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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
136/252

133.【そんな男でも助けたい】

「何やってるんだ?」

「覇帝対策だ。あ・・・と、その・・・。ああ、作戦というか、そうい・・・う。」

たどたどしい。呂律もしっかり回っていないし、目も虚ろ。思考すらはっきりしていないのではないだろうか。

そうしてなんとか返答するアキトは、どこか虚空を見つめて頭を押さえていた。

耳鳴りが鳴り響き、鐘のような音が痛みを徐々にではあるが加速させて行く。それでも、屈縮術の鍛錬ができない以上、こうして作戦を練るしかない。

「おい!もう、やめろ!」

「・・・え・・・ぁ?」

そして、アイリスフィニカの叱責する声が聞こえた。

思考の渦に飲み込まれ、文字の風に揉まれ、そして、そして、滴り落ちた鼻血が、もう限界だ、もう駄目だと、告げていた。


ーーーーー


「っ、どうして、膝枕っ!」

「悪い、・・・でも・・・おらぁ、こんぐらいしか元気になるほうほ・・・う・・・が」

アイリスフィニカの太ももの感触に全てを委ね、酷使し続けた脳を休ませる。

ただ考え続けただけでは、ここまでのことにはなるまい。ミカミ・アキトがここまで疲弊したのは、その環境のせいもある。

こんなところに落ちて、そうして、自分は役だ立つだという自嘲と絶望の中、その怒りや不安にのしかかる体の疲れ、痛み。どれもかれもが積み重なって、限界を迎えた。

思考力が、低下している。なぜだか、どうしてだか、その脳内に渦巻くのは敵を倒す事ではない。

ーーー敵を倒すんじゃなかったのか?敵を倒さないと、ここから出られない。認めてもらえない!

考える力が、なくなっている。

どうして自分は出ようとするのか、どうして力を求めるのか、()()()()()()()()()()。それら全てを、忘れてしまう。思い出せない。

そうして、アイリスフィニカは皮肉にも、その問いかけをしてしまった。

「どうして、そこまで頑張るんだよ。」

ピタリと止まり、なにも考えていなかった脳に、なにも思い出せない脳に、その問いかけがゆっくりと浸透していく。

どうして、ここまで頑張るのか?

「お前を、・・・救いたい・・・から。」

意識が朦朧とする。もう、そこに意識があるのかさえ怪しい。それでも、問いかけられたその言葉に、意識がなくとも答えてしまう。

それほどまでに、それは大事なことのはずだ。

それでも、

「違う!アイは、どうしてアイを救おうとしてくれるのかって、そう聞いてるんだ。」

声を荒げるも、徐々にその勢いは弱まり、顔をしかめて、少女は問いを重ねた。

自分がどうなるかもわからないような所で、どうしてそこまでして救おうとできる。どうして、その心の奥底から、本心から、救いたいと叫ぶことができる。

それも、自分はそんなにも弱いのに。

「お前、寂しそうだったんだよ。」

ぽつり、と。たった一言。たったそれだけ。

「たった、たったそれだけの理由で、思考力で精霊王に匹敵するエゴロスフィニカと、勝てる見込みなんてないシドと、最強の魔獣の覇帝と、戦おうってのか?」

「少しは・・・分かれよ。お前はたったそれだけっていうけど、そのたったそれだけが、長すぎるんだ。」

孤独、不安、無力、それら全てに慣れているはずなのに、それら全てに好かれているはずなのに、それら全てに耐性があるはずなのに、どうしても、ミカミ・アキトは忘れられない。あの魔導具越しでのレリィの声を。

ほんの少し離れただけで、これからの絶望と孤独に打ちひしがれる。それを、この吸血鬼の、不老の吸血鬼の少女はどれくらい経験したのだろう。

「君を救いたい。助けたい。」

「そ、んなの、余計な」

「余計なお世話だって、それでも、俺は力ぞくでお前を連れていく。」

どれだけ救済を拒んでも、どれだけ現状維持を望んでも、どれだけ孤独に慣れていても。この少女を置いていくことを、ミカミ・アキトは許さない。たとえ、この心が壊れていなくて、この心を落としてこなくても、きっと、レリィもアミリスタもシャリキアも、アキトは救っていたはずだ。きっと、その心に宿る心は、逃げながらも救おうと足掻いたはずだ。

だから、今回も変わらない。

強引でもなんでもアイリスフィニカを連れ出して、その上の世界で、

「お前に言わせてやるんだよ。出てこれて良かったってな。」

「・・・っ!」

「そのためなら、俺は死にかけたって、死んだっていい。」

ただの決意表明。受け取り方によっては拉致宣言?それでも、アイリスフィニカの心臓には刻まれている。

アイリスフィニカは確信するはずだ。ミカミ・アキトを、選ぶはずだ。


ーーーーー


その後、意識を取り戻したアキトに、決意表明の記憶は無かった。

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