第七章
時は移ろい、私が魔王のもとに嫁いで半年が過ぎた。
外ではちろちろと白いものも降っている。
私達はお互いうまくいっていると思う。
おもに魔王が私に気を使ってくれるからだろうが。
夫婦生活も問題ない。
穏やかな時間が流れていく。
城内がざわつき始めたのは、深く雪が積もった頃だ。
醜いゴブリンやオークの姿にも慣れてきた。
魔王のもとに兵士がやってくると、言葉はわからないが、ただごとではない様子に不安をおぼえる。
「魔王、最近なんだか忙しいみたい」
「ああ、いろいろとな」
「何があったの?」
「人間どもが反旗を翻した」
「!?」
「勇者なるものを押し戴いて戦争を起こし始めたのだ」
「そんな、せっかく平和に過ごせていたのに」
「やはり、偽りの平和であったな」
勇者…いったい何者なのだろう?
魔王と戦うなんて、どうかしている。
彼は何もしなくても殺せるのだ。
無駄に命を散らすこともないだろうに。
「ティナ、国に帰るか?」
私はふるふると首を横に振った。
「国に戻っても私の居場所はないわ」
「危険な目には遭わせぬ」
魔王が私を抱き寄せた。
「大丈夫よね、あなたは強いもの」
「ああ、私は強い」
側近が近づいてきて、こそこそと魔王に耳打ちする。
「城に入ってきたか」
魔王の声が鋭くなる。
「ティナ、奥の部屋へ」
「はい」
私は言われるままに奥の部屋へ行った。
屈強な警備兵が部屋を守る。
「大丈夫…きっと、大丈夫よ」
両手を握りしめて、私は自分に言い聞かせる。
長い、長い時間が過ぎた。
警備兵が争う音がした。
部屋のドアが開く。
「御無事ですか、ティナカーモ姫」
血まみれの鎧姿の少年が、私に駆け寄ってくる。
「お待たせしました。お救いに参上致しました」
「あ、あなた誰?」
「僕はノア、勇者です」
「ゆう、しゃ?」
「もう魔王はいません。あなたは自由です」
「魔王がいない?」
この子は何を言ってるのだろう?
あんなに強いひとが負けるわけがない。
「女神のご意思により、封印されました」
少年の手に仮面がある。
魔王の顔を隠していた仮面。
「あ、あ、あ、ああああああああああ」
私は絶叫した。
仮面を手にする。
「あなた、あなた、どこにいるの?」
部屋を飛び出して玉座に向かう。
そして、みた。
水晶のなかに閉じ込められた、魔王の姿を。
「そん、な…」
あらわになった顔は美しかった。
それ自体芸術作品のように。
私はその場に崩れ落ちた。