142.【恐怖逃走】
何もすることもなく。何かをする余裕などなく。何かを成し遂げられるような力はなく。ただただ大きすぎるその力は美しく、自分の求めているものではないのかと、アキトは言葉を失った。
まだ続く剣尖と魔力の嵐。ライラによって巻き起こされる死の嵐、終わりの雨、最強の乱れ撃ち。それらの魔法問わず物理攻撃含め、レヴィアタンに直撃したものは一つとしてない。かと言って、レヴィアタンの攻撃がライラにあったかといえばない。レヴィアタンの禍々しい挙動全てに、視認することすら拒みたくなるような魔力と、恐怖感を煽る余裕がある。しかし、その中に攻撃というものはない。
ひとりでに避けていく攻撃たちを眺めて、それらに当てはまらない全てをはたき落とす。
「今日こそ!」
もう何百、何千という嵐の終わり、2人が作り出していた戦闘の旋律に、最大のインパクトを、最高に忘れられない衝撃を残そうと。
ライラを、強者たらしめている。強者として立たせている。最強にして、最大の攻撃。
全ての『愛』を。
それに呼応する『物』たちの。
特殊な例として。
先天的な才能や能力の類。それらの全てに、当てはまらない。鳴り響くは、鐘の音。
ーーーーー
「っは!」
「やっと起きた。」
全身を冷や汗でべっとりと濡らしながら、依然として治らない震えが思い出させる。あの恐ろしい存在を。
アキト如きの語彙力では表せないような恐怖という超感覚。それは、きっと地上では絶対に感じることなどなかったであろう事だ。そのせいで、多々ある恐怖でもたらされる現象を数段すっ飛ばして、アキトの意識は逃げ出してしまった訳だ。
「アイリス・・・、って、なんだ膝枕に抵抗がなくなってきたじゃないか、喜ばしいな。」
「な!?・・・これは、違っ、その!!」
ボンッと赤く顔を染め、目を回す。アイリスフィニカ。名残惜しくもその膝枕から起き上がって、クラクラとゆれる頭を押さえる。
「」
「ッ!」
全ての
全てを置き去りにして
アイリスフィニカの剣を受けてなお
ライラが、そこに佇んでいた