episode five
後編
カランカラン♪
相変わらず周囲の視線を集めながら、裕璃の店に到着した。
おう、結構混んでるな。
昼時だから仕方ないとはいえ、この視線はウザいな。
中に居た女性客が、もれなくこっちを見て固まっている。
「いらっしゃいませ! と、冬夜くん! ご案内致します!」
ま、今さらだけどな。
「ん、裕璃さん。後から三人くるんだけど、席空いてるかな?」
「は、はい! 空いてますです、昨日の席で隣をくっ付けて使ってもらってもいいですか?」
「了解、ありがとね」
うっこいしょ、と裕璃が席をくっ付けて、四人掛けにしてくれた。
「い、いえ! それではまた伺います!」
今日は噛まなかったな。
俺と話しているとポンコツそうだけど、このホールを一人で楽々捌いてるの見ると、能力高いのが分かる。
もっと堂々としてればいいのに。
にしてもあー、すげえひそひそ話。
「何あの人立体映像?」
「ほら、噂の天使じゃない!?」
「ヤヴァイはな血が……」
「名前呼ばれてたわね……」
「どういう関係?」
「常連さんかな?」
「ヤりたい」
「舐めたい」
「蹴られたい」
等々。
最後の二つ意味わからん。
マニアック過ぎだろ。
ヤりたいの方が素直でいいわ。
ちょっとザワザワうるせえな。
静かにしていただきたい。
蕩けるような笑みを浮かべて、周囲に流し目を送る。
人差し指を唇にほんのり当て、Be Quietってジェスチャーも忘れない。
こそこそ話してた女性たちは、一様に口をつぐみ、俺に見とれている。
フッ……他愛ない。
さてと、今日はどうしよっかな。
昨日はバーグ食べたから、今日はオムライスにしよう。
後は、んん、シュリンプサラダとアイスティーでいっか。
四人分水を持ってきてくれた裕璃に、まだ来ないからと、俺の分だけもらっても後は断り、注文もしなかった。
歴史関係をスマホで調べながら、待つこと30分少々。
カランカラン♪
「いらっしゃいませー」
「はあ、はあ、あ、あの、待ち合わせをしてるんですけど……」
息を切らしたら冬華が着いたようだ。
走ってきたのか。
ゆっくり来ればいいのに。
「冬華。こっちだ」
全員の視線が俺と冬華を往き来する。
関係性を知りたいようだな。
「あ、お兄ちゃん! 遅くなってごめんなさい」
『あ、兄だと!!』
って顔してるよ、全員。
おい裕璃、お前もか。
「構わないよ。誘ったのは俺だからね。友達は連れてこなかったのか?」
刮目せよお前ら。
この紳士的対応の俺を。
惚れてくれてもいいんだぜって……今さらか。
みんなメロメロか。
あっちじゃ気遣いの出来ない男なんて、見向きもされなかったのにな。
こっちの世界に来れば、存在しているだけで誰でもリア充街道を往けるぜ?
んま、俺はあっちでもこっちでもイケメンなんだけどね。ごめんね。
はいすいません。
「一緒に来たよ! あ、こっちこっち」
そう言って冬華は、二人の美少女を連れてきた。
「お兄ちゃん、紹介するね? こっちが加那ちゃん、で、こっちが七海ちゃん」
おお、クールビューティー。
泣き黒子がエロい。
カナ、ね。
ナツミは、と。
うわ、ロリッ娘じゃん。
ぱっちりお目目が仔猫みてえだな。
「よろしく、カナちゃん、と、ナツミちゃんでいいかな? 冬華の兄の冬夜です。ごめんね、急に呼び出して。好きなもの食べていきなよ、俺が出すからさ」
微笑み掛けて挨拶をする。
……あれ、固まらないな。
緊張してる感じ?
