112.【さぁ、次のステージへ】
予測されていた興都襲撃が行われ、初戦ですぐに最大戦力の一角がいとも簡単に倒された。次元の違う強さを持つカガミ・アキトと、イラ・ダルカによる襲撃の初戦。その絶望にまだ戦えると争い続ける者たちが、周りのものを巻き込んで終結させた。この興都襲撃事件は、そういう物語。
当初から目標としていたシャリキア救出のため、絶対に役に立つと言われていたアミリスタとともにラグナと遭遇。アキトとアミリスタ、ラグナとシャリキアという戦闘が始まった。激闘の時間稼ぎをアミリスタに任せ、アキトはひたすらに戦略を考える。水の立てるゆっくりとした音を聞きながら思いついた突飛な策を使うため、アミリスタとともに戦線を離脱した。
そして、後にアキトにとんでもない驚きをもたらす発端となったあの出来事があり、アキトは1人で飛び出した。
ラグナに講じた策。それは、水没させた部屋の中で魔力を打たせ、その魔力によって水蒸気とガスを作ることだった。魔力によってできたその水蒸気とガスは、何倍にも膨れ上がり、部屋の中に充満した。簡単に言えば、その部屋の中にはラグナの魔力が充満していた。操作しきれないほどの。アキトを追撃するために魔力を炎と雷に変えた時、空中に水蒸気として舞っていた炎の魔力と、ガスとして顕現していた雷の魔力が同時に発動。ラグナの周りの魔力が突然発火、落雷を起こし、ラグナは自分の魔力で倒れた。
ラグナを治療しに戻る一方で、皇城に襲撃に来ていたアケディアたちをどうにかいなし、皇城の中にエリアスは巨大なシェルターを作り上げた。このおかげで、死傷者は大きく減少した。
アミリスタとともにリデア、ヴィネガルナと合流したアキトは、イラとカガミに襲撃される。必死に抵抗するアキトからの攻撃を、カガミは防ぐだけで、全く反撃しなかった。アキトが何の傷も負わせられずに絶望の渦に飲み込まれている時、アミリスタからの叫び声で自身の世界を思い出す。アミリスタの聖約、アキトといる時以外は魔法が使えなくなる代わりに、アキトといる時は魔力を受け取り続けられるというそれのおかげで、カガミの全力魔力放射を耐えきり、イラを殺すために第五都市区を巻き込む準備を始める。
ファルナに転送してもらった第五都市区は、既に戦いの準備が済んでおり、それは貴族から雑兵へと成り下がったダリア・エリセンも同じだった。ダリアたちの命の咆哮を受けてなお、イラに倒れる様子はなく、第五都市区総戦力はものの数分で消え失せた。
その負の連鎖を防ぐため、アキトはまた戦略を練り出す。そこで、ヴィネガルナとの戦闘中のイラから妙な点を発見する。その点から、能力を発見、異世界水道の事を思い出した。
作戦実行を行うためには退避が必要、けれど、そこでヴィネガルナたちだけで戦わせるのには戦力が足りない。現れたのは、この興都戦線では絶対に起きることはないと迄言われたラグナだった。禍々しい顕現魔法は美しい翼となり、その刃をアキトたちへと差し出した。
ラグナの参戦に感謝しつつ、アキトはアンナとともに右翼都市区の地下迷宮から貴鉱石を取り出すことに成功した。そして、伝言を伝えて欲しいと送り出したアミリスタは、イラとヴィネガルナたちを中央都市区へと誘導させることに成功、イラとカガミは中央都市区の城前広場で対峙した。
イラの背後から現れたヴィネガルナが圧倒的な魔力を含んだ貴鉱石を砕き、又しても世界は魔力の充満する戦場を作り出した。その魔力を空間ごと吸いながら、徐々にバーサークの中に魔力がたまっていった。その魔力がたまり、暴発しないように、バーサークは機能を停止した。バーサークを失ったイラたちの戦闘があったその広場に、アキトの姿は無かった。
アキトは、カガミから派遣された刺客、怠惰の元へ走り、アルタリカから受け取った塗料でカガミのふりをした。容姿、声、性格まで似ているアキトを見分けられるはずもなく、理不尽な聖約によって怠惰を仲間に引き込んだ。そして、ベルフェゴールによって突破口が文字どうりぶち開けられた。
中央都市区の地下には、天に向かって刃を掲げる剣がある。それを分かっていた。だから、ヴィネガルナの限界突破魔法の力で最後の猛攻を仕掛けた。ヴィネガルナ、ラグナ、そしてアキトの最後の一撃によりイラは落下。油断していたためその剣に突き刺され、イラ戦は終結した。
そして、舞い戻った興都の中で、カガミ・アキトとミカミ・アキトの戦いが勃発した。その紅蓮の闘争が、興都中に響き渡り、風の貫く血肉が舞う。エリアスから繋がれたバトンを掴み取り、紅蓮の炎を踏んだ。金の刃がきらめく。斬撃の音を最後に、興都戦線は終わった。
ダリアは誰にも嘆かれず、エリアスはそれに手を合わせた。人々は死に、秩序は壊れていった。それでも進むこの世界で、その最弱は求め続ける。少女たちを守る力を。
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「しっかりしろよ。アイにはそこまで待ってやる義理はない。」
その最弱は、次はどんな試練にぶち当たるのだろうか。そう考えて、思わず『それ』は頰を緩めた。
ーーー楽しみだな。
次回、第3章【その血族は呪いに抗う】開始。