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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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120.【絶望の中の微かな希望】

「死亡率が高いっていうより、アイが見逃してる数が多いんだと思う。」

そっとアイリスフィニカが目を向けたのは、鳥籠の鉄格子。一本一本に細かい幾何学模様が走り回っており、それが砕かれた後のものだと遅れて気づいた。このアイリスフィニカに出会ったものたちは、上での鬱憤を少女にぶつけて、自分勝手にそうして鳥籠からでていった。それを、上の奴らは都合がいいと判断してここを主な投獄場所にしたのだろう。

それが、酷く残酷なものだと知らず。

「落ちてきた奴を殺すんじゃなくて、バルバロスの中に解き放ってるってことか。なんか結局バルバロスに囚人がたまってんだな。」

「安心しろ、こんな牢より大きな城レベルの檻を作っても、ここの広さが捕らえられる者の数を上回る。」

「うんざりするな、そんな広さ。」

思わぬ奈落の監獄の広さが嫌になり、つい苦笑した。よく考えれば、こんな薄暗いジメジメした漆黒の空間が、ここから無限に続いている。うんざりする。

「まぁな。こんなに広くても、ここはまだ第1層だ。」

なぜだか得意げに話すアイリスフィニカは、どうしてだか話す事がとても楽しそうに見えた。なんというのだろうか。まるで、こうして話したことが初めてだというように。

どうしてそこまで人と話すことがなかった?バルバロスに、いたから。こんなところで、こうして話をすることなんてないはずだ。なら、

「それよりお前はどうしてここに?」

自然に、口をついてでた言葉だった。この質問で傷付けるのは怖かったけれど、それを知らないでこの少女を分かったつもりになるのはもっと怖かった。どうせここで命を終えるのだから、少しくらい冒険をしよう。

「あい・・・か?」

「そうだよ。」

おずおずと自分を指差す少女は、なんというか。悲しさというより、自嘲という感情が強いように見えた。

「アイは、憎まれてたんだよ・・・。兄さんに。」

「兄さん?」

遠い目をして、アイリスフィニカは語る。

「アイの兄、エゴロスフィニカ。あの炎の夜に、兄さんはアイが、ずっと孤独でいる呪いをかけた。」

「呪い。このバルバロスで孤独に生きるのが、お前にかけられた呪いなのか?」

「そうだよ。だから、アイはずっとここにいる。それくらいの事をしたんだもん。」

呪い。孤独でいる呪い。

アキトが思う事は、その兄の性格の悪さ。きっとこのバルバロスで孤独にさせるだけではなく、その闇の中で、たまに落ちてくる人間とこうして話せるのでは?という期待をさせるのが目的だったのだろう。絶望の中で希望を見せて、そうしてその希望をぶち壊す。いつかアキトがシャリキアにした、最悪の呪い。

「俺みたいに、お前と話す奴はいなかったのかよ?」

「いないよ。自分が死ぬ時、人間は1番正直になるんだよ。ここに堕とされる奴らは、みんな素でアイに手を差し伸べられるような奴なんていない。」

「・・・・」

「助けてあげても、何かを教えようとしても、皆んな暴言を吐いてどこかに消えてしまう。ここは、そんなゴミが落ちるところだよ。」

その言葉に、どうしてか反応してしまった。無論、アキト自身ではうっすら分かっているが。

「っ・・・・・・。」

「べ、別にお前に言ってるんじゃないよ!ほら、これまでの経験とおんなじじゃないって事を」

「いや。合ってるさ。俺は、上にいる奴らの悲しんでる顔を、俺が見たくないって言う理由のために落ちてきた。俺が落ちて悲しんだとしてもいいから、俺の前で悲しまないでほしいって、そういうエゴで、俺は落ちてきた。」

そう言えば、アイリスフィニカは呆然として、

「エゴ・・・。それじゃあ、アキトは、その子達を悲しませないために落ちたの?」

「簡単に言うとな。」

「アイはなんの事情があるのか知らないけど、それって、悪いことかな?」

そんな事をいった。

「え?」

「その子達を悲しませたくないから自分が犠牲になった。それって、言い方変えるとすごく悪く聞こえるけど、よく考えると、かっこいいよ。」

「そ・・・・れ・・・・って。」

いつか、聞いたことがある。アミリスタが、こうして自己嫌悪に陥るアキトに、そうやって優しく叱ってくれたじゃないか。それは、君が状況を作ったと。バルバロスに縛り付けられている憐れな少女は、知っていた。アキトという人間の本質を見抜く心を。


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