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前身・その最弱は力を求める  作者: 藍色夏希
第2章【その最強は世界を求める】
109/252

107.【そして最弱は最強に挑む】

『俺たちは、さっきの爆発の正体を知っている。』

あの時は、知るはずがなかった。

『何を!』

まさか、この少年が私にとって、ここまで大きい存在になるなんて。白銀のナイフの感触が、手の中にほんのりと蘇った。

『てめぇ、何やってやがる。』

私を気遣うようにして、それでも戒めるようにして、本当の彼とは違ったのだろう。あんな乱暴な止め方。けれど、あの時かけてくれた言葉は、きっと彼の本当だった。

『言葉で止めてさっくりやられると、俺のトラウマになる。』

あくまで自分の為だと言っていたけれど、助けたいという思いが伝わって来て、期待というものを、私はしてしまったのだ。

『なぁ、レリィ。』

その景色に魅せられて、思わず漏れてしまったという表情を、今でも鮮明に思い出せる。そして、私の心のそこに向かって、言ったのだ。

『ここに、通ってもいいか?』

全身を貫く感覚と、瞳が憂う感情に、まだ泣けるほど涙が残っていたのかと、自分でも驚いた。構わない・・・、と随分と愛想のない言い方をしたことを後悔こそすれど、あそこで泣きそうになっていた情けない表情を見られるのは恥ずかしい。

『この景色を毎日見たい。』

その言葉も、本当だった。けれど、彼は私に手を差し伸べるために言ったと、断言できる。なぜなら、そこまで見たがっていた景色を一度も見ずに、まるで、明日も来る、安心しろ、と言うように、彼は立ち去った。名残惜しい景色より私を取ってくれた。

安心してしまった。

あの場所は、私にとって、始まりの場所で、いつかそこで、私は。

あなたの心を取り戻して、優しく返してあげる。この想いを、告白する。


ーーーーー


「つまり、あっちの主戦力は第五都市区に向かったのか?」

「そうだな。最悪の3段階後ぐらいまずいな。」

カガミがそう言うが、口調からしてそんな雰囲気は微塵も無い。反応は2つ。そこの見えない力に密かに怯えるアケディアと、それに嫌悪を向けるベルフェゴールだ。

「結界で閉じ込められて、主戦力が第五都市区でイラを一斉に叩く。見ろ、ミカミによって、ここまで状況は悪化した。」

その半身を見たことのない2人には、ただの偶然、カガミのミス、どうとでも取れた。それほど、この状況が()()()()()()()ものだと言うことは、信じ難かった。

「私たちが結界の範囲に入っていたとは・・・」

「問題ない。ミカミは俺を殺しに戻ってくる。」

遊撃手として興都を蹂躙している間に、いつの間にか始まりの地にたどり着き、丁度結界の範囲に入った2人ごとカガミは閉じ込められた。最悪、この結界を壊してしまってもいいが、ミカミが戻ってくるのを分かっていて、無駄な魔力の浪費はできない。アワリティアという実験台が、証明しているのだ。

油断すれば殺られると。

「それまで私たちは何をする。」

「俺は回復だ。お前たちには、第五都市区に行ってもらいたい。あわよくば、そこでミカミを始末してくれ。」

そこまで万全の状態で、強すぎる戦力で、カガミほどの力があって、どうしてわざわざたった1人の雑魚を気にかけるのか、分からないけれど、その瞳に冗談を言うカガミの状態はない。この目は、きっと、勇者を待ち構える魔王のような、そんな目だったと思う。それにしては勇者が頼りなさ過ぎるけれど。


ーーーーー


「地下迷宮・・・か」

イラが指を鳴らす。パチン、と戦場に響く音が鳴り響き、これまでもえさかり続けていた炎が消失する。灯火の消えた荒野には、死体とその少女達しか残されてはいなかった。

「もういいよ。」

「驚いた。まさか、ここで罪を償えと、そう言うことかと思ったぞ。」

「僕はそこまでアッキーを困らせるつもりはないよ。これが片付いたらうんと困らせるけど。」

包帯で撃ち抜かれた腕を巻き、だくだくと滲み始める血の色が鮮やかに広がった。ちなみに、アミリスタがラグナの腕に包帯を巻いている。撃ったのはリデア、撃たせたのはアミリスタ。アキトから聞かされていた作戦の通り。

