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episode four

前編

「グーテンモルゲン」


 ムクリと体を起こして伸びをする。

 時刻は午前4時50分。

 外はまだ暗い。

 

 昨日は9時に寝た。

 七時間ないし八時間は睡眠時間を確保せねばな。

 

 昨日の風呂は最高だったなしかし。

 いや、ヤってないよ?  

 まじまじ。

 髪と体を洗ってやっただけですよ。

 近親相姦(犯罪)とかしてないです。

 

 にしても、妹とか兄弟姉妹がいるのって珍しいよな、この世の中で。

 父親たる人物と母さんがラブラブなのか、たっけえ金積んで精子買ったか。


 ……たぶん後者だな。


 この家金持ちだし。

 昨日ざっと見た限りじゃ、家に父親の気配ないし。

 ましてこんな社会だし。


 それより、何で訊かれないのかね?

 急に態度が変わったこと。

 ナイスな言い訳考えたのに。


『辛い思いをしたあの3日間で、少し思うところができたんだ』

  

 これでいいでしょう。ほかに思い付かないんだもの。これでどうにかするしかないんだよ。


 そんなことを考えながら、床に座って体を解す。

 結構柔らかいんだよな、この体。

 将来性があっていいね。

 軽く筋トレもいれて、午前5時半位になった。


 部屋を出て、1階の風呂に向かう。

 

 余談だが、1階はリビング、キッチン、風呂、それから冬華と母さんの寝室。

 2階は応接間、あとゲストルーム。

 3階は俺専用のフロアである。

 

 驚きだよ、特に3階は。


 脱衣室で服を脱いで、洗濯機に放り込む。

 

「風呂も広いよな~」


 適当に汗を流して出た。

 外はもう明るくなってきている。

 寒いけど、タオルを腰に巻いた状態でトースターに食パン2枚を放り込む。


「服とか全部部屋なんだよね……取り行くのだるいわ」


 構わねえだろ、裸で。

 死ぬわけじゃあるまい。


 焼けたパンにバターを塗って、ハムとレタスと神の調味料(マヨネーズ)をかける。

 完成。


 二人はまだ起きてこない。

 6時半ごろ起きてきたな、昨日。


 テレビを点けて、ニュースを眺める。


『次のニュースです。昨夜未明、○州の×市で男性が襲われました。強漢の罪で現行犯逮捕されたのは△△容疑者、24歳。供述によりますと、ムラムラしてやった。後悔はないが、反省はしている。とのことです』


 ……さいでっか。

 犯罪者ですら美人なのね。

 俺の感覚だと、被害者の野郎にはむしろご褒美だろって思うんだが。

 いろいろ世知辛い世の中だな、改めて。


「んぐ、ごちそうさまでしたーと」


 食べた後を片付けて、電気ケトルをセットした。

 二人は紅茶好きっぽいからな。

 昨日も、朝と夜飲んでたし。 

 

 さてと、イタズラしに行くか。

 

 母さんの部屋は……ここだな。

 元特殊部隊員舐めんな。

 この程度の忍び足、朝飯前だぜ?

 

 まあ、朝飯は食った後なんだが。


 シャワーの音で起きているなんてこともあり得るし。


 それにしても、半裸の男が女の部屋に忍び寄るって……犯罪だわ。

 だが問題ナッシング。

 家族ですから。

 異世界ですから。


 カチャ……


 すうっと寝室に侵……入った。

 

 お、発見。

 すっげ可愛い。

 ホントに三十代か? ありえねーわ。


「すぅ……くぅ……」


 よく寝ておるわい。


 どれ、よっこいしょ。

 もぞもぞと、母さんの寝ているベッドに入り込んだ。

 ふはは、ビックリするだろうな!

 

 転生二日目の朝から絶好調です。

 

「ん、んん……」


 おっと、起きるな。


「ん……え? 冬夜、くん?」


 いきます。


「か、母さん……おはよう。もう昨日みたいなこと、しないでよね? 恥ずかしかったんだから……///」


 体を起こして、布団を両手でもって口許に宛て、目をうるうるさせて、上目遣いでそう告げる。(半裸)

 完璧。


 嘘は言ってないよ?

 昨日の警察沙汰、とっても恥ずかしかったんだから、ね?


