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アポロの護り人 ―異世界夢追成長記―  作者: わらび餅.com
第二章 軍属大学院 入学 編
19/54

16.二日目の門出


「おーいタケル! そろそろ出発するぞー! ――おっと、なるほど……。先に門に行ってるからな」


「あっ、うんわかった。すぐ行くよ」


 出発の準備が整ったようで、サキトが自分を呼びに来た。

 状況を見て察したサキトが先に門に向かったところで、目の前でキュウとテッチを楽しそうに撫でている二人の子供たちに声をかける。


「ごめんね。そろそろ行かなくちゃ」


「えー! もういっちゃうのー?」


「もっとキュウちゃんとテッチちゃんとあそびたかったー……」


 残念がる子供たちを見ると、少し心が痛む。

 せっかく楽しそうにしているので、もう少し撫でさせてあげたいところではあるが、そのためにサキトたちを待たせるわけにはいかないのだ。


「ごめんね。きっといつかまた一緒に来るから、その時はまた遊んであげてね。それに、二人もそろそろお手伝い戻らないと怒られちゃうんじゃない?」


「あっ! そうだった!」


「おかあさんにおこられちゃう! じゃあまたねー! キュウちゃん! テッチちゃん! おにいちゃん!」


 水のたっぷりと入ったバケツを軽々と持ち上げながら二人の子供は走り去っていく。


(身体強化をしてるんだろうけど……前の世界だと目を疑うような光景だよな)


 子供たちを見送ったところで、上機嫌なキュウとテッチを連れて村の入り口へと向かう。

 所用のできたサキトたち三人を待つ間、村を散歩している時に家の手伝い中の彼らと出会い、キュウとテッチに興味をしめしたので戯れていたわけだが、楽しそうな子供たちを見て和む反面、内心では焦りもしていた。

 正直自分は子供の相手をした経験がほとんど無いため、もし駄々をこねられたらどうすればいいかわからなかったからだ。


(まあうまい事別れられてよかったな……)


 自分でもどこか情けないと思うような思考をしながら歩いていると、すぐに門とその前にいるサキトたちが見えてくる。


(本当に小さな村だよなぁ)


 この世界は帝都などのような大きな都市が五つある他は、このような小さな村から、もう少し規模の大きい町などが各地に点在しているらしく、各都市を移動する行商人や、国中を巡回している軍人たちを持て成すことで生計を立てているらしい。

 質素な村の割に宿のセキュリティがそれなりに良いのは、まさに生計の要であるからだろう。

 そのため、基本どの村や町でも村長や町長のような権力者には宿屋の主人がなっているらしい。

 このクルブ村も例に違わず宿屋の主人が村長になっており、十分ほど前に何やらソフィアたちに頼み事があるとかで話しに来たのだ。

 込み入った話のようだったので自分は離れて散歩を始めたわけだが、最初の方に少し聞こえた限りでは依頼がなんだとか言っていた気がする。


(そういえば学校の科目に『依頼』の科目があるとか言ってたよな……。何かやること増えたのかな?)


 そんな事を考えながら三人に声をかけて合流する。


「ごめんごめん。おまたせ」


「いえいえ、お待たせしちゃったのはこちらですから。タケルくんはもう出発しても大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。それより、なんか依頼とか言ってたけど、今日の予定って何か変わった?」


 そんな自分の問いに答えたのはアイラだった。


「予定に変更はないわ。明日のお昼には帝都に着けるように今日は出来るだけ進む。タケルは昨日と一緒で魔力探知で魔物を見つけ次第報告してちょうだい」


 つまり今日も休憩をはさみながらひたすら身体強化をして街道を走るわけだ。

 依頼とやらはどうしたのだろうかと考えていると、サキトが少し不満げに話し始める。


「別に依頼受けても良かったと思うけどなー。せっかく優秀な索敵係もいるんだし……。走ってばっかだと体が鈍っちまうぜ」


「もう、さっきも散々話したでしょ? 高等学院生が個人の判断で依頼を受けるのは非推奨だし、そもそも私たちはさっさと帝都に帰って森での事を報告しなきゃダメなんだからって!」


 どうやら依頼は断ったようだ。

 というより、優秀な索敵係とはひょっとして自分の事だろうか。


(索敵……魔物の討伐とかかな? ってかそもそも依頼って何だろう? ひょっとしてお金貰えたりするのかな?)


