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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
155/252

152.【リデアinわんだーらんど?】

どうして、分かってくれない?

そんな疑問と苛立ちが支配する脳内で、反芻される何故の数ばかりが増えていく。

自分は彼の役に立ちたい。いつも誰かのためだと、大した力も持っていないのに、強すぎる敵へと刃を向ける少年のために、自分が盾となって、守ってあげないといけない。それなのに、拒絶されて。

アキトの優しさは、ただの拒絶として受け取られて、そう受け取られても仕方ない言い方であって。それ以外の言い方をするには、もっと関心を持たないといけないのだけれど、それが今はできない。

分かっているはずだ。アキトが守りたいもののために戦っていることも、自分を大切に思っていることも。


ーーーーー


黒竜討伐戦。そのうんざりするほど長く、嫌になるほどの声援をもらって、そして栄誉に嫉妬する者の悪意に触れて、でもやっと落ち着いた時期。そこで、私は大罪囚序列7位、『大魔石ハンター』強欲、アカネ・アワリティアの討伐へと送り出された。

カーミフス村付近での依頼完了後、ポーションを購入しに森に入った冒険者が見つけた風貌から、確実に近いとされて、竜伐という名誉に押されて討伐に送り出された。

もちろん、私の竜伐としての役職は『何でも屋』のようなものだけれど、1人での討伐というのは、明らかにおかしいことだった。

役職として『護衛』『襲撃』の命を持っているアミリスタとヴィネガルナはおらず、不自然な力を確かめに行ったファルナとウルガも居ない状況で、それに異議を唱えたのは少数だった。

私について来ようとした数十人の部下たちを見殺しになんてできない。彼ら彼女らを置いて、たった1人でのアワリティア討伐が始まった。

そこで、アキトに出会った。

背は私より高かったけど、強さも性格でも年齢でも私の方が上だった。弟のような感覚だった。

私の仕事に巻き込んでしまって、それで逃げただけだったのに、当たり前のことを気に病んで、申し訳なさそうにする少年は、普通とは少しだけズレていた。

そこから、怖さを知らなくなったように奮戦。絶対に出来ないと思っていたアワリティアの討伐を、私と共に成し遂げてしまった。

また貶されるかもしれない。そんな不安をぶち壊すように、寄り添ってくれるように、アキトが居た。

怖さの感情をしっかりと持って居たとしても、アキトはきっとこの偉業を成し遂げていたと思う。アキトは何も力を持っていないけれど、『誰かのために』そう言って自分を強く在ろうとさせる心の強さは、きっと賢者だって、彼の英雄だって、絶対に勝てないだろう。

そんな心は、刃のようにまっすぐではない。力が無いから、そんなまっすぐな心では生きていけない。だから彼の心は、変わり続ける鉛の心だ。

それぐらい、アキトは強く、素晴らしい心を持っている。自分の信念を、レリィちゃん達を守るという信念を、絶対に忘れないような。

ただ、誤算だった。まさかその中に、自分が入っているなんて。嬉しいけれど、こうして拒絶されるのは辛い。

私はどうすればいい。そんな形を変えた疑問は、信念の強さでは誰にも負けない少年のせいで、強く増え続けてしまうのだった。


ーーーーー


白い。何もかもが白い世界で、誰もいない世界で、何も無い世界で。

1人。その世界で唯一、色を持ち合わせている者。意思を持ち合わせている者。実体を持ち合わせている者。

リデア。

その世界が夢だということに、簡単に気付いて、少女は小さく息を吐いた。自分で目を覚ますことのできないというとんでもない夢の状況なのだけれど、自嘲気味に振る舞うその冷静さは、異世界に飛ばされても割と平然としていたアキトを凌ぐだろう。

そんな初めての状況で冷静な行動をするリデアに、どこからともなく拍手が届いた。

「いやはや、さすがはミカミの仲間だ。なかなかどうして落ち着いている。」

「やっぱり、私の夢だけじゃないようね。こんなに殺風景だもの。」

ごちゃごちゃとしているリデアの心が、こんな何もない夢を映し出すことはあり得ない。そんな持論に基づいた彼女の推理だが、あながち、というか、ほぼ正解だ。

それは、聞き覚えのある声によって証明されている。

「にしても、死んだと思ってたわ、アワリティア。」

そう、聞き覚えのある声、アワリティアの声によって。

「覚えてくれていて光栄よ。でも、今の強欲はガルド・カーミフスよ?私にはもう強欲の肩書きはないの。ただのアカネ。」

能力ごと、悪魔ごと。それに肩書きを添えて、全部丸ごと、ガルドに押し付けたのだ。アワリティアという名を奪われてしまった、授けてしまったアカネは、月という肩書きのみになってしまったわけである。

