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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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158.【反則VS規格外】

眼前。広がる闇を照らすのは、罪人の持つ、罪人を屠れる、罪人に与えられるにしては強すぎる武器。

精霊聖剣『チスニプリウム』が輝き、指し示す闇の中に現れたのは視界に入りきらないほどの巨躯、この世界の海の境界を守護する番人。『海龍』ユルカナミシス。

「正体。」

小さく、ライラが呟いた。

見る、観る、視る、覧る。この闇を見通す力。この闇の中で、その嫉妬の対象を探し出す力。今、この精霊聖剣に宿らせる必要のある、精霊の力。

つまり、この闇を振り払う精霊。

「魔眼精霊。」

精霊王に仕える精霊の6に位置する精霊。

『全ての視界を理解、見通すことができる。これは物体に限らない。』

魔眼精霊の司る能力。『チスニプリウム』に宿る輝きは、その精霊の魂の輝き。

『チスニプリウム』から流れ込んでくる精霊の温かさが、全力でライラに味方している。下ろされた精霊の力が体を巡り、自身の視界の全てを理解しようとしてくれる。闇を見通す、それが何なのか理解する。

その闇を見通す。そこにいるのは、龍。視える。

そっくりそのまま鯨と呼ばれる類の体。形状的には鯨といっても、大きさは生半可なものではない。不気味なほどに無機質な眼と、そこから広がる体は、眼球のみでライラの身長を軽く上回る。ただし、その大きさもさる事ながら、普通の鯨と同じではない。一般的に内蔵を内包している腹の部分には肉は無く、代わりに、魔力的な光を放つ薄い膜が、タンクのように何かを蓄えている。後方に続く巨躯の背、先にある尾は、通常のような形のさらに後ろに細く伸びており、宝石のように続いている。そこから伸びる2対の翼は、片組は大きく、もう片組は小さいというシンメトリーな配置だ。形4枚の翼を大仰になびかせるその姿は、原型はあれど鯨と表現するものではない。

それこそ、『海龍』ユルカナミシスと呼ぶにふさわしい。

しかし、相対する少女の剣は、およそ精霊王といって差し支えない力を持っているライラ。使用自体が異例の劔。扱いに慣れていないという点を除いても、互角と言えよう。

「大全精霊。」

精霊王の精霊の1に位置する精霊。能力、

『全てを統率し、百霊王弓を生み出す精霊。』

齢十数の少女に持たせるには大きすぎる王の弓。金の散りばめられた弦、ライラとは真反対の煌びやかな装飾のそれは、精霊王の扱う武器の中で、最大の威力を持ち合わせる、精霊王とイコールで繋げるに等しい武器。

それが、形を変えた精霊聖剣として顕現していた。

「射貫け」

張り詰めた弓が軋み、歪む音が無性に鳴り響く。

どこからとも無く現れたのは、弓と同等の装飾の施された矢。ユルカナミシスを貫こうと殺意を温めている必殺の一撃。しかし、ライラにとっては、ただの牽制にすぎない。

ーーー撃て

人の手で握れてしまうような弱々しい矢が、その軍勢をいとも容易く壊してしまえるであろう閃光と衝撃を纏い、闇を斬った。

レヴィアタンの意識が矢を追う。捉えた先、そこには、矢はなかった。そこにあったのは、ただただ明るい。聖なると呼んでもいいだろう貫きという一点特化の輝きのみ。

驚愕に目を見開きユルカナミシスを見た先、既にそこに、海龍と呼ばれる存在はなかった。

「避けたか・・・」

煌めく流星のごとき輝きが、ライラを目掛けて降り注ぐ。掲げたレヴィアタン、改め『シヴィルファフリー』の拒絶結界が、豪雨のように叩きつけられる水のレーザーを、一粒のかけらも雫も残さずに消し去って行く。

無数の光へと還った百霊王弓が形を変え、『チスニプリウム』の形を取り戻す。

ライラの上には、その広大な図書戦宮の一部を水没させることができるほどの水が、落下力という暴力を持って迫っていた。

「っ!王槍精霊!」

『全てを切り裂く風刃を射出する槍を生み出す。』

しかし、形態変化をさせている時間は、少し甘く見積もっても無い。剣という形を伴ったまま、蓄えられた膨大すぎる魔力を、細く限界まで研ぎ澄まされた剣筋になぞらえる。

「消えっろ!」

振り下ろす太刀筋は一つ。絶対的に振り抜かれた剣の延長線上。実体化した魔力が吠える。その魔力は、風。耳を覆いたくなるほど甲高い風切り音が響き渡り、触れる場所から降り注ぐ大瀑布に突入。広大な水の暴力が、一瞬にして消え去った。

間髪おかずに飛翔。大瀑布の水流の上で高みの見物を決め込んでいた『海龍』に、黄金の太刀筋。『チスニプリウム』の刃が向けられる。

感じる殺意の強さに戦慄し、極小にまで圧縮された水柱たちが、同じくライラに死を叩きつけようと迫る。拒絶結界によって弾かれ、破裂しながら消える死の豪雨の中、進む速度を緩めることはない。

「王槍!」

『チスニプリウム』が魔力を纏い、風刃が全方位に無差別に撒き散らされる。

見据える先、あるのは害獣の鼻っ柱。叩き割る他ない。

ユルカナミシスの使用できる水の量は無限。物量で叩き潰すことで、どんなに腕の立つ剣士でも、どんなに技を磨いた魔術師でも、足掻くことすらできずに死ぬ。アキトとて、このような純粋な暴力と真っ向から戦えば、地の利や弱みがない限り勝つことはできない。

つまり、ユルカナミシスにとって、ここまで命を持っている相手は、珍しい。

「大人しく、斬られろッ!」

音を超える、光を超える。『チスニプリウム』の刃が残像を描き、進む軌道に白煙が舞った。

笑う嫉妬の殺意の先、それに呼応するように、ユルカナミシスの咆哮が木霊した。

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