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魔法

 「私に魔法を教えてくださいませんか」

 

 ホド爺が話している途中だが話を切り出した。

 少々不作法だが、それも仕方ない。魔法についての話を熱弁し続けて、もう五分も経過している。完全に自分の世界に入ってしまって、こちらの世界に帰ってきそうもないのでこちらから切り出した。


 「――――すみませぬ。最近は耳が遠くてよく聞こえず」


 本題に関しては聞こえていなかったようだが、向こうの世界から帰還を果たしたので良いだろう。

 

 「何度でも言いますわ。私に魔法を教えてください」

 

 これだけはいいと言ってもらうまで粘らざるを得ない。

 魔法は何より重要だ。場合によっては私の計画を大きく前進させてくれるに違いない。


 「…………」

 

 ホド爺は険しい顔をしたまま何も答えない。まだ聞こえていないのだろうか。


 「私に魔法を教えてください」


 大声で怒鳴ったのでホド爺が耳を抑えている。今度こそ聞こえただろう。

 

 「いくら老いぼれているとはいえ二度言われずともわかります。してなぜ、わしに。御当主様に頼めば魔法の家庭教師なんぞいくらでもつけられましょうぞ。それにお嬢様ほどのお方なら独学でも学園のレベルは優に超えられましょう」


 ホド爺の言う通りだ。私だけでも問題はない。しかし、私の真意はそこではない。


 「魔法を教わるにはやはり優れた師に習うのが一番ということですわ。ホド爺が魔法に関してただ物ではないことくらい誰の目から見ても明らかですし」

 「なんとそこまで見抜かれていましたか。しかし、才能豊かなお嬢様なら大丈夫でしょう。わしの目から見てお嬢様は本当に魔法に愛されている。わしなんぞすぐに飛び越えてしまうでしょう」


 ホド爺もはい、といえば済む話なのに強情だ。

 もう魔法関連の職に就きたくない理由でもあるのだろうか。それほどのことが過去に起こったとか。

 だが、ここで口説き落とさねば。


 「もちろん、私ならば学園の魔法程度ならば造作もないでしょう。ですが、魔法とはそんなものでは終わりませんわ。国を富ませ、民を豊かにし幸せにする。そんな力が魔法にはあるはず。貴族の家に生まれ、学園に通わずとも誰でも扱えるような魔法を作る。そんな世界がきっと来る」


 「あらためて言いますわ。私の師に。協力者になってくださいまし。魔法への情熱が忘れられないのは自分でも気がついているでしょう。魔法をもっと研究し、より発展させ。魔導の真髄へと至りましょう」


 私はホド爺に小さな手を指し出す。

 身長差があって少々つらい。早く手を取って欲しい。

 

 「……魔法を研究し魔導の真髄に至りて民を幸福にするのが、魔導士の使命。そう言えば、わが師もそんなことを言っていましたな。戦いに明け暮れ、戦いのための魔法を研究している中でいつしか忘れてしまっていましたな」

 

 ホド爺が私の手をとり、やさしく握る。

 いつものどこか遠くを見ているような目も今はしっかりと私の目を見ている。

 

 「ではよろしいのですね」

 「はい。この老骨でよければいくらでも使ってください。しかし、私が師となれば修業は厳しいものとなりますな」

 「では師匠と呼ばせていただきますわ。どうぞお手柔らかに」 

 

 思わず笑みがこぼれる。

 少々苦戦したが何とかなった。これで私の計画は一歩も二歩も前進だ。

 才能豊かな私がどれほどの魔導士になれるか楽しみだ。せめて主人公どもから身も守れるぐらいには強くなりたい。魔法はその第一歩だ。

 魔法は前世の知識と合わせつつ活用し研究を続ければ、必ずや国力増強並びに強大な軍事力獲得への第一歩となるだろう。


 「因みにわしに拒否権はあったのですかな」


 ホド爺が冗談交じりに聞いてくる。


 「もちろんありますわよ。この屋敷に居ることができるかどうかは保障しかねますが」


 微笑を浮かべながらそう答える。

 当然、拒否権などあるはずがない。もし断られたときはいろいろと策を講じるはずだったが、手荒な真似をせずに済んでよかった。


 「ふぉっふぉっふぉ! 敵いませんな。未だに6歳だといううのが信じられない利発さですな。教え甲斐がありそうですわい」


 ホド爺は高らかに笑うと長く伸びた白髭をなでた。

 

 「期待してくれてもいいですわよ」


 胸を張ってそう答える。

 前世の記憶に目覚めさらに強化された天才公爵令嬢の私にできぬことなどない。

 

