episode thirty-six
宜しくお願いします。
おお、ギラギラした視線が……俺の持つチ〇コに集中してるか?
〇には何が入るかって?
正解は……『ン』とか思ったヤツ。
アウト。
山手線を全裸で一周してこい。
正解は『ョ』でした!
……。
うん……嘘だよ。
そうだよ、『ン』であってるよ。
うっとうしい視線を浴びていると、1人の女性がこちらへ歩いてきた。
「おはようございます、本日はご足労くださり誠にありがとうございます」
えらく丁寧な物腰で、俺たちにあいさつをした。
どうやらお偉方のようだ。
「では、いったん楽屋の方にご案内いたします」
その女性に連れられフロアを進む。
フリフリ揺れる尻を眺めながら、エレベーターに乗り込んだ。
そうして着いたのは、明らかに楽屋ではない部屋。
ホテルのスウィートみたい。
「お好きにおかけ下さい」
「はい」
中央付近のフカフカソファーに座ると、対面にこの女性もかけた。
なお、楓さんは俺の後ろ手に控えている。
「改めまして、Mo-no株式会社代表取締役社長、長谷詩織です。本日は貴重なお時間頂き大変ありがとうございます」
そう言って名刺を差し出してくる詩織さん。
楓さんが動くのを手で制し、自身で名刺を受け取る。
「霧桐冬夜です。今日は宜しくお願いします」
俺もちゃんと名乗るぞ。
あいさつが出来ないヤツはクズだと思ってるからな。
「こちらは私の警護官です」
楓さんを紹介する。
ぺこりと頭を下げ、互いに会釈する2人。
美人2人、絵になるわ~。
しかし、詩織さんは丁寧な人だな。
全然がつがつこないし。
この若さで社長の座に着き、俺でも名前を知ってるほどの大手雑誌を出版している。
世界のブランドからの信頼も厚く、皇国向け商品の広告塔だ。
そんな人と、俺は今日の日程を話し込む。
小一時間ほど詳細を話して、最後に俺はとあるお願いをした。
「――と、いうのって……可能ですか?」
「ええ、むしろこちらからお願いしたいです。ぜひ私どもにお任せを」
「いやぁ、ありがとうございます!」
「いえいえ」
俺がにこにこしながらお礼を言うと、少しはにかんで返してくれた。
とても可愛らしい笑顔だ。
後で食べたい。
「さて、それでは撮影に入りましょう。この部屋で着替えをしていただき、その後メイクをお呼びしますので」
「了解です」
と言うわけで、頑張ります!
■□■□
「じゃあお次は……はい、ありがとうございます!」
色々指示をくれるのでとてもやりやすい。
俺はトーシロだからな。
相手方が求めるものに対して真摯にあらねばならぬ。
これが武士の道じゃ!
うん、嘘ね。
自分を魅せるのは習ったけど、自分を魅せるように商品を魅せるなんで知らねーもん。
読モはすげーよなぁ!
『俺の〇がこんなに可愛いわけがない』の〇乃とか? あ〇せとか?
つーかさ、『妹』の部分を伏せると意味深じゃね。
めっちゃエロい、な……。
閑話休題
「はい、はい! オッケーです!!」
「じゃあ休憩で~」
「「「お疲れさまでーす!」」」
とりあえず前半戦が終わった。
さて、昼メシを食おうか!
「あ、あの、霧桐さん!」
「ん?」
何人かのモデルさんたちが、俺の前に来た。
「ご一緒してもよろしいですか!?」
「ええ、もちろん喜んで」
「わぁ!」
「やった!!」
嬉しそうに喜ぶガールズ。
とても、とてもとても可愛らしい。
ありがとうございます! と、俺たちの周りに寄ってくる。
いい匂ーい。
俺にはお弁当が支給されているが、モデルさんたちの何人かは手作り弁当の人も居る。
「あ、あの! よかったらどうぞ!!」
俺が見ていたからだろうか、手作り弁当の子の1人が、差し出してくれた。
ステキや。
「ありがとうございます」
ニコリと微笑んで、俺は黙って口を開けた。
「あ~ん」
「……へ?」
「あ~ん」
「……はひ、あ~ん」
「ん、むぐむぐ……美味しいです!」
「は、ひ、ふ、へ、へい、お粗末さまでした……」
男は黙って、あーんを要求!
モデルさんは、俺が咥えたフォークをポヤーンと眺めると、次の瞬間にはおかずに突き刺して躊躇いなく口に入れた。
「……し、しあわしぇ~♡」
蕩けたお顔で頬に手を当てる彼女。
ふはははは!
そうだろうそうだろう、幸せだろう!
良きに計らえ。
調子に乗った俺だったが、ここで自らの学習能力の低さを露呈させた。
つまりな、この後どうなるのかって考えてなかったよ。
「わ、わたしも!」
「ずるいわたしも!」
「あーん!」
「ちょ、抜け駆け!!」
「うるさい!!」
「あ、それ私の!!」
etc.
ですよね。
案の定、戦場と化したフィールドを収めるのに苦労した。
鎮圧は対辺だった、だがしかし!
あーんを受けて、あーんをして、ついでに連絡先もゲットだぜ!
