第一章
はじめまして、美琴と申します。この作品はとある事情で書くことになり、数日間で完成させました。そのせいで文章の荒さが目立ちますが、拙い私の力量では勢いで行くしかないという結果に。というわけで、どうぞ時間つぶしに読んでいただけるとうれしいです。
16歳。
私はその年齢で未来を閉ざされた。
白い絹のドレスに、裾の長いヴェール。
両手に百合の花束を持って。
鏡に映る私は、見事なまでに花嫁だった。
そうだ。
私はこれから結婚する。
相手は魔王。
なぜこんなことになったのか。
詳しい事情は知らない。
ただ国王の娘として、国のために嫁げといわれただけ。
政略結婚が当たり前だと思っていたが、相手がまさか人間ではないとは予想できなかった。
王女は他にも数人いた。
そのなかで私が選ばれたのは、一番格下の奴隷腹から生まれたせいだろう。
現在の国王である父は、奴隷であった母を自由民にして妾姫にした。
母は父のお気に入りだった。
私が魔王の花嫁に選ばれたのは、正妃とその他の妾姫たちの企み。
嫉み、嫉み、憎悪。
私はいつもいじめられていた。
泣きながら母のもとへ行くのはいつものこと。
これからはもうそれも出来ない。
「姫様、お化粧が」
潤んだ瞳から涙がこぼれそうになった。
私の身の上よりも体面が大事なのか。
「わかっているわ」
私はティッシュで目元をおさえた。
「ティナカーモ殿下、お母上がいらっしゃいました」
侍女を連れた母が部屋に入って来る。
母の目は大きく見開かれた。
「綺麗よ、ティナ」
「ありがとう、母様」
「本当にこんな形であなたを手放すことになるなんて」
「大丈夫よ、母様。私も一応王族ですもの」
「ティナ、約束してくれる?」
「なにをですか?」
「死なないで」
「!」
「けっして絶望しないで」
母が私の両手を握りしめる。
希望を持て、と。
魔王の花嫁として、人間ではない身になるというのに?
「姫様、そろそろお時間です」
「ああ、ティナカーモ!」
「さよなら、母様」
私は母の頬にキスをした。
部屋から出て神殿の祭殿に向かう。
魔たるものが神聖な場所で結婚式を挙げるとは変わっている。
私は父である国王に導かれてヴァージンロードを歩む。
祭壇の前まですぐだ。
父は手を離す一瞬、力をこめた。
無能な自分に腹を立てているのだろうか。
父は国王として有能とはいえないが、父としては優しい良い人だった。
国民が餓えていれば、自分も断食するような、馬鹿で愚かな王だった。
私は無論、父を愛している。
だが、この地獄に追いやった原因でもあるのだ。
多少の恨みもあるだろう。
招待客は皆人間だった。
魔王側からは数人の騎士のみ。
それだけの数でも、この場にいる全員を殺せるのだろう。
怖い。
私は必死になって、その場に立っていた。
司祭様と目が合う。
深い憐みの色が浮かんでいた。
しかたのないことなのだ。
そのとき、扉が開いた。
冷たい空気が白く伸びて来る。
そこには、ひとりの青年の姿をしたものがいた。
人間、ではない。
頭には、耳の上あたりにねじくれたツノ。
顔の上半分を隠す銀色の仮面。
下半分は人間と同じ、薄い唇。
背は高い。
衣装は真っ黒だ。
誰もが息を飲んだ。
彼が一歩歩くたびに、私の心臓が痛んだ。
隣に立たれると、そのまま気絶しそうになる。
だめだ。
がんばれ、私。
国のためなんだ。
私の義務なんだ。
私は必死だった。
だから、司祭様が祝辞を唱えていることも聞こえなかった。
「王女ティナカーモ、貴女は生涯この男性とともに過ごすことを神に誓いますか?」
私が黙っていると周囲がざわめきはじめた。
どうしよう、咽喉が締められたみたいに苦しい。
「王女ティナカーモ?」
司祭様の声にあせりが混じる。
すると隣から声がした。
「誓いは必要ない」
低く透明感のある声だった。
意外なことに綺麗でびっくりした。
「そもそも神などに誓う必要などない。私は神に逆らうものだからな」
魔王は薄く笑った。
その笑みをみて、私はぞくりと震えた。
「で、ではこの婚儀を民衆の意として認める」
司祭様が震えながら宣言した。
「人間ならば、ここで誓いのキスをするのだおうが…」
魔王の黒手袋を通して冷たい手が、私の身体の中に入ってきた。
心臓を握りしめられる。
「くっ」
「少し苦しむか」
そのまま心臓が掴みだされる。
どくんどくんと脈打つ心臓が、魔王の手のひらの上にあった。
「これは私が預かる」
その心臓が魔王の胸のなかへ入っていった。
私は自分の胸に手をあてた。
心臓の脈動はない。
だが、呼吸はしている。
どういう原理で生きていられるのか。
私はもうパニックでおかしくなりそうだった。
だから気を失った。
その直前に訊いたのは、「我が妻よ」という魔王の声だった。
この作品をお読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか? 私なりにがんばって書いたものなので、楽しんでいただければさいわいです。