episode thirty-seven
お待たせいたしました!
よろしくお願いします。
微妙な、それでいて心地の良い空気のまま、俺たちは食事を終えて帰った。
お会計は当然ながら俺が払った。
……と言いたいところだが、楓さんが払ってくれたぞ。
軽く2万くらいの食事か。
料理は胃に優しいんだろうけど、料金が胃に負担をかけるな~。
金を使うことに抵抗はないが、どうやら俺は貧乏性だな。
そしてそれからの数日間は、テレビの収録で方々へ出かけ。
また、凛先生との特別授業の約束と、七海と加那の2人が泊まりに来る予定が決まった。
とても楽しみでござりまする。
そして日曜をまたいで翌週。
いよいよ今日という日がやって参りました。
そう、冬華と遊園地day。
「いい天気だね、お兄ちゃん!」
「ああ、そうだな」
俺達は楓さんに送ってきてもらい、今は遊園地の入場ゲートへと向かっている。
当然のことながら注目の的になる俺達。
厳密には俺。
もっと言うと、俺の美貌。
フッ、罪作りな男だぜ……。
内心ではこんなバカなことを考えつつも、そいつはおくびも顔には出さない。
安定の美貌。
「DestinyLandへようこそ! お荷物確認、させて……い……」
俺の笑顔で固まる運命の国の職員さん。
「はい、よろしくお願いします」
「します!」
冬華と仲良く荷物を差し出す。
「……っは! で、では拝見……はい、ありがとうございました! それでは行ってらっしゃいませ!!」
流石プロ。
即座に復活して俺達を送り出す。
D社、侮り難し。
あっちでもこっちでも、D社は敵に回したらいかんな。
夜中に消される。
『ははっ、秘密を知った以上キミを生かしてはおけないねっ♪』byミッ〇ー。
……うう、おっかねーぜ。
「わあ、すごーい!! 早く行こうお兄ちゃん!」
待て妹よ。
お兄ちゃんは早漏じゃないぞ。
そんなに急かすな。
「ほら早く早く!」
「焦ってもアトラクションは逃げないよ」
俺は苦笑しながら、手ひっぱる冬華に言った。
「だってたくさん乗りたいんだもん!」
「はいはい、じゃ、行こうか」
「うん!」
沢山の客の注目を集めながら、俺達は最初のアトラクションに向かった。
さて、最初のアトラクションは……何々、『スターガンナーズ』とな。
乗り物に乗って、近未来フォルムの光線銃を使い、宇宙クリーチャーをやっつける。
らしい。
ようはアレだな
ネズ公国にある、『無限の彼方へ、さあ行くぞ!』
アレのアトラクション。
順番待ちをして、やっと俺達の番になった。
係のお姉さんを笑顔で撃沈しつつ、二人乗りの宇宙船に乗り込む。
「お兄ちゃん、勝負!」
「お、いいねぇ」
「負けた方が言うこと何でも聞くの!」
「よし乗った。本気出す」
「私も負けないもーん♪」
光線銃を握り、感触を確かめる。
面白い形だな。
ルガーP08にキャリコM950のヘリカルマガジンくっつけたような、まさしく絵に描いた光線銃。
まあ、負ける気はしない。
『それでは良い旅を!』
運命の国職員に、宇宙へと送り出される俺達。
まもなく、次々と現れるターゲット。
なるほど、このレバーで乗り物の向きを調節するのか。
「えいっ、えいっ! やあ!」
可愛いかけ声をあげながら、冬華は順調にスコアを伸ばす。
「……」
俺は無言でトリガー。
トリガー。
トリガー。
トリガー。
ヒットするたびに、手中の光線銃が震える。
俺の銃は震えが止まらない。
恐ろしい勢いで、スコアが加算されていく。
「やあ、おりゃ!」
「……」
すまん冬華、お兄ちゃんが負ける可能性ゼロだわ。
『お帰りなさーい!』
無事、帰投した俺達。
『おおっと! 今回の旅ではキングオブガンナーが生まれたようだ!!』
でん! と、電光掲示板に得点が表示される。
スコア 459671
あ、俺だ。
『素晴らしい! 歴代1位の記録だあ!』
俺に向けて、惜しみない拍手が送られる。
どーもどーも。
ありがとう。
「つーわけで冬華、俺の勝ちだな」
「そ、そんなバカな……ま、負けた……? 13万で、負けた……?」
現実が受け入れられないのか、冬華は変な口調で凹んでいる。
そうか、13万か。
頑張ったな。
基準はよく分からんが。
ささ、次のアトラクションに向かおうぜ?
■□■□
お次はこれ、『ビッグウォーターホール』
名前のまんま。
うーん、D社の『大雷山』だな……。
そーいや俺、いつだったかアメリカはロスのディズニー行ったんだよ。
休暇でな。
現地の友だちに案内されて、割と楽しかったんだ。
んで、乗ったんだよ。
ビッグサンダー山にさ。
そしたら、あの丸太?
