episode thirty-two
膠着。
誰もが動きを止めている。
ただ時計の針が動くだけ。
沈黙が支配する空気の中、如月大尉が口を開いた。
「郡山少尉、こちらの男性は一体……」
俺の態度、行動、視線、覚悟。
全てが常軌を逸っしている。
恐らく俺みたいな存在は、この世界に唯一人だろう。
アンタの疑問も最もだな、如月大尉。
じゃあ楓、さん。
興奮すると敬称が抜けちまうな。
もう呼び捨てでいいかな?
まあ今はいいや。
ほれ、教えてあげな。
「む、霧桐冬夜様で……わ、私の主で、う、その、す、すす、ステキな、男性……れすぅ……」
あう、とテレテレになる楓さん。
しかしモニョモニョしながらも集中は切らさない。
お前は天才か。
そして若干空気がざわつく。
覆面でも分かる、羨ましそうな目を楓さんに向けておるわ。
如月大尉、アンタもかよ。
少し羨ましそうな目線になってるぞー。
……よし、決めた。
とりあえず彼女らを籠絡しよう。
きっと男に飢えているんだろうな。
軍隊なんてそれこそ完全な女性社会だろうし。
特殊部隊は過酷な訓練に明け暮れ、過激な任務へ陰に日向に従事して。
性欲とか発散してる暇、無いだろう?
お兄さんに任せなサイ。
「……ふぅ、動いたら暑くなっちゃったよ、全く」
俺は何気なしに拳銃と手榴弾を楓さんに預ける。
そして未だ衣装のままの格好から、シャツのボタンに手をかけて服を脱ぎだした。
隊員たちは俺から武器が離れた時動き出そうとしたが、楓さんの牽制と俺のいきなりの脱衣によって止まった。
「……おいしょっと」
パサリとシャツを下に落とす。
俺の下で背中を踏まれて立てない状態にある隊員の顔に、フワリとそいつがかかった。
「ふえ!?」
素っ頓狂な声をあげる隊員。
何気に可愛い声だなおい。
上はVネックの肌着1枚となった俺。
胸元から覗く鎖骨と筋肉に、みなさんもう興味津々だ。
ストリップショーはまだ続く。
肌着も脱いで、完全に上半身はネイキッドだ。
ゴクリ。
誰かが息をのんだ音がする。
この4ヶ月ほどで鍛えた体は、恐らくこの国の男達の誰よりも引き締まっているだろう。
スーパーモデルも顔負けだ。
このラインたまらない。
「ん、ありがと楓さん。俺の部屋からウェア取ってきてくれない?」
アイコンタクト。
「は、はい……」
壁に背を預け、再び武器を構える。
上半身ネイキッド+銃火器=ハリウッド。
俺も前軍人じゃなかったらハリウッド行けば良かったかな?
英会話ならそこそこ出来たし、日本人役で出れたんじゃねぇかなぁ?
そうすれば長生き出来たんじゃね。
まあ、机上の空論だな。
「と、冬夜様……こちらを」
「お、ありがと」
そう言って俺は受け取ったウェアを着た。
みんなガッカリしたような雰囲気をだしている。
甘いよ、甘い。
カチャカチャスルリ。
ズボンを脱いだ音ですよ。
ふはは、食い入るように見詰めちゃって。
俺の言うこと聞けばいい目に合わせてあげるぜ?
挑発をしながらズボンを履き替えた。
サービスタイム終了。
1番得したのは俺の下で踏まれてるこの隊員だろ。
顔に色々服が掛かってるし。
「それで、決めました? 邪魔するのか、行かせてくれるのか」
行かせてくれるならイかせてあげますけど?
「……民間人を危険に晒すことは--」
「さっき思いっきり危険にさらしたじゃん。銃口向けてさ」
論破!
「……」
はぁ、ダメか。
仕方ない、性欲に訴えよう。
やれやれだぜ。
人間誰しも、三大欲求には逆らえん。
つまり『性欲』と『性欲』と『性欲』。
この3つの事ですね。
俺は足蹴にしている隊員の覆面を取った。
「あっ」
そのまま襟をつかんで引き上げ、濃厚な口づけをする。
唇を吸い、舌を突っ込んでかき回す。
「んん!? むぅ、んん……あふぅ♥」
突然のキスに驚く隊員。
しかし数秒後には幸せそうになすがまま。
Hahaha、いい子じゃあないか。
「「「「「「な!?」」」」」」
他の隊員たちは目をまん丸にしてこっちを見ている。
羨ましいだろ?
なら道を空けろよ?
「ん、ぷはっ。……お姉さんは、俺が向かうの許してくれるよね?」
俺の腕の中で、骨抜きになった隊員に問いかける。
「……は、はひぃ、頑張ってくらしゃい……♥」
うむ。
良きに計らえ。
「さて、他に許してくれる人は?」
何名かの隊員が、ふらっと前に進み出る。
が、如月大尉がそれを制した。
「……認めることは、出来ません」
左様で。
いやはや、ここまで自分を律せるとは。
すごい精神力だ。
お見それした。
だが、断る!
