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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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156.【暗鯨足音止まることなく】

轟く足音。否、足音と聞き違えてもおかしくないようなペースで、圧倒的な数で、それを轟かせている。何かに覆われているかのようにくぐもった爆音が世界に浸透し、地震のような揺れを感じさせた。

地震のような揺れに関しては全く察知出来ないアキトですらも危機感を抱く巨大な音。そこに混ざり合わさる不快な金切り音、咆哮、叫び、苛立ち。そう、例えるのならば。その、思わず耳を塞ぎたくなるような声を発しながら、この図書戦宮に体当たりをかましているのは、例えるのならば。

「アイリスっ!」

「うん!任せて、取り敢えずこっち!」

血液顕現。ラ・アイ・リス。皮膚を突き破り、その傷すらも隠し切ってしまうほどの出血が世界を紅く照らし、こぼれ落ちるはずの血液たちは地面を拒み、磁石に近づいた砂鉄のような得体の知れない動きでアイリスフィニカを覆う。もちろん、抱き寄せたアキトごと。

「お前、結構こういう事自分からする様になったよな。」

「う、うるさい!ふ、普通の・・・人・・・には・・・・しないもん。」

いつも被っていた男勝りの口調は鳴りを潜め、どこぞのロリ結界士よりも乙女チックな仕草でそんな事を言う。こんな状況だが愛らしく思い、背中に当たる感触を堪能する。

「な、なぁ、アキト。この声って・・・。」

「ここをぶち壊そうとしてるってのには間違いないだろうな。ただ、なんでかしらねぇが、知ってる。」

そう。アキトはこの声の主を、見たことがある。いや、肉眼ではっきり見たことがあるわけではないのだけれど、知っている。声も、生態も、実体も。

そう、このロマンチックな鳴き声だとか称されていた声は。アキトにはただの嫌な音にしか聞こえないこの音は。例えるならば、アキトが知っているものなのであれば、


「鯨・・・!」


哺乳類の中で最大の大きさを誇るその巨体は、個体差はあれど内蔵から血管の太さまで、人間の倍では済まないであろう。心臓が五つあるだとか、血管の太さが20センチを超えるとか。しかし、映像で見れば案外小さくてがっかりする。

アキトの場合は、ある時期から『白』い鯨のお陰でトラウマとなった鳴き声である。そして、ここに鳴り響いている声である。

「っ!アキト、思い出した。あの声!」

「なんだ!?鯨じゃ無いんだったら俺に対策はできねえぞ!」

結局、海を泳いでいるわけではないから当たり前なのだけれど、むしろ海でも対策は出来ないけれど。

アイリスフィニカの表情からして、食べることが出来るくらいに弱い相手では無いらしい。

「四大龍、『海龍』ユルカナミシス・・・!」

「聞いたことない、読んだことない。アイリスフィニカの時代の奴か!」

「大体はバルバロスに潜ってるからな。だからこそ、シドの最大の武器だ。」

アキトが文献でみたり、アミリスタに聞いたことのない物は、アイリスフィニカの様な生物カースト上位にしか知られていないような物や、古すぎて分からないもの。その四大龍とやらはその類であろう。

シドの口ぶりからして、その龍たちは、自分で操って襲撃にも使える刃であり、守らせる盾でもある。最大の武器という言い方は、戦闘に関することを関係なしに、その体躯からした文字通りの言葉だろう。シドほどの者がそのまま龍に任せているとは思えないからだ。

「ユルカナミシス。この世界の海の境界で待ち受ける番人。」

「強いのか?」

「アキトが知っているか分からないが、黒竜なんぞ赤子に見えるほどの相手だ。おそらく、覇帝や嫉妬、奴らぐらいでしか、倒すことは無理だ。」

「っ・・・だが・・・」

アキトたちは、お世辞にも覇帝に対して善戦をしたとは言えない。アイリスフィニカの剣撃乱舞にならば送ってもいいかもしれないが、アキトがしたことといえば目くらまし程度。アキト達では、ユルカナミシスには到底及ばない。

「ここで止めないと、そんなとんでもない奴が・・・」

「うん。上の国を水没させる。」

他の龍たちの破壊力に任せてもアミリスタの結界は破れただろう。しかし、その間に、アキトという月が何かをしないとは限らない。万全を期して『海龍』ユルカナミシスを送り込んだシドの判断は正しい。

もうだれも、アキトが弱いからと侮ってくれない。唯一とも言える油断という武器を、生き残る代償として捨ててきてしまったのだから。

「もう瓦礫は降ってないみたいだ。防御、解くぞ?」

「ああ!」

このままうだうだ考えている暇はない。波紋のように弾かれる血液たちが宿主へと還り、その惨状をアキトに示した。

磨き上げられたように綺麗だったただ使われていなかっただけの地面に瓦礫たちが突き刺さり、支えきれない重量の圧力に沈む床は亀裂を走られている。うんざりするほど並んでいた書庫の本たちは、皆叩き落とされ、原型を留めていない物も多く見受けられる。

痛む心に鞭打って、今現在は空と捉えるしかない場所に目を向ける。

「どこに・・・ユルカナミシス。」

暗闇が支配する図書戦宮の上。突き破られた外殻。見えない。けれど、居るのは分かる。降り注ぐプレッシャーと、轟く音が教えてくれる。

暗鯨の足音は、止まない。

3章が280.をまたぐことが決定しました。

関係ないですけど、終末のワルキューレっていう漫画、オススメです。微妙に言葉遣い悪いのがツボ。

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