130.【その最弱の渇望『力』】
今回も短いです。すみません。
「やっぱり、ちょっと迂闊すぎたかもしれないな。」
アイリスフィニカに作り出してもらったクッションに頭を乗せ、四肢を投げ出したアキトが呟いた。
看守の役割を果たすはずの魔獣が、どうもあんな所に居座ってアキト達を待ち伏せしていたとは思えない。つまり、反抗の意思を悟った、シドや何者かによってその魔獣は派遣されていたのだろう。
「大分前だけど。あいつは魔獣の中で最強だった。もちろん、ここじゃなくて地上で。奴は天上の魔獣だから。」
「つっても、どうしてもあいつの見た目が無理なんだよ。」
滲み出る卑しさのオーラと、妙に人間じみた言動。なにより、獣の寄せ集めのような体の中で唯一、その魔獣の腕は人間そのままだった。なぜだかそんな生々しい魔獣の見た目に、アキトの嫌悪感が強くなっていた。
「覇帝、か。」
かつて魔獣の頂に君臨していた最強魔獣。
このバルバロスから脱出しようと望むのならば、それは幾多の淘汰を為し得なければならない。
この恐怖を淘汰し、覇帝を淘汰し、干渉してくるかもしれないシドの淘汰。なにが、この中で簡単だろうか。
形式的になってしまっているが、この異世界を生きてきている中での4度目の試練では、精霊王と存在的には同格の『冥界王』シドと戦わなければならないかもしれない。
「アイリス。俺に、戦い方を教えてくれないか?」
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「東の番人、東・ドレフ。西の番人、西・グレン。北の番人、北・イルターン。南の番人、南・シギル。当時、その東西南北での最強だった4人で集まって、上と下。要は、精霊王と冥界王に勝ちたいって理由で、新たな技が作られた。」
「新たな、技?」
方角の番人達が集まり、作り上げられた新たな技。
そこまでしたとしても、そのバルバロスがある時点で、聖約が天に通じる時点で、その4人の目的は叶わなかったとわかる。
「まあ、結局は未完成で終わったけどな。それでも、アイはこれを超える身のこなしを見たことがない。」
そう言って、少女はアキトに対して半身の姿勢を取り、息を吸った。刹那、映画のフィルムのように流れる世界の流れの間で、そのたった一瞬で、アイリスフィニカの手刀はアキトの眼前にあった。
ノーモーションからの超高速行動。これを、アキトは目撃したことがある。そう、それは。
「捕まえた。」
「え!?」
と、そんな思考の渦にいても、アキトはアイリスフィニカの視界に入っても反応できなかった手刀を受け止めた。驚くアイリスフィニカ。当たり前だ。なんの力も持たないアキトが、そんな動体視力や反射神経を持っているはずがない。それなのに、アキトはその手刀をいとも容易く受け止めた。
「そうか、これが。屈縮術。」
アキトは、見たことがある。アイリスフィニカのように、鍛錬してそれを身につけたのではなく。掴み取って、発案した人間の技を。本家の、正真正銘の、本気の技を。
「し、知ってるのか?」
「ジオ・グレン。俺はそいつと、戦ったことがある。」