「何とかして戦線離脱しろって言われて、ラグナあたりを撃てばいいんじゃね?あいつなら撃ってイイヨ、ってアッキーに言われたんだよ。」

「ごめんなさい痛かったでしょう?」

「大丈夫です。これくらいであの人の役に立つんなら。」

アミリスタがアキトっぽく言ったのには何も触れずに、リデアがラグナに謝罪する。撃ち込んだのはダメージを最小限に抑えて、出血量だけが多く見えるような攻撃、ラグナならすぐに治る。けれど、アキトならそれぐらいするだろうな、というちょっと悲しい思考を、リデアは持っていた。

「それでアミリスタ、アキトはなんて?」

「イラを倒すから、()()()()()に来いって。」

「あいつはなにを考えているんだ?」

ヴィネガルナがアミリスタに問う。アキトの功績だけを知っているヴィネガルナにとっては、アケディア達と同じように疑いしかなかった。方法も、能力も、準備も、ヴィネガルナにはなにをしようとしているのか分からない。

「何考えてるんだろうね。」

「え?」

リデアが驚いて声を漏らす。それを聞いて、アミリスタがどうしたの?、と首をかしげる。

「アキトから作戦を聞いてないのにここまで来たの?」

「う、うん。」

さも平然とでも言うように頷くアミリスタに、信じられないとリデアが絶句する。アミリスタのアキトへの信用の上がりようもだが、作戦を聞きもしないのにここまで行動できる度胸に、リデアが頰をパン!と叩く。

「頑張ろう!」

「もちろんだよ!」


ーーーーー

中央都市区、城前広場。

「下手なのか?お前。」

「何の・・・話だ?」

イラの圧倒的なプレッシャーに震えているのが、演技のリアルさに拍車をかけているため、アキトは今役者ばりの演技をしている。はずだ。なにをしているのか。それは、イラの使っている能力で、感覚的に頭を使っていることに着目したから実行している作戦だ。

敵の動きをある程度予想して、吸収と放出をする。タイムラグやタイミングミスで斬られるかもしれないシビアな能力。つまり、敵の動きを観察し、戦闘に活かす。それが、イラの十八番。

だから、先程から意味もなく下の地下迷宮に意識を向けたり、誰もいない物陰に視線を向けたり、イラとアキトの間に微笑んでみたりしている。素だったら恥ずかしくて出来ないが、怖すぎて逆に演技が上手くなっている。はず。

と言うことで、イラはアキトがなにも仕込んでいないのになにかをしているのではないかと疑惑をもっている。さすがに時間をかけ過ぎるとなにもないと判断して斬られる。けれど、この状態で突破口が見えれば。

アキトがなにかを隠すのが下手だと侮ったイラを倒す、突破口があるとすれば。

「んで、この()()()()()()()()()()に、お前は入っていると聞いていたんだが?」

「俺が欲しかったものを探していたんだが、なかったんだよ。」

これでこの地下迷宮には意識が向かなくなった。アキトの地面に送っていた視線のお陰で、無かったという言葉に信憑性が増している。イラの予想を予想するのなら、ここで突破口の鍵を見つけられなかったアキトを囮に一斉にイラに奇襲、だろう。というか、そう誘導している。イラとアキトの間にも視線を送っていたため、きっとそこにも何かがあるという先入観がイラを捕らえている。

「なぁ、これを砕いてくれないか?」

今は中央都市区の住民を逃がしてもらっているアンナからもらった布で何重にも覆った貴鉱石。まだ美しい輝きが溢れている。それを、砕いてくれと頼む。

「誰がそんな事、」

「ヴィネガルナ。」

ヴィネガルナに、頼む。

振り下ろされる最強の一撃が、その輝きを、アキトの勿体無いという感情とともに砕いた。魔力が収束して鉱石と混ざっている。そのため、このバカでかい魔力をこの大きさにできている。それを砕く。

爆発でもしないものかと考えたが、既に混ざり合っているため何かが起こるはずがない。

「アミリスタ!」

粉々になったその魔力の粉末を、地面を叩くアミリスタの結界が巻き上げさせた。煙のように広がり、世界を等しく照らす光と反射しあって、美しい光景が生み出された。

そのいかんせん煌びやかすぎる戦場で、ラグナ、ヴィネガルナ、アミリスタ、リデアが、己の力を咆哮させ、イラに向ける。

ラグナの翼から射出された魔力たちが一筋の光となり、一条の輝きがイラに迫る。それを空間を放出して避ける。

ヴィネガルナの剣舞が襲い来る。少しのタイムラグで空間を吐き出し、吸収し、攻撃を捌く。が、イラへと切り傷が増えていく。炎を使えばアミリスタに疎開されるのはわかっている。結界を使いにくいこの接近戦で決めるしかない。かといって自爆覚悟の攻撃は読まれやすい。無意識にそう考えるイラは、違和感など気にせずに刃をいなし続ける。