 出来ればおじいちゃんに頼りっぱなしになるのではなく、自分で稼いで暮らしていきたいので、この辺りのことはぜひとも聞いておいた方が良さそうな気がする。

 というわけで聞いてみることにした。


「ねえ、そもそも依頼って何なの?」


「お! タケルも興味湧いたか! 依頼っていうのはな――」


「はいはい! それは走りながらでも説明できる事でしょ! とりあえず出発するわよ!」


「ちぇっ……」


「まあまあサキトくん、流石に街道付近で魔物を見つけたら討伐するから、ね?」


 自分の質問に答えようとしたサキトをアイラが遮り、ソフィアがサキトを優しく諭す。

 昔の自分なら、"走りながら説明"などと聞けば「どんな苦行だ」と思っただろうが、今となっては身体強化という便利技術を知っているので、特に違和感を抱くことは無い。

 走る速度はマラソンを走るような速さだが、身体強化さえしていれば正直歩くのより楽だ。

 しかも目的地までほとんどずっと走り続けるため、昨日も特に話すことが無くなってひたすら無言で走っている時間などもあったので、寧ろ話のネタができたと思えばその意見には賛同せざるを得ないまである。

 まあサキトも様子を見る限り、依頼を受けれないこと自体には納得はしていて、ただ言ってみているだけのようなので、さっさと出発するのが吉であろう。

 魔力探知を広げると、村の中で活動している人々の様子や、果ては家の中の様子まで脳に情報が流れ込んでくる。


(こ、これは……プライバシーとか大丈夫なのか……?)


 こんな私生活の情報が丸出しの状態でいいのかと疑問に思ったが、一部の家や自分たちの宿泊した宿屋などは何かに阻まれて内側の様子がわからないことに気が付いた。

 感覚的には昨日アイラに魔力探知を妨害された時と似ているが、妨害してきているのは魔力のような何かである。

 恐らく魔力なのだとは思うのだが、自分の知っている魔力と何かが違う。


(いや、この魔力もどこかで感じた事がある気もするけど……)


 この魔力の違和感の正体は何であろうか。

 まず一番はっきりとわかるのは、色が無いという事だろう。

 活動している人々の体から漏れ出す魔力には必ず何かしらの色がある。

 昨日魔力の妨害をして見せてくれたアイラの魔力も、目には見えないが魔力探知越しにははっきりと綺麗な空色の魔力が感知できた。

 しかし、今自分の魔力を妨害している魔力には色が無いのだ。

 そして、他に違和感を感じるのはその状態だ。

 人から感じる魔力には上手く表現しづらいが、鼓動のような自然的な揺らぎが感じられる。

 しかし今自分の魔力を妨害している魔力は、どこか機械的で一切の揺らぎが感じられない。

 まるで壁に魔力を押し付けているかのようだ。

 そこまで考えて、この違和感に似たものをどこで感じたのかを思い出した。


(そうだ! ソフィアたちを助けに行った時にあったあの二つの反応だ!)


 あのよくわからなかった反応も魔力のようなのに色が無く、揺らぎが無かった。

 魔力探知を妨害されるような感覚があったわけではないが、魔力の質はこれと似たものがあったはずだ。


「――ケル?」


(いや、少しだけ揺らぎがあったような……)


「おーいタケル!」


「う、うわっ!?」


 唐突に肩を揺さぶられて、思わず情けない声を漏らす。

 どうやら呼びかけに気が付かない程に思考に没頭してしまっていたようだ。


「どうしたんだ急に考え込んで?」


「いや、魔力探知を広げたら宿屋とかで無機質な感じの魔力に妨害されたからさ。これは何なのかなって……」


「ああ、それは魔力探知妨害用の魔道具よ。それが無いと部屋の中の様子とか筒抜けになっちゃうから宿屋なんかは絶対置いてるでしょうね。ってかそうそうバレないけどあんまり無闇に町中とか魔力探知はしない方がいいわよ……」


