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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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115.【愛と愛】

「俺を殺すつもりはない、と?」

「そうだよ。」

赤髪を揺らして、なぜだかとても楽しそうな少女が、素っ気なく返したつもりの声を受け取る。

ーーーめっちゃにやけとるやん。

内心そう呟いて、俺は微かな安心感に息を吐いた。ゆっくりと肺の中から世界に放出される空気に、溜め込まれていた不安や絶望がはいっていた気がした。胸が軽い。その赤髪が、とても綺麗で。

「なんで泣くんだよ!」

一筋の煌めく雫が、俺の頰を伝って無機質な床へと弾けた。急に泣き出して、まるで子供みたいな俺に、まるで泣いてる人を初めて見たとでも言うようにその少女がオロオロしている。

しょうがないじゃないか。絶望と不安を吐き出して、冷静な思考ができるようになってから、その冷静な思考と嫌な想像力がずっと訴えかけてくる。どうしてこの女を信じる?どうしてこの迷宮で安心できる?お前に涙する資格なんてあるのか?どうしてお前はそこまで弱い?自分から罪を被ったんだろう。あの少女たちが望まないと分かっていて、それでも、少女たちの傷つく姿なんて見たくないと言うエゴで、お前は犠牲と言う名の逃げ道へと駆け込んだ。

ああ、そうさ。そうだ、傷つく姿なんて見たくない。あの少女たちが泣いている姿なんて、喋らないただの肉の塊になるのなんて、見たくない。だから、俺が堕ちてしまった後でも少女は悲しむと分かっていて、自分の願望にすがった。偽善とか、そういう生半可な事じゃない。本当に、ただのエゴ。

なら、どうすればよかったんだ。

溢れ出す涙は止まらない。伝う水滴は勢いを増す。

「仕方ねぇな。」

ふ、と。柔らかなものが体を包み込んだ。暖かい抱擁が、その哀しみをなくそうとして、不器用な思いやりが心に染みて、また涙の量が増えた。

「ぐずっ、な・・・んで」

顔を上げることなんて出来ないから、その暖かさに包まれながら、嗚咽交じりに問いかけた。どうして会ったばかりの俺を慰めてくれて、どうしてそんなに心優しいのにここにいるのか。涙を止めようとして、少女と目があった。

本当に、心配している人間の目だった。俺のエゴとは違う。本当に、正真正銘、この少女は今、俺を慰めようとしているし、泣きやませようとしている。

「なんでって、いきなり泣かれたら、あれだろ・・・いろいろ」

言葉を濁す少女。いきなり泣かれて少しショックだったのか、俺に気を使っているように見える。けれど、涙を止めたいと言う意思だけは、どうしようもなく本物で。

俺はそのまま気がすむまで、その少女の優しさに甘えていた。


ーーーーー


「すまなかった、色々と。それと、ありがとう。素晴らしい感触だった。」

「お前!もうなんか諦めてるから心の声を隠そうとしないな!」

確かに、どうせ死んじゃうなら爪痕残そうと言う精神で、自分を偽るのなんてやめた。ここでそんなことしても、無駄だ。

「その・・・あの・・・、嫌じゃ無かったら・・・だけど、どうだ?アイと一緒に、ここで暮らさないか?」

「俺今プロポーズされてる?」

「違う!バカじゃないのか!?」

なんだかそんな感じの事をちょっとばかし前に聞いた気がするのだが、まぁいいだろう。

それでも、ここまでバルバロスで生き抜いてきたこの少女にこうやって守ってもらって、一緒に暮らさないかと誘われて、それはとても、甘美な誘いなのでは?

でも、エゴで落ちた先で、自分だけのうのうと生きて、その少女たちに哀しみを背負わせ続けるというのは。

「嫌、か?」

「よし、今日からよろしく。」

いや、そんなに悲しそうに『嫌、か?』とか言われて嫌とか言えるわけないでしょ。こんな可愛い子がそんなことしたらもうヤバイ、俺が通常の心持ってたらノックアウトもんだった。

熱い頰に触れながら慌てて言うと、少女は花が咲いたようにはにかみ、

「ああ!よろしく!」

嬉しそうに言ったのだった。


ーーーーー


「アキトさん・・・」

1人、思い続けた相手の部屋で、私はそのベッドに横になりながら、唯一残っている彼を感じられる場所で考えていた。

もし、私が勇気を出して告白して、アミリスタさんからもそう言われていたら、アキトさんは残ってくれたんじゃないのかな。

興都防衛により出た被害を、全て自分1人で背負い、その身をバルバロスへと消えていった最愛の少年。

この部屋に、なにかメッセージでも残していないかな。いつか帰ってくるとか、いつかまた会おうとか、安心しろとか、そんな、いつものアキトさんみたいに慰めてくれるようなメッセージが、残っていないかな。

本当に期待してもいいのなら、そんな事を考えていたけれど、叫び続けて潰れてしまった喉と、泣きすぎて乾いてしまった涙と。こんなに叫んで泣いたのは、ユルド様が死んでしまった時以来じゃないだろうか。

それぐらい、アキトさんは私の中で大きな存在で、それぐらい私にとって必要な存在で、それぐらい私は、アキトさんが好きだった。

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