 だが、一人で寝たはずのベッドに男、しかも息子が居て。

 半裸で。

 恥じ入っていたら。

 起きたての脳は一体どう処理するのだろう。

 

 あ、寝ぼけ眼のまま真っ青になった。

 すげえ。

 

「と、冬夜くん! 違うんです! 別に昨日冬夜くんと一緒にお風呂入った冬華が羨ましかったとかそう言うんじゃ無くて! お風呂上がりの冬夜くんに欲情なんてしてなくて、我慢できなくて一人でとかしてなくて! でも、でも……」


 ま さ か の カ ミ ン グ ア ウ ト !


 確かに昨日、俺たちの風呂上がりを物欲しそうな顔で見てたよ、母さん。

 そうか、一人でしてたのか……

 生々しいな。

 後でこのベッドの匂い嗅いでおこう。


 思わぬ収穫もあったし、この辺で勘弁してやろう。


「ふふ、冗談だよ母さん。からかってごめんね? 朝ごはん作ってあげるから、早く起きておいで」


 魔性を湛える笑みを浮かべて、母さんの頬を優しく指でなぞる。

 ようやく目が覚め、状況を把握できたと思ったら、さっきの失言を思いだして、赤くなったり青くなったりしている。


 俺はさっきよりも深い笑みを浮かべて、母さんの耳許に顔を寄せた。


「切なくなったら、遠慮無く言ってくれても良いんだよ? 俺は家族なんだから」


 家族って言葉の使い方、間違ってますよ。


 母さんに止めを刺して、俺は悠々と寝室を後にした。





■□■□





 結局その後、母さんはなかなか起きてこず、冬華が先に顔を出した。

 半裸の俺にぎょっとして、顔を真っ赤にしながらもチラチラ見てくる。

 

 ムッツリーニ冬華だなおい。昨日はガッツリー二だったのに。


 腰のタオルをずらして、振り返ったときに少し尻が見えるようにしてやった。

 おっと、チラリズムがガン見ズムになったな。


 早々とガッツリーニ冬華にクラスチェンジだ。


 紅茶を淹れてあげて、これ見よがしに近付いてやった。

 見てる見てる。

 服着てくるか、とかぼやきながら背を向けたら気配でわかるほどガックリしていた。

 どんだけだよ。


 着替えて降りていったら、母さんも起きてきたようだ。

 二人に俺と同じ朝食を出してやったら、この上なく幸せそうに、そして残念そうにたべていた。


 母さん、この程度いつでも作ってやるから、永久保存なんて考えるなよ。

 妹よ、一体何枚写真を撮るのかね? スマホのメモリがなくなっちまうよ。


 そんな一幕があって、また冬華と二人で母さんの出勤を見送った。

 冬華も今日は友人宅へ遊びにいくらしい。

 家を出る前に写真をせがまれた。

 OKを出したら俺だけを撮ろうとしたので、スマホを奪って冬華を抱き寄せ、ツーショットで撮ってやった。


 笑顔と目線は完璧です。


 何枚か撮って、冬華に返した。

 フリーズしている冬華に、気を付けて行ってこいと声をかけて、リビングに引っ込む。


「早く届かねえかな、荷物」


 スマホを弄りながら、昨日買ったウェア等の到着を待つ。


 ピンポーン♪


『宅急便でーす』


 お、来たか。


「はーい」


 判子を持って玄関へ向かった。

 ああ、配達人も美女なのね。

 俺を見て固まるのは、初対面だとテンプだな。


「ご苦労様です、ありがとうございました」


 優しく微笑んで、声をかける。


「ハッ! いいいいえいえ、むしろ疲れが飛びっ、いえ、あの、ここに判子かサインをお願いします!」


 そう言って配達人の人は紙とペンを差し出してきた。


「ペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペン……」


 こわ。

 しょうがないから、ペンを受け取ってサインをする。

 パアッと明るい顔で紙とペンを受けとる配達人さん。

 

