139.【まずはここから】
「良い感じじゃないか?普通の人が10分掛けて出来るくらいにはなったよ。」
「それに10日掛かってるようじゃな・・・。」
「さらっと嘘つくなよ。本当は12日だ。」
「ぐぬぬ・・・」
絶賛筋肉痛。むしろ慣れたため筋肉痛を超えた筋肉壊。それでも鍛錬をやり続けた。ここまで出来たのも、シドの加護で回復しやすいのと、やる事がないから。一番の理由としては、◼️◼️◼️◼️◼️◼️。
だとしても、アキトはなんとか成長したと言える。
「んじゃあ、次でラストにすっか。・・・靴縮術。」
引きしぼられる筋肉。何かが、カチリとなった気がした。何かが、引っかかった、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけ。けれど、筋肉が叫んでいた。もう、無理だと。
「・!」
暗闇に、破裂音が轟いた。
まるでジェットコースターにでも乗った後のようなとんでもない視界の動き、そして、自分でも出来たのか分からない程の速さで、
「成功だ。」
吸血鬼の少女は、呟いた。
「やっと、成功した!」
「希望を砕くみたいで悪いけど、ちょっと厄介だぜ?」
バツの悪そうな顔で視線をそらすアイリスフィニカ。アキトの中で猛烈に嫌な予感が増幅し始める。恐怖が不安を呼び、不安と安心感が共振している。そう、能力をすぐに無くすという、自分の特徴を。それがむしろ安心出来るくらい。
「アキトは、運勢型だな。」
「成功と失敗が別れると・・・」
先は読める。成功したら強いが、逆に失敗のリスクがある。というのは強者の常識で、アキトは失敗の確率が9割9部9厘で、成功したとしても大した事がない。
成功した時ですらこの痛み。失敗した時の痛みは、想像できない。
「でもまぁ、使えるようになっただけマシ・・・か。」
「ああ。」
超微力すぎるミカミ・アキトの靴縮術が、やっと定着した。
ーーーーー
「あえて、下層に?」
「ああ。このままの層には絶対に覇帝が潜んでる。だから、1回下に行く。出来れば2層あたりに。」
この暗闇の階層の中で、覇帝はどこに潜んでいるか分からない。この鳥籠には入ってこないが、今出て行けば今度は確実に覇帝の刃の前に敗れる。それは、確信ではなく事実。そんな事実が分かっているのだからわざわざ死にに行くのは笑いも失せる。
つまり、上に行くために下へと下がる。それが、今出来る精一杯。
覇帝のいない階層に下がり、さらに別の道から一気に上層へ。そして、あわよくば仲間を。ただ、リスクはかかりすぎている。
下層に更に強敵がいた場合、下層が環境的に行ける場所か、まず下層があるのか。
「分かった。」
「なら良かった。取り敢えず、お前をこの鳥籠から連れ出すことから始めようってこった。」
「う、うん・・・。」
赤面するアイリスフィニカがクッションを抱いて顔をうずめる。
きらめく血液の刃。それを、振り下ろす。