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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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146.【遭遇。脅迫。拉致。】

歩く道、それは、1つ1つ、柱から床から全てが細かい装飾の施されている美しい建造物だった。『鳥籠』とはえらく気合いの入れ方が違う。これをシドが作ったのかは知らないが、ここまで綺麗な場所を破壊したというのには、少しだけ罪悪感を覚える。

「アイリス?」

疑問符をつけて放った少女の名前。その原因は、いきなり立ち止まったアイリスフィニカの行動だった。危うく触れてしまいそうになるが、自分から首筋をそっとなぞった。

「ば、バカッ!何してっ!」

「すまん、つい」

「ついじゃない!もう!」

おそらくシリアスな雰囲気で立ち止まったのだろうけれど、なんだかほんわかする空間にしてしまった。そのことに全く罪悪感を覚えることなく、少女の肩の先に見える暗い景色に目を凝らす。

吸血鬼の視力が人間より優れているとか、そういうことは知らないが、少なくともアキトには何かが見えることは無かった。

「何かが動いたんだ。」

そんなアキトを見て、ご丁寧にアイリスフィニカが言葉でアキトの視力を補足してくれる。

アキトは護身用の武器を持っていない。持っていたとしても超が数個つく役立たず。戦闘に関しては、アイリスフィニカに任せきりになってしまう。

しかし、そこでアイリスフィニカに任せておくことは出来ない。戦闘に関しては残念な反射神経を総動員して、暗闇を睨む。


ーーー歓迎。・・・必要。ミカミのみ。


「あ?」

耳元で響いた、と思われる音声をたどっても、そこにあるのは闇だけだった。

いや、おかしい。アキトが歩いて来た道は、少なくとも明るかったはずだ。暗くなっていたのはここから先の話。つまり、そこが暗いのはおかしい。

そして、声を囁いた主がいないのも、等しくおかしい。


ーーーここ。アカネ。上位互換。


単語のみで脳内としか考えられない場所へと声を届けてくる何者かを探してあたりを見渡すも、あるのは暗闇だけ。そして、気付いた。

あたりを見渡したというのに、アイリスフィニカの姿が見つからない。

「ッ!アイリス!」

嫌という程続いていた本の回廊さえも見えなくなった暗闇の世界で、自分があると分かるのは、一人称で確認できる自分の姿と、考えとして脳内をめぐる言葉と、その声のみ。

「どこにっ!」

だから、アイリスフィニカという少女はいない。


ーーー冷静。要求。・・・可能?


「それじゃあ、お前の正体を見せろよ。」

アイリスフィニカに教えられたように、屈縮術の使用をしっかりと行うための心構え。

どこまでも冷静に、無干渉、無感情、無関心、それくらいの気持ちでいる事。そうでなければ、確実に屈縮術の使用タイミングを履き違える。

大きく息を吐き、吸い込んだ酸素の味に落ち着きをなんとか取り戻し、ぼんやりと淡く輝く自分の周囲を見渡す。

「シド、で間違い無いか?」


ーーー首肯。異論。皆無。


見えるシドは、少女の形をしていた。

銀髪の長い髪、紅い瞳、まだ幼い容姿、黒を基調としたフリルだらけのドレス。

透き通るような銀ではなく、強い色を刻む銀髪は、美しさの暴力を脳へと叩き込んでくる。紅い瞳は反対に、ギリギリ紅いとよんでいいくらいの濃ゆさであり、もう少しだけ色が薄かったのならば、それは桃色に分類されていただろう。それら全てを含めた少女の体は、アミリスタとそう変わらない。その全身を包むドレスの大きさで少しはマシになっているのだろうけど、これが冥界王と恐れられ、大監獄、奈落の監獄と称される『バルバロス』の長とは思えない。


ーーー歓迎理由。2つ。1つ目。脱出、阻止、提案。


「脱獄しないでほしい、と?」


ーーー肯定。吸血鬼、重要。


監獄の長である少女からしたら、その脱獄を阻止する姿勢はやる気充分、賞賛に値する。が、アイリスフィニカという罪のない少女の脱獄を許さないというのなら、それは淘汰しなければならない敵だ。


ーーー2つ目。脅迫。


「ほぅ?」

自分でも声のトーンが下がったのが分かった。

この『敵』は、自分に宣言した。それが、アキトの認識。どのような脅迫で、どのようなデメリットがあるのか。それを考える隙もなく、燃え上がる怒りを押さえるために精神力の全てを動員する。

「だからアイリスをさらったのか?」

言葉の端々は震えていたかもしれないが、どうにか憤慨を抑えることに成功した。そんなギリギリの精神状態だからこそ、気づかなかったのだろう。


ーーー否定。実際、拉致中。ミカミ。


「は?」


ーーーミカミ、拉致中。


そう、攫われているのはどこからどう考えても、ミカミ・アキトだった。



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