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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
132/252

129.【復活の脈動】

執筆したものが保存できなくて少し短いのが続いてたんですが、今日はなんとかなりました。

「ど、どうして・・・!」

血液の刃。それは、連続攻撃を前提とした低威力の斬撃だった。数で押し切る双剣の、そういう一刀だった。当たったのはそれの初撃。ただの弱い一刀。それでも、その会心の一撃でもなんでもない一撃が、その最弱にとっては、防ぐこともかわすこともできないクリティカルだった。

「あ・・・がっ!」

倒れこみ、闇に映る漆黒に向かって、喉の張り裂けそうな痛みとともに血を吐き出した。もとより、その胴体をかける一筋の傷に、どうやら体は痛覚を寄越している余裕はないらしい。なにせ、その最弱の体には、魔力なんて一欠片も残っていない。魔法力だって、戦闘力だって、技術力だって、才能だって、能力だって、恩恵だって、福音だって、知識だって、何も持っていない。

ここにきてから幾度となく苛まれてきた無力感が襲い来る。ここまでで忘れたことのない理不尽への怒りが、一層強く根付く。ここにたって叩きつけられる冷たい現実に恐怖を覚える。

なくなっていく血の感覚が、やけに心地よく感じる。

テスト前の一夜漬けで、楽しくもないのに徹夜して、いつもなら寝たくないのにどうしてだかそういう時はその睡眠が極上の時間に感じるような。何もかも投げ出して、死んでしまいたいというような。自暴自棄?自分勝手?それでも、もう、無理じゃないか?

ずるずると、負への感情へのループが始まる。湧き上がって来るその理不尽達への怒り、恐怖、劣等感。そしてまた、理不尽が襲い来る。

なにかの力を持っているわけじゃない。特出した特技を持っているわけではない。無尽蔵の運を持っているはずもない。

なにも持っていない。物理的にモブキャラの方が強い。それでも、誓ったはずだ。

これまで、こんな負の連鎖に打ちのめされた時に、無自覚ながら助けられた少女達のことが、ゆっくりと頭の中で思い出された。

そうだ、誓ったはずだ。きっと戻ると。

「あい・・・り・・・す・・・」

その上の世界へと戻って、レリィの優しさに、アミリスタの愛情に、リデアの暖かさに、シャリキアの愛らしさに。

触れて、触れて、触れて、生きていくんだと。

「俺を・・・俺の血を、・・・」

「・・・い・・・いいんだな!?」

瞳いっぱいに涙をためて、堪え切れない不安に身を震わせ。アイリスフィニカは唇を噛んだ。

覇帝のなんらかの能力、はたまた魔法、特性。それによって、アイリスフィニカの斬撃はアキトへと矛先を向けた。

「残っていてよかった。」

アイリスフィニカの口の端から覗く艶かしい牙が見えた。曖昧模糊な意識で呟いた一言、意識が落ちる。その一瞬だけ後。アイリスフィニカはアキトの首筋に牙を突き立てた。今度は吸血目的ではない。それは、弱点とともに薄れつつある吸血鬼の力。

「お前が私の、従僕だ。」

絶対の命令死守を定められる代償に、その化け物の眷属となる力。

ミカミ・アキトの首筋にキスをして、その吸血鬼の従僕となったアキトの出血は、そこからしばらく続いた。


ーーーーー


「すまなかった!」

「いや、大丈夫だ。俺もすまなかった。ここまでしてもらってよ。」

アキトの断割されていた体。傷は深く、痛みは強く、世界は遠く。けれども、出血は止まり一命はとりとめた。それもこれも一重に、アイリスフィニカの吸血鬼としての力。眷属を定める力のおかげだろう。

「アイのその力、初めて使ったから多分力が普通より凄く弱い。だから、切り傷の自動治癒と、アイの命令の絶対遵守だけが恩恵だ。」

「それだけ聞くとあれだな。」

アキトの実力不足から起きたものなのだけれど、その吸血鬼の力は少々理不尽だな、とアケディアたちに課した命令を完全に忘れているアキトが内心で苦笑した。

「自動治癒も、その傷を治すために急がせたから、多分もう使えない。」

ですよねー、と内心で大声で叫び、ぐったりと尻餅をつく。

実力がないから、というのは分かっているけれど、この能力を簡単に自分のものにできないのと、せっかく使えるようになってもすぐに使えなくなってしまうことに悲しみを隠せないアキトだった。

吸血鬼化、と言っても、吸血鬼っぽい何かになったアキトが出来なくなったのは、アイリスフィニカの命令に背くことだ。まさかデメリットしか残らないとは思わなかった。それでも、とりとめた命をこの少女のために使おうとするのは変わらない。

焚べた決意の薪を自分で燃やすことくらいならできるようになった、と。覇帝攻略にはなんの成果にもならないものを、ミカミ・アキトは手に入れた。


ーーーーー


レリィ・ルミネルカのその姿の豹変に、誰もが気づき誰もが驚き、そして誰もが活力を取り戻した。

リデアはアキトを迎えるために興都の立て直しに向けて奔走し、アミリスタはバルバロスから出てきたアキトをどうからかってやろうかとほくそ笑み、シャリキアは待ち人の帰還に胸を高鳴らせ、レリィは足りぬ興都復興要員に急遽参加。

ウドガラドが、アキトが、遠く離れた、その貫通口でしか繋がっていないその弱々しい関係が、互いに立ち上がる。

『屈縮術から、かな。』

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