ヴィネガルナの攻撃がひと段落ついた瞬間、眼下から撃ち上げられる巨大な拳に、顎をぶん殴られた。空間放出が作動しない。

そして、リデアが紡ぐ。

ーーー世界再現魔法。茨の執念。

金色の花が咲き乱れ、イラを拘束する。いつの間にか、アキトはいなくなっていた。


ーーーーー


ーーーどうしてだ!?どうして違う奴がいる。

フードから飛び出る青い髪、そして、角の見える妖艶な美女。アキトも少し覚えていた。大罪・怠惰の悪魔、ベルフェゴール。そして、ヴィネガルナの証言通りの少女は、おそらく。その大罪囚。アケディア・ルーレサイト。

「いや、好都合・・・。」

突然現れたアケディアたちはカガミの元で興都を襲撃している者達、敵だ。イラに加担される前に、なんとかしないと。

「あ・・・?」

頭を何かが貫いた。物理的な何かではない。何か、重要な、とても重要な事で、この状況を、カガミの本気によって送り込まれてきたアケディアたちを倒さなくてもどうにかできる。

瞼を閉じた。目の前に様々な光景が、アニメの画面が出ては消えていく。

首を切られた赤い服の人。腕に書かれたマーカーの罵倒。金髪の少女の不器用なキス。マジシャンの女声と、レコード。

ああ、そうか。このアニメの、このシーンに共通しているものが何か、それによって、この状況が打破できる。

首切り殺人が起きたら、入れ替わりを疑え。妄言、虚言の類ではない。ずっと警告されてきた彗星の落下。それを止めるための入れ替わり。互いの唇と引き換えに、様々な困難を乗り越えてきた男と、それに恋した金髪の少女の、不器用なキス。そして、レコードの声になりすまして騙そうと企むマジシャン。

共通点。入れ替わり。

ポケットに入っていた丸い容器を取り出す。ラグナを治療院に運んで、重要な問いかけをした。その時はただ知りたかっただけだったけれど、このカードが揃っているのなら、それを信じるしかない。

容器に入っているのは、金の塗料。アキトが頭に塗れば、前の黒髪が邪魔して暗い色になるが、綺麗は金髪になった。そう、まるで、カガミ・アキトのような。声、顔、なにもかもが同じ。当たり前だ、2人はほとんど同じなのだから。見た目だけなら全く同じ。

「ベルフェゴール待て。」

アケディアの名前は知らないが、ベルフェゴールならひとつしか呼び方がない。簡単な方の可能性を取ってうろ覚えの悪魔の名前を呼ぶ。

「お前・・・どうして?」

「ラグナが裏切った。それに、イラも。」

「!?」

「!」

不思議そうに問うたベルフェゴールも、アケディアも、ラグナとイラの裏切りに、動揺を隠せずに行動を止める。イラの慎重度からして、カガミはミカミの危険さを十分に伝えているはず。

「ミカミは、なんらかの洗脳能力でも持っているのかもしれない。」

そういって、ベルフェゴールに手のひらを向けた。

「何のつもりだ。」

アケディアを庇うように前に出て、殺しそうな勢いで睨まれ、内心おどおどしながら、分かるだろ?と首を傾げてみせる。正直、アキトはリデアから貰った魔法さえももう使えない。体の中の魔力タンクが壊れているため、何の力もないが、ミカミの事をカガミだと思っている2人にとって、これ以上の脅迫はない。

「絶対に裏切れない。それぐらい証明しないと、そうだろ?」

「聖約を使えと!?」

「?ああ、そうだ。」

出そうになったクエスチョンマークを噛み砕き、飲み込んで、肯定する。アキトの言葉に反応していったということは、その聖約は裏切れないという力を焼き付けられるのだろう。アルタリカの言葉を思い出す。戦争は、どちらかが滅びなくても終わる。

「聖約の内容は?」

「俺を裏切らない。それだけでいい。」

ーーー聖約で裏切れなくなったけど、その子たちの代償は何だい?

