episode thirty-four
大変お待たせいたしましたorz
迫り来る左コーナー。
都合良く曲がり角の内側は砂利の広場みたくなっている。
一瞬右へとハンドルを切り、グイッとブレーキペダルを踏んで左にハンドルを回す。
スピード出して突っ込めるかバカヤロウ。
死んじまうだろーが。
上手くブレーキを離しながら、うおすげえケツが出て来た。
下が砂利ってのが利いてるな。
多分アスファルトなら出来ねーわ。
ペダルの踏み込みを調節しながらハンドルを操作。
やべぇやべぇホントにドリフトしとるすげえ。
ただ、楓さんのやるドリフトとはなんか違う気がする。
なんちゃってドリフトだな。
ヤツはマニュアルだし、仕方ねぇか。
覚えると楽しいよね、マニュアル車ってさ。
ジョリジョリジョリジョリと音を立てて滑る車。
曲がりきって、タイヤが砂利を出る。
そして再びタイヤがアスファルトをしっかり掴み、車はちゃんと道路に戻った。
アクセルペダルを踏み込んでグイグイ加速。
あんまりブーンキィイー! みたいなんじゃ無かったな。
バックミラーには、上手く付いてこれた1台と、ミスってクラッシュした1台が映っている。
砂利だから滑ったんだな。
へーザマーミロバーカバーカ。
「はは、冬華見てみろ! 俺も一歩間違えたらアレの仲間入りだったぞ!!」
嘘だけど。
冬華が青い顔で俺を見てくる。
「お、お兄ちゃん……そういえは何で運転できるの……?」
「ん? そんなの冬華の兄ちゃんだからに決まってるじゃねぇか」
さも当たり前のように告げる。
大事なのは断然と言い切ることだ。
キョドったら負け。
大きな嘘、真っ赤な嘘ほど自信満々に言い切れ。
ただしCIAとFBIには絶対やるな嘘つくな。
そこら辺ヤバい。
マジでヤバい。
天才詐欺師でもない限り嘘バレる。
今の嘘はまあ、冬華以外なら100%バレると思うんだけどね。
「え? そうなの? う~ん……そっか! お兄ちゃんだもんね!!」
「そうだぞ~」
左手で頭を撫でてやると、嬉しそうにニコニコする冬華。
ほらバレない。
チョロい、チョロいぞ。
いつまでも眺めていたい笑顔だが、そんなことして事故ったらシャレにならんので前を向く。
『オペレーターです。そのまま直進してください』
「了解」
後ろを確認しながら車を飛ばす。
にしても対向車が来ないな。
まあ道が広くて嬉しいんだけど。
右へ左へ互いに牽制しながら道なりに進み続けていると、やがてヘリが数機上空に現れた。
『オペレーターです。ヘリが到着しましたか?』
「はい、確認しました」
『了解……包囲完了。もう大丈夫です』
「了解です」
後ろのヤツはヘリが来たことで、よりデンジャラスなチェイスになってきた。
あぶねぇなくそ。
ヘリ来たんだから早く引き返せよ。
直後、前方に沢山の豆粒が見えてきた。
徐々に大きくなる豆粒。
「……おお、すげぇ」
認識できる距離まで来たら、豆粒がパトカーだって事が分かった。
ずいぶんな壮観だぜ。
完全にこの道を封鎖してる。
何台くらい集めたんだろうな?
これには後ろも大慌てでUターン。
だが、そうは問屋が卸さないぜ?
上空のヘリの射手が、牽制の弾を数発撒いた。
蛇行する車。
それでもなお逃走を計るが、後方、つまりテロリストの進行方向を、6台の警察車両が塞ぐ。
なるほど、俺たちの後ろにも回していたのか。
はは、詰んだな。
恐らく警察特殊部隊だろう、短機関銃で武装した連中がテロリストを制圧する。
軍と警察の同時展開か。
すごいな。
制圧するって文面だと何か大人しいけど、実際はぶん殴って馬乗りで拘束しとるからな?
