149.【その決別は少女の過去を】
そこにいるだけで美しい。そこにいるだけで、周りの全てが昇華される。
簡素な部屋が豪奢なスイートルームに。ただの窓から刺す光が、輝く宝石のように。
全てが夜で構成される夢魔の中で、一番輝いていると言っても過言ではない。その少女リデアが、アキトの脳にダイレクトに衝撃を伝えた。
「な、なんでここに・・・」
「私はいない方がいいのかしら?役立たず?」
「いや・・・そういう訳じゃ・・・・・・」
実際、リデアのその言葉は的を得ている。
リデアは何かに応用が効くタイプ。防御力全てにステータスが振り切れていると言ってもいいアミリスタと、攻撃力の塊であるヴィネガルナ。そして、どちらにも属さない変則的な戦い方。それが、リデアの得意とする再現魔法がいる領域だ。
つまり、水竜の類をどうにかして倒すか防ぐかする作戦には、アミリスタとヴィネガルナが最適だったのだ。
「分かってる。でも、私にも、何かさせてほしい。」
それは、リデアの力強い瞳と、揺るぐことのない意思が言わせた言葉だったろう。
「アキトにやってもらうばっかりじゃ、私、嫌だよ。」
その美しき決意と眼差しは、黒竜戦という死線を乗り越えて帰還した少女にだから出来ていたのだろう。
彼女がその手でもって真意を振るう金色の刃。そんなまっすぐな、そんな鋭い、そんな美しい心。揺れ動くアキトの灯火のような物とは違う。そんな、最高の。
「アッキー、話しなよ。ボク達だけなんて言うほど、アッキー達は付き合い短くないでしょ?」
実質的な出会いからここまでの間、短い。けれども、カーミフス大樹林でのその戦いを乗り越えて、興都の滅亡をかけた戦いを乗り越えて、ここまでの間の時間は短いのだろうけれど、この少女との体感時間も、戦いの時間も、長いといっていいだろう。
「リデアは、守りきれないかもしれない。アミリスタは結界の安全な所に居られるだろうけど、お前の能力だったら」
「うん。近付くよ。そうじゃないと、うまく魔法が使えないもん。」
「だからだ。俺には、お前の身代わりになることだって出来ない役立たずだ。」
バルバロスにいるアキトには、何かの攻撃の威力をほんの少しだけ鈍らせることも出来ない。リデアの命を、ほんの数瞬遅らせることさえも出来ない。
「それなのに、戻った時にお前が居なかったら、どうすればいいんだよ。」
例えばアキトがどうにかバルバロスから出てきたとして。リデアが、アミリスタが、レリィが、シャリキアが、誰か1人でも欠けてしまったら、もうミカミ・アキトは戻ることができない。こんな所に落ちても、戻れるように足掻けるけれど、たった1つの命が潰えてしまうだけで、もうアキトは、元のアキトに戻れない。
「頼むから、大人しく、」
「アキト、私は、要らないって・・・こと?」
最後に見えた少女の泣き顔は、美しかった。だからこそ、ミカミ・アキトの心を、ズタズタに切り裂いたのだった。
「アッキー・・・」