102.【万天の最強へ羽ばたく最弱】
ヴィネガルナの戦闘技術によってバーサークに何かあることが判明し、それを見たアキトの観察眼が更に深くを見つめた。
決して交わることのない2つの力が手を取り合い、その敵を倒そうとしていた。ヴィネガルナからすればとんだ迷惑だが、アキトにとってはありがたい情報だ。
一人称では分からない光景。三人称で暴ける異能。不自然なイラの動きに付きまとう、バーサークを振るうというデメリット。決して戦略を練れるタイプではないイラの性格からして、その行動は能力を使う上で重要な事。
「!」
ヴィネガルナの刃が迫った瞬間、引いたバーサークの刃が一瞬歪み、空間に歪みが出来た。ほんの一瞬の剣尖の先から、またしても歪みが現れ、振ったバーサークから放出、イラの位置が移動した。
「そういうことか・・・」
全てが繋がった。竜伐全員の力で抑えられなくなってきたイラの力。けれど、わかってしまった。アキトは、その似たような能力を見たことがあった。使役したことがあった。
緑生い茂る2度目の世界で、イラの能力の劣化版を使って、戦ったはずだ。
だから分かった。英雄譚にかこつけた最弱の道筋が、ひとつの伏線となって力を示していた。イラの行動を見ただけでどんな能力か分かったのは、シャリキアのお陰だ。アキトが紡いできた物語で出会った少女のおかげで、能力を暴けた。
「どうしたの?アッキー!」
「イラの能力が分かった。」
「能力?」
首を傾げるアミリスタ。シールドの展開に全神経を研ぎ澄ませていたアミリスタは、苦戦するヴィネガルナの違和感には気づかなかったのだろう。無論、今この能力に気付いて何かができるのはアキトだけだ。
「空間操作、それがあいつの能力だ。」
バーサークで吸い込んだ空間をもう一度放出する事で突如空間が現れ、イラとヴィネガルナの間に、剣が届かない隙間ができる。これを使って、吸収した空間をヴィネガルナの前に送り続ければ、ヴィネガルナの剣突を止めることが出来る。無論、逆の力も使える。バーサークで空間を吸い込むことにより、空間が消失、距離が縮む。
あの樹林で使った緊急回避は、すでに元ネタがあったという訳だ。やっと、反撃の糸口が見えた。
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既に粉々になった街。皇城の中にぎゅうぎゅう詰になっている人々や、他に作られた避難所にいる人々と、既に刃にかけられた人々を全て足せば、この興都人口となる。
そんな中、広大な興都を徘徊する2つの影があった。アケディア・ルーレサイト、ベルフェゴールの2人だ。皇城を制圧したと思わせたエリアスの策により、2人は遊撃に入っている。既に人のいないこの街で彼女たちは殺す人間がいない。よって撃破の必要は低い。
アミリスタの結界に囚われているカガミは、灰燼に帰せを使った反動でマナの充填途中だ。たとえそれが終わっても、囚われていると気づくまでと、結界を壊すまでに時間がかかるため、こちらも保留にしておいていい。
とてつもなく皮肉な事に、この興都は現在1番安全となっている。
興都を堕とすという計画を立てたのにも関わらず、アキトの奮戦によってこんな状況が出来上がっている。そんなことすら知らないカガミは、ミカミの張りめぐらせる策を考えるしかない。
一方。
「なぜ・・・・どうしてだ!?」
「留まった。せっかく境界線を超えないように戦ってもらったんだ。俺が恩を返す。それだけだ。」
驚愕に声を震わす老人と、決意を胸に立ち上がる青年の声がした。
少女から全ての力は返還されている。敵に不足はない。戦う理由は大きい。なにかに憑かれていたように靄のかかっていた意識がクリアに、色が戻ってくる。
禍々しいゲートから生み出されていた鎖は、白金に輝くゲートから覗く無数の羽となっていた。
鎖に縛られ、その鎖の呪縛から逃れたかったラグナの幼い心が生み出した顕現魔法。城から出るために求めた刃が合わさって、鎖に繋がる刃だった顕現魔法は、貫いた刃の勢いを止めるために、留まらせるために命を賭ける少年を模していた。
最弱というただの少年が、守りたいもののために翼を広げて最強へと成り上がる戦い方を、それに魅せられた、救われた彼の、顕現魔法。
真の顕現魔法、飛翔するための翼『パーニッシュ』。顕現魔法は、進化する。