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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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123.【削除】

もう一度。力を貸してはくれないか。

もう君に、もう君に、辛い思いはさせないと、そう誓って、唇を奪ったけれど、もう一度だけ、その力を貸してくれないだろうか。

こんな未熟で、醜くて、小賢しい自分に、笑いかけてくれた少女に、そして。

ーーーーー

「・・・」

「っ!」

静かなグレンの驚愕の息の根を心地よく聞き、眼前の麗しい最愛の少女に笑いかけた。そして、優しい口づけをした。

絶対的に隔絶したその能力差を埋めるために、その少女は駆けつけてくれたのだろうか?そんな想像を好ましく思い、溢れる力をゆっくりと蓄えていく。

「それは・・・、」

影の世界。それは、選ばれなかった人間の末路だけが生まれる、生きる世界。この正真正銘現実に生ける人間全員が、問答無用で2人目の自分を影の世界に創り出せるわけではない。一個人の能力で、そんな世界を創り出せるはずがない。だから、その影の世界は狭いと言っていい。無論、物理的に。

そんな前置きをおいて何が言いたいのか。それは、質量的ではない話。強さを手にした者は、必ず最善の選択をしてきた。つまり、影の世界の人間たちは、弱い。比例して、バルバロスでさえも小さいと表現できるほどだ。だから、カガミの世界とミカミの世界では入り口の多さが違う。

そんな世界での最強が、こちらの世界で最強になり得るのかと問われれば、頷くことはできない。

「巡り巡る魔を鍛え続けて、荒々しすぎる刃とする、見えない砲台。」

アイネスの魔法によって強く鍛えられた魔。それを刃へと昇華させる放出機。ただの1人も、それが砲台というとんでもない兵器だと、気づけなかった。それ故、まるで影のような砲台だと、つづりは称した。

使用することすら難しいそれを軽々使いこなすつづりにとって、その影の砲撃は、最強の一手。

魔導具『影砲』は、つづりにしか使いこなすことができない、つづり専用の、最強の魔導具だ。

影の世界の最強ごときが扱えるはずのない、そういう力だ。

「282!」

削除(フルマナ・ガロン)

黒く禍々しい魔力が霧となり、深く塗り固められた漆黒の霧が渦となり、洗礼された闇の渦が形を作り、引いた拳に黒く纏われた。

白い紋様と深い黒、幾何学的な光を漏らして、空間が、削除された。

「っ!!」

通常攻撃。それは、ただ殴っただけ。手加減を抜いて、殴っただけ、それだけで、その空間自体が削除されてしまったかのように消え、残った土埃すらも、そこには立ち入ろうとしない。

「逃げられたか・・・」

「逃げられたかじゃないでしょ?」

そう言って、アイネスが優しくつづりを戒めた。可愛いげんこつつきで。それに苦笑するつづりは、この惨状とも戦場とも言える無残な状況を作り出したとは思えない。そんな夫婦のイチャイチャのような雰囲気の中で、どうにも馴染めないラトラフィフスがため息を吐いた。

「すまんな、ラトラフィフス。お前の魔力も使っちまった。」

「いいさ、あんな化け物相手に戦うなんざ、俺にはできない。」

倦怠感を鳴らすように呟いたラトラフィフスとつづりは、このまま迷宮へと入り込める状態ではない。まんまとグレンのしたいようになってしまったわけだ。けれどもまぁ、その優秀な少女はいるわけで。

「・・・」

驚くほど簡単に、アイネスはアキトの愛用武器候補の、時を超えて受け継がれた剣を、混沌の大穴に放り投げた。


ーーーーー


「かっこいい、か。」

赤い少女は眠りにつき、アキトはなぜだか眠れずに起きていた。

監獄と言っても、その囚人であるアイリスフィニカは女の子だ。暖かそうな真っ赤なベッドで眠っている。一緒に寝てもいいかと聞いてみたものの、ドン引きするでもなく恥ずかしがるわけでもなく、その少女はやめたほうがいいと言った。きっと相当寝相が悪いのだろう。そんな投げやりな思考で自分を落ち着かせ、空から微かに降る光を見た。

外はもう夜。落ちてくる光は282番貫通口を照らす照明だろう。眠れないアキトにとっては、非常にありがたい光だった。

どうして眠れないのか。そんなの、こんな所に落とされたからに決まっている。自分から選んだにしろ、どうしてこんな所に、と、そう考えてしまう。

レリィは、リデアは、アミリスタは、シャリキアは、ヴィネガルナは、ファルナは、ウルガは、ラグナは、アリタルカは、考え出したらきりがない。ここに落ちてから、その声はアキトと話すことができていない。なにも、上のことを知る術はない。

しょうがない。アキトの望んだ希望終末が実現できていたなら、アキトが望んだ希望終末を実行する力があれば、そんなハッピーエンドになりきれないバッドエンド間近の終結には、ならなかった。

所詮不可能なのは知っている。自分ができなかったことを悔いて、できたはずだと言うのは意味がないと、アキトは知っている。一度できなかったことはそれまで。時を遡って何度やっても、無理なことは無理だった。当たり前だ。できたはずだ、なんて言うのは、できなかった人間の言い訳だ。

だからだろうか。金の剣を手にして、光に照らされて。少年は、決意を宿した瞳で少女を見た。

「ごめん。お前と一緒にここで暮らすのは、無理だ。」


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