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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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124.【嵐の前の静けさ】

微睡みの意識の中で、今日もまた1人なんだ、もうこの罪という孤独とは、離れられないのだ、と。アイリスフィニカは沈む心で呟いた。どんなに嘆いても、この暗く広くただただ冷たい世界では、この孤独が消えることはない。

じんわりと、なにか暖かいものが胸を満たしている気がした。そうだ、もう、独りじゃない。

アイリスフィニカの思考をぶち壊して、アイリスフィニカの絶対的な決めつけを叩き割って、アイリスフィニカという少女だけを孤独から救い出そうとしてくれる。そんな少年に、そんな無欲な男に出逢ったのだと自覚して、アイリスフィニカは軽い足取りでベッドから降りた。

アキト用にも毛布を用意して作ろうかと言ったが、アイリスフィニカのその温情を、少年はやんわりと断った。

よく見れば、近くに少年の姿がない。昨日ならうるさいくらいだったのに、どうしていないのだろう?もうしかして、いつもみたいに、いなくなってしまった?そんな不安と焦燥感が心を焦がし、痛みを帯びる心臓が、涙に潤む瞳が、震える四肢が、絶望へと叩きつけられた。

ひたり、と。涙がつたい地面で弾けた。

「なに・・・泣いてんだ・・・?」

「え・・・?」

暗闇の奥から、汗まみれで盛大に目元に隈をつけたアキトが歩いてきた。

不思議そうに、けれども、その少女を元気づけるように、不器用な少年は、心の芯から少女に大丈夫だと伝える。

見れば、アキトの手には金の剣が握られており、美しい紋章と輝いている刃から察するに、相当価値があり、相当腕の立つものが使うものなのだろう。アイリスフィニカからすれば、そう考えるだろうが、残念ながら、それはただの最弱である。

「それは、あなたの顕現魔法?」

そう問いかけるアイリスフィニカに、アキトは唖然として、言う。

「俺は魔法は使えねぇよ。ついでに戦闘能力も皆無だ。これは、なんつうか、俺の為にずっと前から眠っていた?みたいな武器だ。」

慣れた手つきで柄を持って、バドミントンラケットと同じ要領でくるくると回す。失敗した時の犠牲と重さが桁違いだが、一晩中そこで鍛錬というか剣で遊んでいたアキトには、慣れたものだった。

「ていうか、お前は顕現魔法が使えるのか?」

「・・・。そんな高等魔法は使えないよ。アイは吸血鬼だから。」

「吸血鬼・・・?」

「あ!」

しまった、というような表情でアイリスフィニカは口を押さえ、既に遅い動きをする。ツインテールが震えており、アキトからなにか言われるのが怖いというのは簡単にわかった。その少女とて、吸血鬼ということをずっと黙っておこうと思ったわけではない。けれども、こうまですんなり言ってしまった以上、もう言い訳はできまい。

「この世界にもいるんだな。吸血鬼。」

「・・・・・・怖がらない・・・のね。普通怖がるでしょう。血、吸われるかも知んないのに。」

恐る恐る、と言った感じで、アイリスフィニカはアキトの表情を見る。想像していた恐れの表情ではない。いつもどうりの、むしろ少し楽しそうな瞳で、その黒瞳はアイリスフィニカを射抜いていた。

「んで、吸血鬼は顕現魔法が使えないのか?」

「・・・ううん。アイは、血を吸った人の血を操れる。それで武器を作るから。余計な魔力を使う顕現魔法は使わないんだ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

と、そんな事をアイリスフィニカが言えば、アキトの表情は曇り、多少の迷いの後、どうせここバルバロスだし理論が展開。勇気など捨ててアキトが疑問に斬り込んだ。

「俺が落ちてきたときに動けなかったのって、もしかして天上の星紋とかじゃなくて・・・目をそらすな!」

さっと目を逸らしたアイリスフィニカ。アキトの予想は的中し、アイリスフィニカがアキトの血を吸った事が判明した。

どこかに噛み付かれた後があるのでは?と探してみて、吸血の王道ポイントの肩を見て見れば、右肩に小さな突き刺されたような傷があった。

「ご、ごめん、逃げられると思って、つい。」

「別にいいんだけどよ。」

鞘のない少し不便な剣をバルバロスの床に突き立て、どさりと地面に寝転がった。眠れずに剣を振るっているうちに、それが楽しくなり、全く身にならない。むしろ剣の腕を落とすとわかっていても、一晩中その剣で遊んでいた。心身ともに限界。おぼろげな意識の中で、アキトは瞳を閉じた。

「抱き枕にでもさせてくれないか?」

「ッ!!ば、バカじゃないの!?本当に、ほんっとうに!」

まぶた越しに聞こえる声。見なくてもわかるが、きっと少女はとんでもない勢いで赤面し、ぶんぶんと腕を振り回しているだろう。

どうせできないと分かっていて言ったのだ、とりあえずその可愛い反応に満足し、アキトは意識をゆっくりとフェードアウトさせようとして。自分の胴体に当たる柔らかい感触にん?と聞き返した。

おいおいどうした感覚よ、極限状態過ぎてバグったか?とまぶたを開けると、真っ赤になりながら、涙目でアキトを睨む少女と目が合った。

「案外まんざらじゃなかった感じ?」

「ん、な訳ないでしょ!ただ、ちょっとぐらいならって思っただけで!」

「そうかいそうかい。」

非常に心地よいBGMと、横でモジモジと落ち着かなそうにしている少女の感触を堪能して、アキトは深い眠りについた。


ーーーーー


「危ないところだったね。」

「すまない。奴を見誤った。」

ボロボロになって砕け散った剣が地面に落ちたのを見て顔をしかめ、横腹にあったはずの血肉の喪失にため息をついた。

白く、白く、白い。その空間の中で、唯一の異物。自分でもそう称したくなるほどの白く明るい空間で、グレンは相対していた。

282と。

次回試練スタート。

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