105.【蒼天の貴鉱石】
「この地下迷宮はいつ終わるんだ?」
「ダンジョンなんて酷いですわ、貴鉱石を守り続けている味方ですわよ?」
「じゃああれはなんだよ。」
暗闇を進み始めて数十分後。そろそろこのダンジョン、地下迷宮の長さに飽き飽きし始めたアキトがそういえば、頰を膨らませて、無表情な目で否定してくるアンナ。遠くにある矢の刺さった白骨を指差せば、そっと目を逸らされた。
貴鉱石を守るためとはいえ、殺すためのトラップがありすぎる。酷いものは矢などではなく、全ての天井が高速で落ちてくるものもある。爆薬のような物質で作られた部屋や、貴鉱石っぽい見た目の毒持ち魔獣。通路にすっぽりと綺麗に収まる鉄球が道の両方から迫り、その上から魔法攻撃が降り注ぐトラップもあった。足を踏み入れれば全ての床が消え、燃え盛る業火に突き落とされるものなんてザラだ。その上、貴鉱石を盗もうとするものたちの撲滅のため、この地下迷宮の入り口の場所は全く別の場所にしている。そこから入った所でなにもなく、アキトたちの入った正しい入り口でないと貴鉱石へはたどり着けない。
なのにも関わらず、こちらにはその偽入り口の100倍の罠が仕掛けてある。全てを覚えているアンナに感心し、この少女がミスをしたら自分は死ぬんだなと怖気が走る。が、そんな事もなく、アキトは無事にそこへ辿りついた。
「案外普通のとこにあるんだな。」
罠ゾーンを突破したアキトは、貴鉱石があるという部屋の簡素な作りに驚いた。
「アキト様は大魔石のようなものを考えていらっしゃったのですか?」
「まぁな。」
かつてカーミフス大樹林で見た大魔石は、神々しく輝き、さらに美しい光線が反射していた。あのツリーハウスからの景色には劣るが、あの大魔石も綺麗だった。
「大魔石は、維持魔導具や加工魔導具、管理魔導具、他にも結界魔導具と、中々めんどくさい装置が必要ですからね。」
魔石が形態変化を起こさないように維持する維持魔導具、魔石をポーションや魔力に加工する加工魔導具、魔石の状態を操作したり、状況を確認したりできる管理魔導具、そして、魔石を外敵から守るために結界を張る結界魔導具。ポーションを加工するときは加工魔導具に注出魔導具を取り付ける。そんな管理をしない。純粋な美しさと、莫大な魔力のこもった貴鉱石に、そんな装置は必要ない。わざわざ大きな部屋は必要ない。
「さぁ、これが貴鉱石。この街を救うあなたへの、過去から託された刃です。」
開けられた扉から、とんでもない光が溢れた。決して強くはない。けれど、溢れてるオーラと神々しさが、その輝きに磨きをかけている。こんな美しいものを使って敵を倒そうとするのが馬鹿らしいくらいに思えてきて。
「呑まれないでください。お客様。」
冷や汗をかきながら、アンナがアキトに声をかけた。誰でも、そうなのだろうか、この美しさに魅せられたものたちは、誰しもこんな風に思ってしまうのだろうか。
輝く貴鉱石は、アキトの拳大だった。あまりにも小さいが、アキトの持っている貴鉱石よりも何百倍も美しい。
恐る恐るその宝石を手に取る。
『蒼天の貴鉱石』。最弱は反撃の糸口を手にした。
今回少し短いですスミマセン。