くふふ、今日1番の収穫だ。
■□■□
「以上で撮影終了になりまーす! お疲れさまでしたー!」
「「「お疲れさまでーす!」」」
そんなわけで、今日の日程は消化した。
「ありがとうございました」
あいさつをしながら、楓さんを伴い出口に向かう。
「霧桐さん」
帰り際、詩織さんに呼び止められた。
「ああ、詩織さん。今日はお世話になりました」
「いいえ、こちらこそ。ふふ、来月の発行部数はうなぎ登りでしょうね?」
「だと私も嬉しいですが……それでは例の件、宜しくお願いします」
「お任せください。では本日の感謝料、指定の口座に入金させて頂きます」
「ありがとうございます。それでは、また」
「ええ、お待ちしております」
何て話をして、俺たちはビルを出た。
しかし落ち着いた人だな。
長谷詩織、か。
詳細な経歴が気になっちまうぜ。
駐車場の車に乗り込み、楓さんが車を出した。
夕焼けに染まる景色が後方へ泳いでいく。
車の窓から差す光も、真っ赤に染まって俺の顔を照らした。
「と、冬夜様」
「ん?」
楓さんが話しかけてるのは中々レアだぞ。
「お、おつかれさま、でした……とても、かっこよかったです」
顔を赤らめながら、ポソポソとそんな言葉を贈ってくれる楓さん。
……ああ、何というか、いじらしいな。
こういう所、本当に可愛いよ。
俺が薄い笑みを浮かべながら楓さんをみていると、反応がないのが不安なのか、チラチラ俺を見てくる。
「……楓さん、どっか寄ってこうか」
返事をせずに、ただ逢瀬に誘う。
「あう、ど、どちらへ」
「夕飯でも……どう?」
「は、はいっ!」
彼女の視線に流し目で応えると、嬉しそうに頬を緩める楓さん。
さて、母さんたちに連絡しないとね。
楓さんとご飯とか言うと余計な火種の元になるからな。
うまくぼかして帰りが遅くなることを伝えねば。
■□■□
「カンパイ」
楓さんにグラスを掲げて、軽く内容物を喉に流し込む。
楓さんも俺に続きグラスを傾ける。
おっと、もちろん赤ワインじゃないぜ?
ジュースだジュース。
酔っぱらいが車を運転しちゃならんのは、あっちでもこっちでも同じなのさ。
窓の外には、高層ビル上階から見える独特の夜景が広がっている。
落ち着いた店内。
ちょっとお高い食事処ならではの景色だな。
俺たちがチラリとボーイ……いや、ガールの方へ手を向けると、空いた前菜の皿を下げて次の皿を出してくれる。
まあ、俺はコース料理出されると『うわっ、すくねぇ!』って思っちゃうタイプだから。
うめぇんだからさ、もっと盛れよ? な?
って言いたくなる。
前の人生でも、お偉いさんに連れられてちょくちょく行ったけどさぁ。
俺は馴染みのおばちゃんがやってる飯屋とかのが好きだったわ。
タレをよく絡めた肉とか、山盛りの米の上に乗っけてかき込むの。
サイコーかよ。
あーあ、思い出したらおばちゃんのメシが食いたくなっちまった。
もう二度と食えねぇからなぁ。
そんな感傷的な気分になった俺は、視線を窓から戻した。
すると、ふと楓さんと視線が交錯する。
じっと俺を見つめる楓さん。
「……つ、つまらない、ですか?」
少声を震わせて、そう俺に問うた。
あちゃー、内心が顔に出てたのかな?
顔の皮の厚さには自信があったんだけどね。
俺は淡く微笑んで、誤魔化す。
「そんなことは――」
――ない。
と、最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。
代わりに出たのは、間抜けな声。
「……え?」
泣いている。
俺じゃない。
楓さんが、だ。
「……あ、あう、ごめ、ごめんな、さい」
どうしてアンタが謝る?
自分が涙を流していることに気が付いた楓さんは、慌てて目元をハンカチで抑えた。
どうしてアンタが涙を流す?
「ご、ごめんなさい……わ、私と居るのは、つ、つまらない……?」
「そんなことはない!!」
思わず語気を荒くしてしまった。
ビクッと肩を震わせる楓さん。
というより、俺は楓さんにここまで思わせるほどの表情をしていた、のか?
完全に俺の落ち度だな。
俺ご出したキツい声を聞いて、ガールが寄ってくる。
目礼をして、非礼を詫びた。
「……そんなこと、ないよ」
改めて柔らかい声音で告げる。
「ただ、そうだな……少し思いだすことがあったんだ」
「……」
目を伏せて、俺の言葉に耳をかたむける楓さん。
そんな彼女に、俺は半ば独白のように言葉を奏でる。
「当たり前の事は、やっぱり無くしてみないとそのありがたみは分からない。ありきたりな言葉だけど、それはまさにその通りだった……って、まあ、そうだね」
いったん言葉を切り、楓さんを見つめる。
「……もし、もし俺が……いや、もう少し経ったら、その思い出を楓さんに教えるよ」
そう言って俺は優しく微笑んだ。
よく磨かれた窓に映る、陰りの差す少し寂しげな俺の笑顔。
その顔は、決して口には出来ない秘密を、苦悩を抱えた、儚くも美しいもので。
まるでくすんでひび割れた、それでもなお確かな存在感を放つ輝石みたいで。
俺に似合いすぎて困った。
読んで下さりありがとうございます。
感想返せずに申し訳ありません、しっかり読ませて頂いてます!
……更新早く出来るよう頑張りますね……orz