 自分の質問にアイラが丁寧に答えてくれた。

 というかやっぱりプライバシー的な問題はあるようだ。

 急いで村に広がっている分の魔力探知を消す。


「ご、ごめん。気を付けるよ……」


「まあこの村に"魔力感知"を出来る人はいないと思うけど……。次から気をつければいいわよ。っていうかいい加減時間ヤバイんじゃないの?」


 アイラの言う通りだ。

 依頼の件もあり、既にそこそこに時間が押しているだろう。

 それを聞いてソフィアは腕時計を確認する。


「もともと余裕を持って予定してたからまだ焦らなくっても大丈夫そうですね。でも道中何が起こるかわかりませんから、そろそろ出発しましょう!」


 ソフィアの掛け声と共に、身体強化をして次の目的地に向けて走り出したのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――


「で、依頼って何なのサキト?」


 クルブ村を出て数分したところで、自分の隣を涼しい顔で走るサキトに質問を投げかける。

 かく言う自分も身体強化の効果でこの程度なら全く疲れないのに加え、服の空調機能も相まって走っているとは思えない程に快適だ。

 ソフィアとアイラも見る限り余裕そうに走っている。

 街道の周りは相も変わらず見渡す限りの大草原が広がり、所々には春らしく花なども咲いており、色々な種類の花が雑多に咲き乱れている様は、これはこれで乙なものである。

 キュウはいつも通りシャツから頭と前足だけ出してゆったりと景色を眺め、テッチは自分たちと並走し、ロンドは何故かテッチの頭の上に乗っている。


「ああ、そういえばそうだったな。依頼って言うのはまあその名の通り頼まれ事なわけなんだけど……あれ? なんて言えばいいんだ?」


 得意気な顔で話し始めていたサキトは最終的には首を傾げ始めた。


「サキト……あんたねぇ……。仕方ないわね。私が説明してあげるわ」


 相変わらず首を傾げているサキトに変わって、アイラが説明を買って出てくれた。


「依頼って言っても色々あるんだけど、私たちみたいな軍人を目指す者や軍人たちにとってはもっぱら武力と金銭や物品との交換交渉の事を"依頼"って言うの。魔物の討伐だったり、夜盗とかからの護衛だったりね」


 やはりお金稼ぎができるようだ。

 バイトに似たようなものなのだろう。


「ふむふむ。今回のはどんなのだったの?」


「今回のはなんか村から少し離れた所で中型種っぽい魔物の姿を見たかもしれないって村人がいたらしくって、それの確認と可能なら討伐もしてほしいって依頼だったのよ」


 一拍呼吸を置いてアイラは続ける。


「時間がある時なら全然受けるんだけど、生憎私たちは今結構急いでるし、そもそも討伐に関する依頼は何かあった時に危険すぎるから、私たちみたいな高等学院生が個人で受けない方が良いのよ。依頼の内容も曖昧だし……。あんたが広範囲を索敵出来るとは言え、すぐに見つかるとも限らないから断ったってわけよ。森での事もあるから中型種が一匹でいるとも限らないし……」


 アイラの言にソフィアが続く。


「クルブ村みたいな小さな村とかには軍が常駐することは無くって、定期的に軍が巡回に来るんです。でもその軍の方々が巡回に来たのがつい最近だったらしくって、次に来るまで何日かかるかわからないらしいんですよね……。なので、明日には帝都に到着してる予定の私たちが依頼状を軍に渡すってことで片が付いたんです」


「なるほど……。ねえ、ちょっとみんな一回止まって貰ってもいい?」


「ん? どうした?」


 不思議そうにしながらも三人は立ち止まり、テッチもそれに合わせて止まったので、魔力探知の範囲を最大まで広げる。

 本当に中型種がいるのなら、正直放っておくのは忍びない。


(せめて、僕の探知できる範囲にいるなら……)