哀れテロリスト、抵抗したらたこ殴りだよ。
正義なんて、立場や思想、受けてきた教育でコロコロ変わるものだ。
別に彼女らテロリストを擁護するつもりはないが、彼女らにはそれ相応の正義があったのだろう。
だからって冬華を拉致るのはやめてくれ。
許さん。
まあ、今回の場合拉致というか、うーん……
冬華がアホの子だった説の裏付けになるような感じだったか……?
車を降りてぼんやり風景に目をやる。
警察だか軍隊だか、俺に話しかけてくる。
頼むから平穏な日常を僕にください。
平穏じゃないのは女性関係だけで十分なんだよ。
全くもう。
■□■□
「ああ、最高」
7月の昼下がり。
てなわけで。
夏休みに突入しました。
あの後は色々事後処理して、部隊を撤収させて。
又聞きだが、テロリストの皇国支部に強襲をかけて壊滅させたらしいぞ。
んで、俺と冬華は学校祭の後片付けすっぽかしたし。
しょうがねーじゃん。
出れるわけないじゃん。
終業式すら出てねえし。
所で今は何にしてるかって?
ナニじゃねえぞ?
「どう?」
「痛くない?」
「大丈夫?」
「おー、すっげ気持ちいい」
真璃麻友愛奈の3人を自宅に呼んで、マッサージ受けてます。
この前途中で終わっちゃったんだもん。
もうデフォルトでこの3人だわ。
あーそこいい。
もっとグイッとおうふ。
JCの指圧とは思えん。
ピーンポーン♪
あ、インターホン。
えー出るのダルーい。
「楓さーん」
……返事はない、ただの屍のようだ。
「あれ?」
居ないの?
「冬夜くん冬夜くん」
「警護官さんなら」
「さっき出かけますって」
「「「言いに来たよ?」」」
「あ、あと冬華ちゃんも」
「うんうん、一緒に行くってー」
「そうそう、言ってた言ってた」
「「「ねー!」」」
「あー……そういや聞き流したな……」
仕方ない出よう。
受話器も映像も確認にしないで、そのまま玄関を開けた。
そこに居たのは――
「……こんにちは」
――この前のテロリストのお姉さん!
反射的にパンチ!!
を出した瞬間、彼女は両手を上げた。
あごの前ほんの数センチで、拳を寸止める。
「……皇国軍に掃討されたんじゃなかったんですか?」
腕を引っ込め、それでも臨戦態勢で疑問を口にした。
「その節は、大変なご迷惑をおかけしました」
申し訳なさそうに頭を下げるお姉さん。
両手を上げたままなので、最高に面白い。
チベットの五体投地みたい。
ちょっと和んだ。
「で、なんで娑婆におるんですか?」
「……私はこういう者です」
おずおずと懐から手帳のようなものを取り出した。
俺に渡してくる。
なになに……
『スメラギ皇国軍 階級中尉 黑河 菖蒲』
……こいつも所属無しか。
周りに機密要員が多過ぎだろ。
「こんなの見せてよかったんですか?」
「……はい」
取りあえず上がってもらう。
もーなんで軍人の知り合いばっか増えるの?
日常よ戻ってこい。
「ちょっと知り合い来たから、テレビでも観ててー?」
「「「はーい」」」
3人に声をかけて、応接間へと向かう。
はあ、マッサージ。
まだ途中だったのに。
階段を上り、扉を開けた。
対面に座って話を始める。
……対面に座る、つまり対面座位!