「2冠の女なんて珍しかったのに、少しだけ残念だわ。まぁ、いいけれどね。」

「どうして生きているの?そう聞いたつもりなんだけど。」

アキトの魂を削る作戦の果て、心臓を貫かれてなお足掻き続けた戦の先。敗れたのはアカネで、淘汰したのがアキト。そのはずであった。けれど、そこに彼女はいて、そこに存在があって。

実体では無いのだろうけど、ここがリデアの作り出した夢ない以上、アカネは生きている。

「少し落ち着いたら?死んだと思ったら生きてるなんて、よくあるでしょう?」

「心当たりはないわ。」

「それもそうね。私も死んだと思っていたのだけれど、こればかりは精霊王に感謝ね。」

長い睫毛と切れ長の目。そこにある大きな瞳。人形とでも錯覚するような美貌が囁くのは、ここにはいない『それ』への感謝。

態度からして何かの闘志という敵意はないのだろうが、残念ながら生き残ってしまったアカネは、アキトの狡猾さを学んでいる。簡単に戦闘には入るまい。

「私、実は強欲の力を全て使えた訳ではないの。」

「・・・大罪囚で最弱なのはそのせい?」

「それだけではないわね。でも、そのせいでもある。」

他大罪囚達の扱える能力より劣る。対戦形式にもよるが、その中で最弱というアワリティアは、使える能力が制限されていた。

カーミフス大樹林では知ることのなかった情報だが、結局あの時も、グレンによってマモンは使えなかった。

「こうして意識だけ生き残れたのは、月として授かった能力のおかげ。こうしてあなたを呼んだのもね。」

リデアをこうしてここに繋ぎ止めている力。意識のみを肉体から切り離し、同じく繋ぎ止めている力。それが、アワリティアの月としての力。

「私のこの力は、ただ何かをゲートに収納するだけの力じゃないの。」

「・・・?」

無言で疑問符を浮かべるリデアの顔からは、怪訝そうな色が消えない。

「こうして私が主導権の空間を作る。それが、『その強欲は刃を求める』の力。」

アカネを中心とした空間を、こうして創造する力。

考えてみれば、アカネは武器や物をゲートから取り出していた。そんな空間に、様々な攻撃魔法を収納して、中身が無事なはずがない。あの時も、アワリティアは、物を入れるゲートと、攻撃吸収のゲートを使い分けていた訳だ。それぞれを能力で創造して。

死の直前に、自身の魂とも呼べるものを収納し、この空間にずっと留まっていたのだろう。

「あなたの体に、こうして空間を作れたのは、とても幸運なことだったわ。」

「私の体に、空間を?」

「ええ。あんな瀕死の状態で、一から作るなんて無理だもの。『ある』ものから魔力を取り出して、いつも物を入れてたゲートを作り変えたの。あなたの体に入ってね。」

リデアの刃によって大魔石に磔にされ、身体中のマナを吸い取られ続け、吸収したマナによって爆裂した大魔石によって、アカネ・アワリティアはこの世を去った。そして、この次元の狭間という空間に誘われた。

「私の魔力。剣の魔力を使って作り変えて、残った魔力に乗って私の中に入ってきたってことね?」

「ええ。有難いことにね。」

ずっと、この時まで、死んだと思っていた。いや、実際死んでいたアワリティアの魂を、リデアがずっと持っていたという訳だ。

そして、ある程度魂の修復が完了し、リデアが弱っていて入り込みやすいタイミングで、その空間ごと夢に侵入。リデアの魂をさらってこの空間に連れてきた訳だ。

「本当にしぶとい。結局、何がしたいの?」

いい加減話の見えないアカネを不気味に思い、切り込むリデア。

「決まってるじゃない。」

「・・・・・・。」


「殺し合いよ。」


割と初期から生き残る予定だったアカネ姉さんが登場です。話を広げすぎて畳めなくならないように頑張ります。

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