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episode nine



 さて、やってまいりました日曜日。


 初めてだな、こんなのは。


 篠崎のおっちゃん達の酒盛りなら、連れていかれたことも多々あったけど。

 ありゃ結局お姉さま方に連行されるんだよね。

 別室に。


 え、何でかって? ナニだろ、そんなの。


 同年代の集まりはどんな模様なのか、とても楽しみある。

 どんな服で行けばいいのかな?

 前世は略装の軍服着とけばオッケーだったんだがな。

 

 冬華に聞いてみるか。

 下でドラマを観てたハズ。

 一人の男をめぐる、女達の戦争だとかなんとか。

 俳優の顔も普通で。

 演技も胡散臭かった。

 ヘッタクソ。


「おーい、冬華ー」


 パン一でリビングに降りていった。


 今日も母さんは仕事だ。

 夕方には帰ってくるから、冬華だけで一人寂しく夕飯ってことにはならない。


「なーにーお兄チャン!?」


 チャンだけ裏返った。

 面白い。


「ど、どうしたの? な、ナニかよう??」


 冷静を保とうとしているようだが、出来てない。

 チラチラ視線を寄越しているのがバレバレだ。

 んま、気にしないがな。


「ああ、ちょっと服を選びたいんだけど。どれがいいか見てくれね?」


「え? なにどっか行くのまさかデート!? ダメだよ!?」


 デートじゃねえよ。

 あとダメって何?

 この前話しただろうが。

  

「クラス会だよ。それに何着ていけば良いのかなってさ。トレーニングウェアでいいかな?」


「ああ、なんだ良かった……ダメに決まってるでしょ? お兄ちゃんの魅力を百パーセント引き出さなきゃ!!」


 任せて! と、鼻息を荒くして請け負う冬華。

 

 なお、鼻息が荒いのは気合いではなく興奮である。

 俺の裸体が原因である。


 まあ、俺は流行とかには疎いからな。

 ここは任せよう。


「じゃあ、お願い」


「うん! じゃあ私の部屋に行こ!」


 あれ、俺の服決めるのに冬華の部屋行くの?

 因みに冬華の部屋は1階だ。

 寝室兼自室。


 とてもいい匂いがする冬華の部屋。


「じゃーん、みてみてお兄ちゃん! お兄ちゃんに着て欲しくて色々買ったんだよ!」


 えへへ、夢みたいだよこんな日が来るなんて……と嬉しそうにしている冬華。

 うすうす思うんだけど、冬華って実はヤバイ人?

 近親相姦とか望んでる節あるよね。

 大丈夫かなこの子。 

 

 後で民法を覗いておくか。

 もし近親者での交わりが、法律で禁止されていなかったら。

 冬華と、それから母さんを……ふふふ。

 

 誰に憚ることなく、堂々とな。 


「ん~……じゃあ今日はこれでいいんじゃない?」


 そんなことを考えているうちに、冬華が1着決めてくれた。

 お、略装の軍服に似てるな。

 色とかは違うけど。

 早速着てみる。

 妹がハアハアしとるが気にしない。



 光沢のある黒のカットYシャツ。

 ぴったりとした細めの白パンツにジャケット。

 靴も同色、白のおしゃれな革靴。

 ジャケットのボタンやらは銀色だ。

 なんだか金属の針? と鎖の装飾が付いている真っ赤なネクタイ。

 その針にはサファイアっぽい青い宝石が嵌まっていて、真っ赤なタイに良く映えている。

 ベルトは黒の本革だろうか。

 

 妹よ、いつの間にこんなの買ったんだ。

 サイズがぴったりじゃないか。

 そこんとこ、後でkwsk。


 しかしだな、この格好。


 俺でもわかるぞ、これホストってやつだろ?


 『パーリラッパリラパーリラヘイヘイ!』とか言ってマダムに金を出させ、酒をのむんじゃなかったっけ?

 この字面からは想像もつかない、ハードな職だと聞いている。

 仕事って大変だよね。


 これと対をなすのが、キャバ嬢ってやつだろ?