あれ、シートベルト着いてねーんだよ。
バカじゃね。
作りも、体のデカい西欧人が乗れるように割と大きめでな。
最後のフォールで万歳したら、ケツから空に浮いた。
まさか遊園地で身の危険を感じるとは。
乗り終わった後のフォトギャラリーで、俺の間抜け面が晒されて、皆で爆笑したのが懐かしい。
さすがにこっちには着いてるよな、シートベルト。
かなり落差があるぞ。
「ねね、お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん?」
列に並びながら、冬華が俺の裾を引っ張ってきた。
「落ちるとき、おんなじポーズしよ!」
「おー、いいぞ!」
「じゃあ、こう!」
「こう、か?」
よいしょ、冬華の真似をしてポージング。
「「「「「「はううっ♥」」」」」」
列に並んでるお姉さんたちを虜にしたのはご愛嬌。
「はーい、こちらへど、う……ぞ」
案の定、誘導職員は俺に見とれた。
予想通りすぎかよ。
ていうかホントに美人だらけだなー。
そう思うと運命の国って、意味深じゃね?
そんなことを考えつつ、俺達はボートを模した乗り物に乗り込む。
前後二人乗りだ。
俺は後ろに座った。
最初の方は、どんぶらこっこどんぶらこ。
ゆったり進んでいく。
進路には水が張ってあるため、ジャブジャブと水音が鳴る。
「うう~、楽しみだねお兄ちゃん」
「……怖いのか?」
「そ、そんなことない、よ?」
プルプル震えながら、据え付けのレバーをギュッと握る冬華。
可愛いなおい。
ちょうどコースが急カーブびさしかかり、前後の客からの目が消えた。
「ひゃあっ!」
突然冬華が悲鳴を上げる。
「も、もう何するのお兄ちゃん!!」
「あはは、ごめんごめん」
そう、俺が後ろから冬華の耳に息を吹きかけたのだ。
「もー! びっくりしたよ!!」
「ごめんってば。それより冬華」
「ん? なーに?」
「前前、前見てみろよ」
「え? あ、きゃあああああ!!!!」
フワリ。
全身を包み込む浮遊感。
いつの間にか俺達の乗る船は、滝の頂上まで来ていたようだ。
そこからあとは落っこちるのみ。
ヒーハー。
「あわわわわわわわ」
ザッブーンと着水するボート。
冬華がヤバい。
ブルブルしてる。
『お疲れ様でしたー!』
無事乗降口に到着しても、冬華は魂の抜けたような顔をしたままだ。
そんなに怖かったのか。
フォトギャラリーに向かう。
俺は冬華に勧められたポーズをとったが、冬華はガチの絶叫顔。
面白いから記念に買っていこう。
ポヤーンとした冬華の手を引いて、俺はとりあえず近くのベンチへと向かった。
■□■□
「うう……ぐずっ、怖かったよぉ……」
「はいはい」
適当な木陰のベンチに座って、俺達は休憩している。
冬華は俺の胸に顔を埋めてシクシク泣いているのだ。
怖いなら乗らなきゃいいのにな。
道行く美女たちから色々な目で見られつつ、俺は冬華をあやし続けた。
「ジェットコースターとかより全然大人しいだろ?」
「私ジェットコースター乗ったことないもん……」
俺の服を掴み、くぐもった声で答える冬華。
なあ妹よ。
くっつかれるのは嬉しいんだ。
おっぱいとか当たってるし。
でもね、真夏のクソ暑い時期にやられると、ちょっと、うん、イラッてする。
だが、このジトッと汗をかいた女の匂い。
シャンプーか、洗剤から、はたまた体臭か。
甘いミルクみたいな匂いに、少し汗の匂いが混じると、こう、な。
分かるだろう。
さすがにこの程度じゃ勃たないが……そそる。
早う離れろ、妹よ。
お兄ちゃん、こんな公衆の面前で禁断の一線を越えちまいそうだぜ。
……ああ、もう越えてるか。
「冬華、ほら、こっち」
俺は自分の膝を叩いて、冬華を誘導する。
膝枕に切り替えるのだ。
「ん、お兄ちゃぁん」
甘えた声を出す冬華。
その頭を優しく撫でる。
光沢のある艶やかな黒髪は、汗ですこししっとりとしており、また、撫でるたびに香るシャンプーの匂いが俺の鼻孔をくすぐる。
コイツはデカいミッションだぜ。
興奮して、海綿体に血液を集めようもんなら、息子が俺の膝の上に寝ている冬華の頬をこんにちは。
ベッドの上ならいざ知らず、こんなとこでそれはマズい。
勃てちゃダメ。
まさしくミッション インポッシブルだな。
俺に撫でられるのが嬉しいのか、幸せそうに頬を緩める冬華を見ながら、俺はこの後の予定を考えていた。
まだまだ1日は続くぜ。
でももちろん最後のシメは、パレードだよなぁ??
感想、ありがとうございます。
英文法のご指摘感謝です。
普通に見落として……中学英語の文法が……穴があったら入りたい。
遊園地デート……架空の概念ですよね。ね?