「はい、ではお荷物を! 確かにお届けいたしました! それでは失礼いたします!」


「はい、ありがとうございました」


 おっきな段ボールを受け取って、扉を閉める。

 その際、『宅配業者に就職して良かった! このペンで100回はイケる!』とかなんとか聴こえたが、スルーで。


 ペンに関わるとろくなことねえな。

 さすがに引くわ。


 さて、荷物届いたし、昼メシは……

 あー、また裕璃の店行こっかな。

 11時か。

 届いたウェアとシューズ履いて、ランニングがてら飯にしよ。


 やってるかな、今日。

 電話してみるか。

 昨日アドレスもらっといて良かったぜ。


「あ、もしもし? 裕璃? 俺だけど、今日さ――」


 オッケーだった。

 さて、それじゃ着替えて行きますか。

 2万で足りるよね。

 むしろ足りなかったら驚きだよね。


 よしっと、着心地も悪くないな。

 じゃ、出発。





■□■□





~冬華~


「お邪魔しまーす」


 私は勝手知ったる感じで、玄関に上がった。

 階段を上がって、突き当たりの部屋に入る。


「やっほー、加那ちゃん七海ちゃん」


「あ、冬華。やっと来たわね。あれ、何か良いことでもあったの?」


「オッスーとーか! 何々、宝くじでも当たったん?」


 そこには二人の友達が待ってた。

 ここは加那ちゃんの家。

 遊ぼうって誘われてたんだ。


 泣き黒子がエキゾチックな雰囲気の、藍井 加那ちゃん。

 猫っぽい印象が強い、山津 七海ちゃん。

 七海ちゃんは、よくナナミって間違えられるけど、ナツミって名前なの。


 中学校で知り合った友達なんだ。


 加那ちゃんはなかなか鋭い。


「え? うーん、どうだろ? あったのかな?」


 確かに昨日からいいことずくめだ。

 怒られたことはちょっとアレだけど、その後……きゃーっ♡

 思い出すとニマニマしてきちゃう!


「何だか腹が立つわね。さあ冬華、キリキリ吐きなさい」


「おら、吐け吐け~! あ、ところでこの噂知ってる?」 


「ん? あらそれ、私も聞いたわ」


 二人の追求が来るかと思ったら、あっさり終わった。 

 残念、自慢したかったのに。

 スマホでSNSを開きながら、みんなで覗き込む。

 そこには、


『白昼に天使あらわる! 情報求む!』


 っていう投稿が、昨日の日付であった。

 見切れてぶれた、明らかに盗撮の写真も一緒についている。

 色々コメントが来ていた。

 『私も見た!』とか、『ゼビューに居た!』とか、『どうせ合成でしょ?』とか、『天使の使ったボールペン持ってます』とか、『こんな男性存在しない』とかとか。


 気になるコメントがあったけど、この際おいてこう。

 てゆーか、この写真……


「……お兄ちゃん?」


 と、呟いた瞬間。


「「は?」」


 ギュリン! という擬音が似合うほど、二人がこっちに顔を向けた。

 怖いよ。


「お、お兄ちゃん……だとぉ!? 兄が居ることは聴いていたが……貴様! その話kwsk!!」


 キャラ変わってるよ、加那ちゃん。


「ふ、ふふふふふふ信じない信じない。こんな人類がいるなんて信じない。それがとーかの兄なんてもっと信じない。同じ屋根の下……死ね死ね死ね死ねシネシネ」


 瞳孔開いたままブツブツ言わないで、七海ちゃん。


「「嘘だったらブッコロスぞ?」」


 どうしてそこだけハモるの、お二人さん。


 二人に追い詰められて、お兄ちゃんのことを話した。


「いっこ上なのね……中学では全然噂になってなかったじゃない」


「うん、アタシも聞いたことねーなー。どゆこととーか」


「ん、たぶんお兄ちゃん1回も学校行ってないよ、2年生の時。1年の時も数えるほどしか……優しくなったのって、つい最近だし」


「ふーん」


 二人は私の話を真剣に聞いている。

 だけど、少し疑っているみたい。


「とーか。男日照りで妄想拗らせて、この写真みた瞬間架空の設定作っちゃったとかじゃねーっしょ?」


 ちょっと七海ちゃん。

 叩くよ?