 自分の探知範囲程度ならば数分あれば辿りつけるはずなので、それほどの遅れにはならないだろう。

 広げていくほどに大まかな地形の情報や動く動物たちの様子が大量に脳に流れ込んでくる。

 恐らくクルブ村と思われる場所も探知範囲に入った。

 プライバシー侵害もさることながら情報量も半端では無いので探知範囲から外したいのは山々なのだが、最大範囲の探知中の今、一部分だけを指定して魔力を拡散しないというのは非常に難しいので今回の侵害は勘弁願いたい。

 目を閉じて脂汗を流す自分の様子を見てか、ソフィアたちが心配気な声をかけてくる。


「だ、大丈夫ですかタケルくん?」


「もしかして走るペース早かったか!?」


「いや、さっきまで全然余裕そうだったわよ……?」


 何だか申し訳ないが、もうすぐ終わるのでもう少しだけ待ってもらおう。

 そうして一分ほどで探知も終わったので、範囲をもとに戻して目を開けて一息つく。


「――っふぅ……。ごめんごめん。ちょっと最大範囲まで探知してたんだ」


「なるほど、それでちょっと苦しそうだったんですね。最大範囲ってどれくらいの範囲ですか?」


「五千五百くらいだよ」


「ごっ!? だっ、大丈夫なんですか!? 具合は悪くないですか!? 眩暈とかしませんか!?」


 ソフィアが取り乱した様子で若干過保護ではと思うほどに心配をしてくる。


「お、落ち着いてソフィア! 少し疲れるけど別に大丈夫だから! 普通に会話できてるでしょ? ね?」


「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」


(そこまで心配されるほどの事なのか?)


 そんな内心の疑問に偶然アイラが答えをくれる。


「五千五百ってあんたそれ……軍の大規模な魔道具でやるレベルよ……。出来る奴なんてそうそう居ないけど、制限の下手な奴がもしもやったら一発で廃人になるわよ……」


「え……そうなの……?」


「まあ俺がやったらそうなる自信はあるな!」


「なんの自信よ……まあ私も絶対にやりたくはないけど……」


(そ、そんな怖い行為だったのか……)


 若干肝が冷えたが、特に今までそれほど危険に感じた事が無いのも事実だ。


(まあ危ないと思ったらすぐやめれば大丈夫だよな……たぶん)


「それで? 何かわかったの?」


 アイラがそんな質問をしてくる。

 そういえばそうであった。

 進行方向の斜め前方を指さしながらそれに答える。


「うん。あっちに三千三百メートル行った辺りに魔物が一匹いるんだけど、たぶんこのまま進んで行けばどっちみち発見してたかな」


 それを聞いてサキトが嬉しそうに喋り出す。


「おっ! じゅあそいつ討伐しに行こうぜ! 街道付近だから倒しておいた方が良いし! なっ! 良いよな!」


「落ち着きなさいよサキト。別に私だって魔物を野放しにしたいわけじゃないんだから、見つけたなら倒すに決まってるじゃないの……。行くでしょソフィア?」


「はい! 魔物は討伐しておくに越したことはないですからね! 見つけたのは小型種ですかタケルくん?」


「ごめん。千メートルくらいまで近づかないとそこまではわからないんだ……」


「なんで落ち込んでるのよ……。普通千メートルでもわからないからね?」


「それより早く行こうぜ! このままだと本当に体が鈍っちまう!」


 そう言ってサキトは待ちきれないとばかりに走り出してしまった。


(実はサキトって戦闘狂か何かなのか?)


 そんな疑問もよそにサキトはぐんぐんと離れて行ってしまうので、急いで追いかけ始める。


「ちょっとサキト! どうしたのよあんた! ちょっと待ちなさいって!」


「サキトくん! 一人で行っちゃダメですよ!」


(家を出た時の僕ってこんな感じだったのかもなぁ……)


 そんな事を思い出しながら追いかけるのであった。






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