱は、力を求めた。

手を洗っている時に、まくっていた袖が落ちてきた時ほど自分の無力を感じることはないです。週末サボりすみません。月曜からはいつも通りだと思います。(多分)

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