ーーー俺の命令の絶対遵守。

ーーーはぁ、ほんと、君ら聖約を何だと思っているんだか!

謎の声の沸点も分からないが、聖約は結べるはずだ。


ーーーーー


「よく考えている。」

超巨大な魔力を有した貴鉱石をばら撒いたということは、実体を持った魔力をばら撒いたことと同義だ。つまり、イラがバーサークで空間を吸収するたびに、貴鉱石の莫大な魔力をバーサークは取り込んでいる。そう、吸収しても吐き出されるのは空間だけ。魔力はバーサークに残り続ける。キャパオーバーを恐れる大罪悪魔は、これ以上バーサークとして戦えない。もしこれ以上行動したとしたら、異世界水道の上位互換が起こるだろう。

バーサークは、封じた。アミリスタの伝えたアキトの指示によって、吸収を主に戦うように皆攻撃した。今、イラは攻撃が出来ない。

ここで皆で奇襲すれば、勝てる。

なんて、甘い考え方は、もうとっくに捨てている。どうして右翼都市区『アンナ』にいたのにわざわざ中央都市区にいると伝えさせたのか。それを考えれば、簡単なはずだ。本来ならリデアやアミリスタにしてもらいたかったが、仕方がない。

いや、好都合と言うべきか。

「ベルフェゴール、イラを始末する。中央都市区のど真ん中、地下迷宮の最終層まで縦に破壊しろ。」

「ちいっ」

すっと手を上げて、捉えた場所に向かって命じる。ただそれだけで、轟音が響き渡る。中央都市区の最上層。その城をぶち抜いて、さらに下層までが、まるで巨大な丸太に貫かれた可能性ように消失した。

イラを倒すために、尚且つ、戦っている少女たちに被害がいかないように命令した。

「ありがとよ、大罪。」

「は?お前、一体なにも・・・」

「ミカミ・アキト、最弱さ!」

正体をバラすだけバラして、さっさと駆ける。その戦場へと駆ける。貫かれた大穴の上で、ヴィネガルナの瞳が赤く染まっていった。そして、それがラグナにも現れ始める。

「・・・」

目の端でアキトを捉えたヴィネガルナが、何かを発した気がした。直後、全身が沸き立ち、どこからともなく力が爆発した。身体中を駆け巡る己の力の奔流に、紅く染まる視界に口角を歪め、そこにゆっくりと金の剣が飛んできた。それは、懐かしい。リデアの作り出した剣だった。

柄の部分を捉えてそれを掴む。ヴィネガルナの魔法、それは、その人の限界を出させるパワーアップ系の力。つまりは、全力を出して倒れる短期決戦魔法。そんなリスキーな魔法を、アミリスタやリデアにはかけられない。自分とアキト、ラグナなら、死なないし、死んでもいい。けれど、遠慮なく力を使っていいのなら。

「最高だ!」

3人が同時に駆け出す。連続する地面を蹴る音、ヴィネガルナの刃が最初に届き、必死にいなそうと構えるイラへと連撃を叩き込む。その合間を縫って、ラグナの射出した魔力がイラを貫く。ヴィネガルナから飛び退いた先で、背後に回っていたアキトが腹を突き刺し蹴り飛ばす。

その先は、大きな穴。

「ほんっと、俺強引に落とし穴に落とすの好きらしいわ。」

ベルフェゴールの開けた大穴に、イラがゆっくりと落ちていった。口の中だけでそう呟いて、しまった、落としてしまった、とてもいいたいような表情でイラを見る。動けるような力は残っていないはずだ。地面に叩きつけられても死なないからそのまま落下する。

アワリティアとの戦いで、それくらい分かってる。

中央都市区の地下には何があるか覚えているだろうか。そこには、過去からアキトに託された、第2の刃がある。天を貫くようにある剣。

落下した先で、剣の突き刺さる音がした。

ヴィネガルナとラグナが倒れる。


ーーーーー


そして俺は、招かれた。


ーーーーー


カガミに言われたのだろう。ファルナの能力で興都まで飛ばされたアキト。興都は火の海に包まれており、地獄と化していた。


そして最弱は最強に挑む。


書き終えた!ってことで、イラ打倒です。ご都合主義だとかなんだとかありますが、とりあえず許してください。ちなみにクビ◯リサイクルとかやまじょとかなんだかんだパクってます。

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