9.【最弱の牙】
砕け散った魔力の残滓が、ゆっくりと目の前を舞った。
「誰がお前の剣技を再現したなんて言った?」
「は?」
「リデアの詠唱は、フェイク」
ーーー世界再現魔法。リンクフィールドレンタルト。
剣使いの絶技を、傷一つ受けずに生き抜いたシールド。そのシールドは、防御というたった1つの刃でここまでアキト達を守り抜いた。そう、アキトの考案し、リデアが再現したのは。
「リンクフィールドレンタルト。」
リデアの白い指先が半円を描き止まる。あの剣使いを、シールドの中に入れて。
「は?くっはははははは。このシールドは、中からなら出られただろう?そこの小僧がそうしたように。」
ここに監禁される前。アキトはバカな感情に任せシールドを手放した。シールドから出るという形で。本来、このシールドは中にいる人間を外からの攻撃から守るもの。
「リデアが俺にシールドをつけた時。リデアは手を振り下ろした。」
そうだろ?という意味合いを込め、リデアを向く。すると、リデアは嬉しそうに頷いた。リデアが手を振り下ろすのに『リンク』して、シールドは動いた。
「リデアの指先と、そのシールドはさっきリンクしてたんだ。」
リンクをきり、あのシールドは固定されている。では、リンクを切る前、リデアはどんな動きをした?
円を描くように、その綺麗な指先を動かした。そう、半円を描くように。要は、シールドを裏返したのだ。
「リンクしたシールドを裏返したら、内側から外側に出られない。外側から内側に入れる。こういう現象が起こるわけだ。」
「な・・・」
驚愕に目を見開き、シールドを内側からなぞる。彼は、知っている。このシールドに、剣を突き立てたことがあるのだ。そして、その強固な壁が、簡単に破れないと知っている。
アキト達は、この森でこの男を『倒す』ことは、絶対にない。だから、この男を監禁する。竜伐第2聖アミリスタの牢獄に。
「知らない相手にこんなに感謝したのは初めてだ。」
「ふふっ。レンタルをもらっていてよかったわ。」
リデアがそのまま洞窟の入り口へと歩こうとしている。アキトの心の中に、疑問が芽生えた。なぜこのまま放っておくのか、と。
「リデア。あの爆発する剣ある?」
「ええ」
金の輝きを放ち、リデアの手中に輝く刀身が現れる。それをリデアはアキトに差し出した。受けとった刀剣を、なんの迷いもなくアキトが投げる。勢いよく飛んだ光剣が瞬き、爆発する。そして、
「良し。」
大音量の爆音が、大質量の岩塊が、光の斜線と共に落下してくる。外から内側に入れるなら、
ーーーこうして押しつぶせばいい。
アキトにとって、この落石であの男を殺すのは、どんな常識よりも当たり前であり、必然だった。
「アキト・・・・・・なにを。」
リデアが困惑し、アキトに声をかける。
リデアも幾多の戦場で戦い抜いてきたはずだ。これを過剰防衛とは捉えない。つまり、リデアは驚いている。あの平和ボケしていた一般人が、これだけの時間でここまで冷酷になれる事に。そして、ここまで冷酷にしてしまった事に、罪悪感を感じている。そのリデアを、心の時が止まった少年が疑問に問う。その声は、冷たかった。
まだまだ1章は続きますが、とりあえずひと段落つきました。次回から、本格的にアワリティア討伐に向かうと思います。やっとレリィを登場させられる。次は今日中に投稿します。20時くらい