「じ、実在してたのね……」
うん、実在してるよ。
「本物だ~」
モノホンっすよ。
「ほら冬華、座って。二人も掛けなよ」
とりあえず冬華を隣に座らせ、対面にカナとナツミを座らせる。
「はいメニュー」
「ありがとお兄ちゃん」
「あ、ありがとうございます」
「どーもです」
■□■□
最初は緊張してたみたいだが、注文して、料理が届く頃には打ち解けてきた。
「おいしーね、お兄ちゃん!」
マジ天使冬華たんさいカワさいツヨprprしたい。
あ、俺もマニアックだわ。
さっきの人ごめんなさい。
「うん、そうだな。一口くれよ、オムライス一口やるから」
「え――」
そう言って、冬華のフォークに刺さってたバーグをパクッと食べた。
ポカンと口を開けた冬華に、スプーンに乗っけたオムライスをあげる。
もちろんフーフーするのは忘れない。
「ほら、あーんしてよ冬華」
「えっ! あ、はい、あーん……むぐむぐ」
「オムライスもうまいだろ」
「は、はひ、お兄たま。とてもおいちうごじゃいまちゅ」
麿化して幼児退行しました。
このやり取りを、口をあんぐり開けて見ていた正面の二人。
可愛い娘がやると可愛いだけだな。
真理かはたまた世の摂理か。
からかってみるか。
「食べたい?」
2、3口食べてから、オムライスを乗っけたスプーンを二人に向けて、聞いてみた。
案の定、クールビューティーの加那は、
「い、いえ! 私はその……」
なんてがっつかなかったけど。
素直そうな七海は、
「食べたいです! あーん!」
って、言ってきた。
「じゃ、ほら。あーん」
パクリと口をいっぱいに広げて、オムライスを頬張る七海。
その様子を微笑ましく眺める俺。
その顔に見とれる加那。
これがいわゆる三角関係……では無いな。
スプーンを抜くときに、舌を絡み付かせたのが、異様にエロかった。
幼い雰囲気とあわさって、背徳的に感じた。
あざす。
そのスプーンを使い、気にすることなくオムライスを食べる俺。
「あ――」
「ん、なに?」
「あ、なんでもないですよっ」
声をあげた七海に問いかけるが、首をふってそう言われた。
特に追求はしないが、俺は聞き漏らしていない。
――間接チューだ。
と、嬉しそうに呟いたのを。
聞き返すほど野暮じゃあるまい。
「……いいな」
ポツリ、と加那が漏らした。
加那よ、チャンスはそうそう巡っては来ないんだぜ?
ま、今回は社会の厳しさを教えたいわけじゃないからな。
「ほら、美味しいぜ? オムライス、ホントに食べないの?」
もう一度加那の前に、スプーンを差し出す。
加那は一瞬驚いて躊躇ったが、頬を染めてパクリとくわえた。
見ろよこの嬉しそうな顔。
デレると尽くすタイプだわ。
尽くされてえな、ベッドの上で。
JCとは思えない。
言ってみようかな?
いや、俺が言うと冗談にならなそうだからやめとくか。
こんな感じで、冬華達との昼食は過ぎいった。
帰り際、レジで会計をしている裕璃は、泣きそうな、悲しそうな顔をしていた。
原因は大方予想がつくがな。
「ごちそうさまでした。裕璃のお母さんにも伝えておいて?」
「は、はい! あの、冬夜くん……」
言い澱んだ裕璃の耳許に、サッと顔を近づける。
「今度は裕璃さん……裕璃にも食べさせてあげるよ。一口とは言わずに……ね。何なら膝の上にでも座る? ――ふふ、それじゃ、ごちそうさま!」
舐めるように囁いたあと、普通に手を振って出てきた。
囁かれた裕璃は、茹でたカニみたいになって、突っ立っていたそうな。
■□■□
「じゃあね、二人とも。気を付けて」
「ばいばい加那ちゃん七海ちゃん!」
「「ごちそうさまでした」」
結局、いい時間だったので、店の前で解散した。
二人の美少女の連絡先も貰えてウハウハだ。
「お兄ちゃん、今日はありがとう!」
「ん? いいよいいよ。金ならあるし、使わなきゃもったいない」
それに、と続ける。
「冬華とご飯食べたかったんだ」
どうだ、あざといだろ? でもそこがしびれる。
「お、お兄ちゃん!」
「何?」
「あ、あの! て、手を握ってもいいですか!!!」
「うん、いいよ? ほら」
「あう――」
ぎゅっと冬華の手をとって歩き出す。
夕日が俺と冬華の影を長く写している。
俺と冬華、まるで映画の一コマのように、仲良く歩いていったのだった――
――ああ、このままラブホにしけこみてえな。
俺の心が漏れなければなっ!