はーいすいませーん。
マジメにやりまーす。
■□■□
なるほど。
簡潔に言うと、黑河中尉はスパイダー。
クモじゃないネズミ。
スパイだ、スパイ。
内部から連中を探っていたみたいね。
ハイ納得。
軍の工作員だったのか。
この国もけっこうやることやってるからな。
そういう部署とは、普通パンピー関わらないハズなんだけども。
俺の所来ないでよ。
ねえマジで。
はよ帰れ。
「で、話はそれだけですか?」
辟易したように腕を組んで、中尉に尋ねる。
「いえ、そっちはおまけで……こちらを」
おまけで余計な情報持ってくるなボケ。
ったくよお。
ぱねぇスケールなんだよ。
いらないのそーゆのはさあ。
オメーマジでふざけんなよ?
ッんと無いわ。
パンピーにそんなこと伝えないでくれ。
イミわからんわ。
↑この列、頭文字を縦に読んでみて?
モミモミっと。
ふざけるのはどれくらいで、中尉から手紙を受け取る。
やけに重厚な手紙だ。
差出人は……
おいだからふざけn
『スメラギ皇国皇室』
宛先 『霧桐伯爵現当主及び其家族』
まじイラネ。
しかも俺当主じゃねーし。
「……なにこれ」
「2週間後に行われる、第一皇女10歳記念パーティーの招待状です」
「うんそうなんだ、で?」
「出席して下さい」
「え、やだ」
「こういうとき、国内の爵位持ちは式典に出席するでしょう?」
え、しらねーんだけど。
やばいそんな常識知らなかった。
「でも、伯爵なのは母さんですよ?」
「冬夜様はその嫡子ですから。ご家族ですから」
「貴族なんて肩書きだけじゃん。貴族らしい生活送ってる貴族、この国にいるの?」
「う~ん、探せばあるいは……?」
「つーか、どこの家もこうやって手渡しで来るんですか?」
「いえ、今回は特例です。通常は郵送されますね」
ねえなんで?
俺んちだって郵送でいいじゃんさあ。
何なのよホント。
「……なんで家だけ?」
「冬夜様のエピソードを陛下がお耳に挟まれたようで……ぜひお会いしたいと」
「待って下さいストップストップ。何で陛下が出てくるんですか!?」
「世間の事はよく知っていらっしゃる方ですし、今回の様な事件は全て陛下にも報告が行きます」
あー、ここは日本じゃねーんだよな。
行政や立法、司法に携わってはこないけど、だからって日本みたいに完全に象徴的な存在でも無い。
なんつーのかな、うーん、現行日本の憲法は日本国憲法だったけど。
明治憲法、つまり大日本帝国憲法下のまま民主化したら、このスメラギ皇国に近いかも。
だからって独裁じゃないぜ?
普通に民主主義。
でもやろうと思えば、皇王が好き勝手に出来る道も存在している。
あくまで憲法上可能なだけであって、実際はやらないしやれないだろうが。
少なくとも表立っては、な?
「で、皇女のお誕生日会を口実に俺を呼びつける、と?」
「まあ、そうなりますね」
「でも、他の貴族も来るんですよね」
「はい、祝日ですし。それに召集された国事への出席は、学校や会社において欠席欠勤等なりませんので」
「……伝えておきます」
「くれぐれも、よろしくお願いします」
そんな感じで中尉を追い返した。
一応連絡先も交換しておいたし、何かあったら連絡しよう。
ま、交通費とかは国が出してくれるし。
別にいっか。
■□■□
「冬夜くんのお友だち?」
「何お話してたの?」
「聞いてもいい?」
「うん? いいよ、これ」
再びマッサージを受けながら、先ほどの招待状を見せる。
「「「へー! 冬夜くんの家って貴族だったんだね!」」」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「「「知らなかった!」」」
グイグイっと背中を押される。
はー、夏休み、ねえ。
取りあえず、このパーティーに出席して。
後は、あ、茅野先生を落とさなきゃ。
勉強を口実に、自宅デートしよう。
うんそれがいい。
あとは七海と加那をお泊まりさせて……クハハ。
あれ、案外楽しそうな休みになる予感?
感想、読ませて頂いてます!
やっと1日休みが来たので、更新できました……
今月は10回は更新したい……!
それでは。