 指名して、女の子をよんで、金を払う。

 

 んで、セックスする……のは、デリ嬢か?


 ま、せっかく冬華が選んでくれたんだし。

 これでいっか。


「ありがとう、冬華。これいくら? お金払って買い取るよ」


「え! いいっていいって! 私が勝手に買ったんだから! 普通の男の人だったら絶対怒るのに、お兄ちゃん……やっぱり私も一緒に行きたいなぁ」

 

 すまんな、冬華。

 クラス会だから、連れていけんのだ。

 さて、もう6時。

 そろそろ行くか。

 タクシーその辺で捕まえようかな。


「ごめんな、冬華。また今度どっかに連れていってやるからな」


 玄関で、冬華の頭をグリグリ撫でる。

 でも冬華はしょんぼりしたままだ。


「うう……お兄ちゃんの童貞が奪われちゃったどうしよ……」


 冬華や。

 聞こえておるぞ。

 ホントにヤバイな。


 だが安心しろ!

 俺が童貞を奪われることはない!


 こっちの世界の俺の初めては……母さんに持っていかれた!! 


「じゃ、行ってくるよ」


 ひらりと手を振って、ドアに手をかけた。


「あ、冬華。すまん、冷蔵庫何も無いや。母さんに帰りスーパー寄って貰うように連絡しておいて?」


 しかし、そんなことを思い出して、冬華に向き直って謝る。


「うう……わかった」


 うおい、カワエエ。

 口をとんがらせて、両手で裾を握っている。

 美少女がやるとグッと来るものがあるな。


「……行ってきます」


 このままだと連れていっちゃいそうだ。

 我慢我慢。


「うう……」


 そのうめき声をやめろ!

 あと一歩、あと一歩で俺は……(シャバ)に出るんだ!!


 ピロリン♪


 あ、メール。

 誰だろ。

 差出人は母さんだった。


 件名には俺と冬華にってなってる。


 なになに……


『ごめんなさい、会議が長引いちゃってしばらくかかりそうです。帰りが明日になるかもなので、今夜は二人で晩御飯食べてください! キィ、あの開発部長め! いつもいつもいつも余計な案件ばかり出して……結局没になるのに……このまえだって』


 こんなに文句が書いてあるメールとか初見。

 母さん、今夜は俺居ないって言ったやん。

 チラリと冬華を見る。

 

 眉を八の字にして、期待を込めた目で俺を見ている。

 手にはスマホが。

 どうやらメールをみたらしいな。

 ブンブンブンブンと、もし冬華が犬なら物凄い尻尾が振られているだろう。


「……はあ」


 俺はため息をついて、スマホのダイヤルを開いた。


「あ、もしもし裕璃? あ~……あのさ、悪いんだけど……」




 こうして今夜のクラス会に、俺の妹が一人追加されたのだった。





■□■□





~裕璃~


 冬夜くんにオッケーを貰ってからの行動は最速だった。

 各隊員に通達して、お母さんの所に向かう。


「へいマム……じゃなくてお母さん! 次の日曜日、夕方5時以降予約なかったよね!?」


「無いわよ~。予約は10時から14時までしか入れてないもの」


 ふはははははははは! 計画通りじゃ!!


「じゃあ、その日5時から店閉めるまで貸し切りで!」


「いいけど、何かするのかしら?」


 ふふふお母さん、よくぞ聞いてくれた!


「クラス会するの! それでね、なんと! 冬夜くんも来てくれるんだよ!」


 どうだ、驚いたか!


「まあ! あの冬夜くん!? 私も会ってみたかったのよ~! 来る度においしいって言ってくれるのに、忙しくてまだ何も話せてないのよねぇ」


「うんうん、こんなに売り上げが伸びたの、冬夜くんのお陰だもんね~」


「そうね~、スッゴク忙しくなったけど。商売人としては、嬉しい悲鳴だわ」


 よしよし、お母さんからの許可も貰った。

 あとはこの一週間、冬夜くんの機嫌を損ねるようなことをしないだけ!


 やっぱいかねー、なんて言われたら計画がパアになっちゃうもん!


