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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第3章【その血族は呪いに抗う】
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114.【無欲な男】

「っ!!」

動けない。何をしようとしても、どんなに言葉を発しようとしても、その体は動いてはくれないし、絶望は無くなってくれない。

まるで全身が凍ってしまったかのような感覚に瞳を向ければ、自分の体には何もなく、ただただ普通。何かに阻まれている様子も、何かに押さえつけられている様子もない。

強いて言うのならば、超絶美少女の赤髪ツインテールがいることぐらいだろうか。


ーーーーー


ぽつりと1人。いつからか、数えることさえやめてしまった。1人でこうして毎日鍛錬をして、一体どれくらい経った。

バルバロスに堕とされた人間は大体が極悪人。そして、堕とされれば最後、命の保証はない。つまり、死にたくないという感情が後押しして、自分を取り繕うことなんてしなくなってしまう。全ての行動が、自分自身の全てを表している、嘘のない感情が、簡単に溢れ出る。

だから、たまに人が堕ちてきても、大体は八つ当たりをして、悪感情を全開放している。このバルバロスはそんなところ。

だから、一緒に何かをすることなんて、ここに堕とされてからはあるはずがない。


さて、今日堕とされてきたやつは、どんな悪態を吐くのだろう。どんな目で睨むのだろう、どんな怒りをぶつけてくるのだろう。どんな期待を、持ってくるのだろう。


そして、その男が目を覚ました。

能力を解いてやる。動かない体が動くようになったことに驚きながら、期待を胸に抱えるアイに言った。

「可愛い。」

沈黙が落ちる。唖然として声も出ないアイでも、やっと理解出来始めた。そう、この男は、可愛い、とそんな事を言った。

「は、はぁ〜〜〜〜〜っ!!」

ーーーーー

赤髪のツインテールにそう言うと、顔を真っ赤にして叫ばれた。やばいどうしよう。あっ、でもどうせ誰も見てないしいいや、どうせ死ぬし最後に正直になろう。

正直に言う。

「あ、照れた。」

「照れてない!」

やばいどうしよう、叫ばれた。あ、いいや、ここ監獄だし。別に死ぬし正直に言おう。

興都だって守ったし、アケディアたちもいるし、敵も倒したし、レリィたちには敵なんてないだろうし。ただその幸せな生活に俺が加われなかっただけだし。

そう考えただけで、堪え難い哀しみが瞳を潤ませた。

「殺さないのか?」

目の前の紅い少女にそう言うと、なにかに驚いたような顔をされた。正直なんでだかわからないが、「こんな所にいるんだ殺したいだろ」多分。

「アイはそんなに凶暴じゃない!」

「やべ、声に出てた」

まぁ、いいやどうせ死ぬし。俺は正直に生きるぞ、死ぬまで。好き放題して死ぬんだ!

「なんだか、お前の考えてることがわかった気がする。」

「?」

ーーーーー

この男は、もう死ぬ事が分かっているかのように振舞っている。分かっている。こんな所に堕とされたのだから、死ぬと言う事を分かっている。つまり、これが、この男の素の性格。

全てに当たり散らして理不尽に叫ぶんじゃない。こうして、大人しく、誰にも迷惑のかからない位に無欲。こうして素の表情がこんなに穏やかな男を、アイは初めて見た。

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