「実兄だよっ! ほら、これ証拠」


 スマホのアルバムを開いて、二人に見せる。

 さっき来るとき、玄関で一緒に撮って貰ったやつだ。

 胸に抱かれるとか幸せすぎて死ねた。

 くんかくんかしちゃった。

 笑顔が眩しすぎる。

 視線にドキドキしすぎる。


「「ガハッ!」」


 あ、二人が轟沈した。


「「冬華様、どうかその写真頂けませんでしょうか?」」


 おー、からの見事なDOGEZA。

 清々しい。


「これで信じてくれたでしょー?」


「うん、本当だったのね。この容姿で冬華の話通り優しいのなら、幻想生物でも過言じゃなわ」


「うわーマジかよー。ホントに天使なんじゃない? ルシファー的な」


 七海ちゃん、それ天使だけど違うよ。

 堕天使だよ。

 魔王だよ、むしろ悪だから。


「じゃあ、今から行きましょう」


「「は?」」


 手をポンッと叩いて、加那ちゃんが言った。


「冬華の家に行けばいいんじゃない。話通りの人なら、きっと私たちと話してくれるわ」


「おお! かな冴えてる! いこいこ、ほらとーか」


「ええー! ちょっとまってよ~」


 名案だと言わんばかりの二人に、ぐいぐい背中を押される。


「わ、わかったから! 電話して聞いてみるよ!」


「え! 持ってんのケー番!? ホントに優しいんだね、とーかの兄ちゃん」


「今どき女性に連絡先を教える男性って存在するのね……私も教えてもらえるかしら」


「あ、アタシもほしー!」


 もうっ! 静かにしてないと電話かけられないじゃん!





■□■□





「ハッ……フッ……」


 結構きついな。

 やっぱ体力だけは毎日の積み重ねだからな。

 

 今俺は気軽に外を走っているが、この世界は案外セキュリティがしっかりしている。昨日の性犯罪者も現行犯逮捕だったのがいい例だ。

 男に安心して出歩いてほしいのだろう。

 まあその願いむなしく、ふらふら出歩く男はほぼ皆無らしいが。

 

 ~♪ ~♪


 着信だ。

 しゃーない、歩くか。


「ふっ、はあ……ふう……はい、冬夜です」


『お、お兄ちゃん。今大丈夫?』


 冬華か。

 着信表示見なかったな。


「ん、いいよ。どうしたの?」


『あのね、今友達の家に居るんだけど……今から友達連れて家にいってもいい?』


「ああ、好きに……あいや、ダメだ。冬華鍵もっていかなかったろ? 俺、ご飯食べに出掛けてるんだ。それで、鍵閉めちゃった。ごめんな?」


『そ、そうなんだ……ううん、大丈夫。私こそごめんなさい、いきなり電話かけて……』


 うわ、めっちゃ落ち込んどるやん。

 可哀想なことしちゃったかな?

 昼メシ誘ってみるか。


「あー、冬華たちは昼食べたの? 俺が行くのはレストラン名香野って所なんだけど……まだなら一緒にどう? お金は俺が出すからさ、少し遠いけど、友達誘ってくるか?」


『ッ! いいの!? 行く行く、行きます! レストラン名香野だよね! 急いでいくねお兄ちゃん! バイバイ!』


「ああ、ばいば――あ、切れた」


 可愛い妹って、いいもんだね。

 どれ、もうひとっ走りで到着だ。


 気合い入れて行きますか。





■□■□





~冬華~


「今ご飯食べに出掛けてるんだって。良かったら一緒にどうかって誘われて、オッケーしちゃった」


「私は全然構わないけど……」


「とーかの兄ちゃん、平気で女を誘うとか、ガード緩すぎじゃね~?」


「そうね、しかも一人で出掛けてるようだし。大丈夫なのかしら?」


「は、ははは……と、とにかく行こうよ! レストラン名香野だってさ!」


 昨日の出来事が一瞬頭をよぎったが、かぶりをふって追い払う。


「あら、知る人ぞ知る、隠れ名店じゃない」


「そーなん? アタシ行ったことねーや」


「私もないわ。冬華は?」


「私もないかな~」


「楽しみね」


「うーん、でもアタシ、金ねーや」


「あ、お兄ちゃんが払ってくれるって! ね? あり得ないほど優しいでしょ?」


「そうね。早く会ってみたいわ」


「わーい! 旨いご飯だ~男だ~天使だ~」


 私は、嬉しそうな加那ちゃんと、今にも飛び跳ねそうな七海ちゃんと一緒に、レストラン名香野に向かった。





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