 燃えていたよ!





 そんな風にして迎えた日曜日。

 

 5時を過ぎてからは、クラスのみんなが続々と集結してきた。

 冬夜くん以外全員来たんじゃないかな。


 冬夜くんには今夜って言ってあるから、暗くなってから来ると思う。

 午前中にも連絡あったし、たぶん6時過ぎって言ってたな。


 思えば長い一週間だった。


 途中の咲樹隊員の抜け駆けで、足並みが崩れかけたこともあった。

 あれは冬夜くんが悪い。

 先生が使ったタオルを使うなんて……

 あーあ、あの時近くにいれば使ってもらえたよね~……


 ま、あれは仕方ないか。

 みんなも冬夜くんに押し寄せちゃったし。

 

 そんな事件もあったけど、どうにか今日までこぎ着けた。


「みんな、心して聞いて。私たちは世界で一番運がいいのかもしれない」


 席に着いたみんなが、神妙に頷く。


 因みに冬夜くんの席は、いつもの専用席だ。

 そこは使用されるとき以外、『神聖ニシテ侵スベカラズ』と貼り紙がしてある。

 

「でもね、いつまでもそのままでいたらダメだよ。いつか、私たちは卒業するの。まだ四月? そんなことを考えているようじゃ甘いよ。いい、卒業までに印象づけるの。冬夜くんに、私たちはいい女だって! そして目指すの。彼の子どもを授かれるように!!」


 おお! と、みんなから力強い返事が帰ってくる。


「これはそのための第一歩! 私たちは、これから不断の努力に邁進する!! 努力をせず、今の状況に溺れた者に明日など来ない!!! そんな者たちなど、私たちの敵に非ず!!!! あえて言おう、カスであると!!!!!」


 うわあああああ! 冬夜くん! 冬夜くん!


 みんなのボルテージが最高潮に達した。

 私はスッと手を上げ、周囲を静める。


「では諸君、今回の成功のために一層努力――」


 ~♪ ~♪


 電話だ。

 こんなん時に誰って、え!


「冬夜くん!?」


 ざわざわと周囲に動揺が広がる。

 

 こ、このタイミングで一体……


 数々の可能性が頭に浮かんでは消える。


 だけど……


 だけどまさか!

 

 まさか! まさかまさか!!


 キャンセル……とか……?


 あり……える……


 緊張と恐怖で通話を押す手が震える。

 みんなも同じ結論に至ったのか、固唾を飲んで見守っている。


「も、もしもし? 冬夜くん?」


『あ、もしもし裕璃? あ~……あのさ、悪いんだけど……』


 ――今日無理だわ。


 歯切れの悪い冬夜くんの声。

 静かな店内のせいで、みんなにも聞こえたようだ。 


 そんな彼の声が、最悪の予感を加速させる。


 絶望的な空気が場を支配し始めた。


 静かに涙を流す同志まで現れる始末。


 やはり、冬夜くんの居るクラス会など、幻想でしかなかったのか……!! 


 

 しかし!


 しかし神は見捨てなかった!!!



『あの~、冬華――妹をさ、連れていってもいいかな? 勿論金は払うから――』



 後半は殆ど頭に入ってこなかった。

 もう夢中で頷いた。


 いいよいいよ冬夜くんが来るなら妹の100人や200人問題ないよ。


『助かるよ。じゃ、今から向かうね? みんな来はじめてるんなら、先に始めてていいよ? じゃね』 

 

 通話の切れたスマホをヨロヨロとポケットにシマウマ。


 緊張の糸が切れてその場にへたりコンドル。


 安堵がむね一杯に広がってキタキツネ。




「……よかった」




 誰かが呟いた言葉には、もう万感の想いが込められていた。

 誰しもが同じ気持ちだ。


 へたり込んだまま、深くため息をついた。


「はあああ……冬夜くん……」


 まったく人騒がせな人!

 

 でもステキ!!


 あーあ、早く来ないかな~。


 もう冬夜くん無しには生きていけないかも……


 迎えに行っちゃおうかな? 


よんで下さってありがとうございます


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