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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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163.【記憶回廊から】

ただただ混沌。渦巻くその何かが、自身の記憶と現在を行き来する通路だったのだろうか。進んだ気のしない世界を、ただ淡々と歩いていく。ただの1人で歩いていくのであれば、不安で足がすくみ、その場で蹲ってしまってもしょうがないであろう闇。しかし、そこではっきりとした足取りで地面を踏みしめる少年には、282もとい、謎の声の主がいる。

不安など、無いに等しかった。

「っ!」

暗闇が、取り払われる。世界が開ける。今まで閉ざされていたかのように感じていた閉塞感が取り払われ、浴びる風と緑の香りに、開放感を全力で感じた。

記憶回廊を、抜けた。

見渡す限りの緑、とまではいかないが、割と緑が多めの町、規模的には村といったほうがいいかもしれない。簡素な作りの住宅。窓から覗く中の様子は、興都のように魔法器具などはあらず、ひと昔やふた昔前なのでは無いかという疑問が、アキトの脳裏を駆けた。

「って、俺の記憶じゃねえじゃん!」

ーーー確かに・・・ここはちょっと前のこの世界だなぁ・・・

うんうんと唸る『それ』に対し、呆れ顔を向ける。しかし、ここがアキトの記憶であることに、絶対的に間違いはない。というのならば、この記憶は誰のものなのだろうか。そよぐ風が心地よく、程よい子供達の声、草木の話す音。雑音とひとくくりにしていては勿体無いような。

ここまでしっかりと再現されているわけだ、相当心に残っている情景なのだろうか?頭を悩ませたところで、282に分からないことが分かるはずもない。地面で踊っている草木に視線を落とし、観察を始める。

ーーーねぇ、君、もしかして、吸血鬼になったりしたかい?

「?そりゃなったが・・・ああ、そうか、バルバロスには入れなかったんだったな。」

まるで正解を見つけたかのように言った言葉。それが疑問だったことから、吸血鬼の事を肯定で返す。しかし、全く関連性のない出来事の羅列を見事に一括りにして、そこから本質を見抜き出して原因を解明するなど、この282の思考力に逆に頭が痛くなり、諦め模様で聞き返す。

「それで、吸血鬼になったら何なんだ?」

ーーー吸血鬼の眷属化には、その吸血鬼の血を体内に入れる必要があるんだ。

「って事は、これは、その血に混じってた記憶ってことか?」

ーーー記憶が流れてくる事はないから、吸血鬼側の体の中の記憶にあてられて、少しだけそれを見せられるって事なんだろうね。

アキトを吸血鬼にした人物。吸血鬼にしてくれた人物。そして、アキトが助けたい人物。吸血鬼としてではない。1人の華奢な少女として、アキトが助けなければならない少女。

「これが、・・・アイリスの、記憶・・・・・・」

よくよく見てみれば、そこで駆け回る子供達も、それを暖かく見守りながら洗濯物を干す母親も、そんな彼女らのために汗を流して働く男たちみんなが、アイリスフィニカと似たような紅く輝く髪を持っている。

ーーーそのアイリスっていう子の村だろうね。ちなみに2000年前の。

「にせっ!?」

ーーー吸血鬼は不老だからね、死ぬまで死なないんだ。

2000年それだけの間、紅い少女は暗闇で光を待っていたというのだろうか。たまに落ちてくる希望に、心をズタズタに引き裂かれ、そんな中、自身を優しく包み込んでくれる、連れ出してくれる。孤独を壊してくれる存在を、待っていたのだろうか。

「でも、来れて不都合って事はないだろ。」

それに、アイリスフィニカを救う上で、その生い立ちは知っていなければならないい。その孤独の始まりを、苦しさを、悲しさを、辛さを、知らなければならない。

救いたい少女の苦しみも知らないで、誰がどうして救ってあげたいなどとほざける。

「暇つぶしでも何でもいい。見せてもらう、アイリス。」

ーーー・・・・・・そうだね。


ーーーーー


「にーさん!吸血鬼術、ちょっと使えるようになったよ!」

「アイ・・・すごいな、兄さんでも10年はかかったのに・・・」

「えへへ」

長身の男。黒い法衣に、白銀の長剣を腰に携えた好青年。しかし、その剣には刃は付いておらず、柄しか付いていない、『空剣(からつるぎ)』という武器である。戦闘向きではないが、それ以外に効力を発揮する武器である。

かつてのカーミフス村の村長、『ユルド・カーミフス』が愛用したとして知られる武器であるが、そんな武器を使う物好きはそう多くない。

ーーーあれが、『始原・空剣(からつるぎ)』。伝承じゃ、『ラハトギャラク』として残っている武器だ。

「『ラハトギャラク』?っても知らねえが、十中八九、あれがアイリスの兄。」

少女の吐露に混じった兄からの呪い。今の状況を見る限り、呪いをかける呪術師と、それに縛られる断罪者という関係には見えない。仲睦まじい、ごく普通の兄弟である。

ーーー移動する。僕らは彼らに見えてないんだ、追いかけよう。

「ああ。」

眼前に広がる世界は、この血に刻まれた記憶の再現にすぎない。アキトたちがばれるという事はあるまい。

アイリスフィニカの兄を追い、アキトは近づいていく。炎の夜に。

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