 こうして私の魔法特訓は始まった。

 もう学ぶことなどないのでいくつかの家庭教師を外してもらいだいぶ余裕のできた私は多くの時間ホド爺との魔法練習に充てることにした。


 「お嬢様。魔法を扱うというのは理論をしっかりと学び深く理解することも大事ですが、実践が何より大切ですぞ。最初は苦行。ひたすら集中し、ひたすら耐えるのです」

 

 今日は屋敷の庭にでてホド爺から魔法の講義を受けている。

 いつものようなドレスは脱ぎ捨てて、動きやすいラフな格好に着替えている。ドレスも捨てがたいがこちらは動きを疎外されないので快適だ。ホド爺はローブを羽織り、複雑な紋章の刻まれた杖を持っている。 


 「魔法とはこの世界に満ちる魔力というエネルギーを使って様々な事象を引き起こすこと。まずはその魔力を感じることです。これは感覚なのでなんとも言えませんが自分で感じ取るしかありませんな。まずはわしの魔法をお見せしましょう」


 ホド爺の指先に小さな火が灯る。

 おお、凄い。これが魔法。何となくだが、何かの力の流れのようなものを感じ取ることができる。


 「わかりましたかな。今のはイメージ魔法と言われるもので自分の想像力と魔力によって発動します。これは古代から使われている魔法ですが大変制御が難しく、長い修練と才能が必要となります。人の身で扱える魔力量は限られるし個人差も大きい。その点、お嬢様の魔力量は素晴らしい。そこまでの保有者は見たことがない。そして魔法にはもう一つ。それは―――――」


 庭に設置してあった標的用の木の的にホド爺が持っていた杖を向ける。

 杖に刻み込まれた紋章が光って浮かび上がると瞬時に杖の先端から炎の玉が飛び出し的を粉砕する。 

 これはすごい。これを発展させればものすごいことになる。

 

 「こちらが術式を用いた紋章魔法と言われていますな。こちらは高度な魔法理論によって組まれた複雑な術式をこのように杖に刻み込んで使う。使用するときに杖に少し魔力を流し込むことで術式が発動して世界にあふれる魔力を利用して魔法を発動させる。制御が楽で複雑な魔法もこれで可能になったが、発明からまだ日が浅く、魔導理論への理解が深い者でないと発動させるできないという。まあ、こちらも難儀なものですな」


 紋章魔法はもっと凄い。開いた口が塞がらなくなるところだった。

 ふむふむ、これは研究のし甲斐がありそうだ。これをものにして発展させれば次のこの世界の覇権を手に入れることも夢ではなさそうだ。

 

 「まずはイメージ魔法から始めましょう。さっきので魔力は感じ取れましたかな。ここらが難儀なものでまずは己の中の魔力を制御するということから。このように体に魔力を循環させるような」

 

 むむむ、抽象的過ぎてよくわからないが、物は試しにやってみよう。

 頭のてっぺんからつま先まで全神経を集中させる。

 魔力、魔力とはエネルギー。むむむ、いや、前世で言う気のようなものだろうか。ならば流れをイメージして。心臓から体全体に血液が流れるように。

 おお、わかるぞ。今、魔力が体を駆け巡っているのが。

 なんと、私の体が光り始めている。


 「おお、これは何という。まさに魔法に愛されしもの!」


 ホド爺も私の天才っぷりに驚いている。

 いや、まだだ。こんなものでは終わらない。

 魔力とは粒子であり波と考えれば、イメージしろ。私。銀河を巡り星々を渡る光を!

 これだ。更に凄まじい力の噴流を感じるぞ。これが魔力。これが魔法か。


 私に呼応するかのように大地が光り輝き、大気が揺れる。


 「くっ……。はぁはぁはぁ」


 ぷつんと集中力が切れる。息が上がってしまっている。 

 むむ、やはり大きくなりすぎると制御が相当難しい。体力の消費も尋常じゃない。


 「大丈夫ですか。お嬢様!」

 

 へたり込む私にホド爺が駆け寄る。

 

 「はぁはぁ……大丈夫ですわ。それよりも魔力制御について教えてくださいます? これじゃ、使い物にならなくて」

 「あれだけのことをしてまだ……。やはり魔法に愛されたお方だ。この老骨めのすべてをお教えしましょう」


 ホド爺がわずかながら涙を浮かべている。

 私の偉業を目の当たりにすれば、無理もない。

 魔法が扱えそうでよかった。

 だが、私だけが強力なイメージ魔法が使えても意味がない。紋章魔法を詳しく研究し兵士が標準化された強力な魔法を行使できるようにしなければ。

 無論それ以外にも着手しなければならない事が山ほどある。面白くなってきた。

 

 こうして魔力制御の修行法を教わり、ホド爺の魔法講座第一回が終了した。

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