「……そうですか。残念です、それでは仲良くさようなら」
ボトリ。
そう言って俺は手榴弾を落とす。
もちろんレバーは押し込んだ。
「ッ!?」
どの隊員も動けない中、如月大尉だけが素早く反応した。
2秒。
1秒。
「間に、合えぇ!!!!」
乙。
間に合いませんよ。
一歩及ばず。
0秒。
ドオォォォン!!!!
とは、ならない。
「……え?」
びっくりした?
それ、オモチャっす!
さっき服を楓さんに頼んだときのアイコンタクト。
アレで用意しましたー。
はい乙。
俺は呆けている如月大尉を引き寄せた。
そして覆面をはぎとる。
俺はこれを待ってたのよ。
俺の近くに大尉を寄せること、それから隙を作ること。
もう俺のターンだぜ。
ドロー、魔法カード『特濃ロイヤルミルキーキス』発動!
効果。
使用者のキスの練度に応じて行動を阻害する。
この場合如月大尉を骨抜きになるまで嬲る。
「あむっ、ん、むぅ、ちゅう……ちゅっ、れろ……」
「ん!? ちょ、やめ……あぁん……んん、ん、ちゅっ……ちゅぱっ、はあぁ、ん♥」
ただ今の記録、26秒。
如月大尉、陥落しました。
ギネスのるんじゃね?
「き、如月大尉……」
他の隊員たちが呼びかける。
「だ、だめれすぅ♥ 認めま、しぇんよ……ん、んん! ちゅう♥」
「帰ったら続きしてあげるけど、ダメ?」
「気をつけてくだしゃいね♥」
この手の平返し。
なんて都合のいい世の中に生きているんだろう俺。
世界は俺を中心に回ってるんじゃね?
あり得るよこの理論。
可能性はなきにしもあらず。
「ふぅ、はい。じゃあお姉さん達も1列に並んで? あ、覆面は外してくださいね~」
ここまできたら俺の大勝利確定でしょ。
■□■□
10分後。
そこには蕩けた顔をした特殊部隊員たちが並んでいる。
「じゃ、バックアップは任せましたよ」
「「「「「「はい、お気を付けて♥」」」」」」
うんうん。
従順な軍人ほど好かれるぞ。
いい子達だ。
「楓さん、お願いします」
「は、はい……あ、あの……いえ、な、何でもないです」
そんなに寂しそうな顔をするなよ。
生きて帰る気マンマンだし、ちゃんとご褒美あげるからさ。
ただ俺は、ここで余計なことをして死亡フラグを建てるのが嫌なんですよ。
For example)
パイロット『この戦争が終わったら、結婚しよう!』
女『はいっ……はい、必ず生きて帰って……!』
パイロット『ああ……!』
戦場にて:ボーンチュドーン!
女『……嘘よ! そんな、戦死だなんて……うあああ!!』
みたいな?
なので、男は黙って遺書を書く。
ふっ、遺書なんて似顔絵より書くの得意だし。
ちなみにもし死んだ時のために俺は遺書を引き出しに入れてる。
そんな日が来ないことを祈っているがな。
それじゃ行きますか。
母さんと春賀の居る部屋の方を一瞥し、外に向かった。
玄関を出て、他の軍人達に軽く会釈をする。
そのまま車に乗り込んで出発だ。
あまりにも自然に出発したので、他の軍人達には止められなかった。
まあ、俺が籠絡した連中がこの中の1番上位なんだろう。
だから、彼女たちが止めないということは、また他の者たちも止めない。
目的地まで車を走らせる。
「楓さん」
「は、はい」
「俺がもし死んだら、机の引き出しに遺書入ってるから。母さんとか、宜しくね」
道中楓さんに後のことを頼む。
しかし、返事が無い。
あれ?
「楓さん?」
「……す」
ん?
「い、嫌です!!」
急ブレーキ。
車が路肩に停車した。
「……楓、ん……む」
俺は運転席側から楓さんに押し倒され、そのままキスをされた。
俺にしなだれかかる彼女の体温は温かく、2つの柔らかな膨らみが俺との体の間で形を変える。
目をつぶり、優しいキスをしてくる楓さん。
目尻からは一条、涙がこぼれた。
「し、死んだ後なんて、い、言わないで……」
瞳に涙を湛え、儚く揺れる声でそう告げる。
だが俺は答えない。
答えられない。
絶対が無いことなど、誰よりも知っているから。
そんなことは楓さんだって、何よりも分かっているはずなのに。
俺は答えの代わりに楓さんを抱き締めた。
優しく包み込むように胸にかき抱く。
心臓の鼓動が心地よい。
鳥も、風も、雲も、何もかもが凪いだような時間が流れる。
やがて俺たちは、どちらかともなく抱擁を解いた。
楓さんの瞳に映る俺は相変わらずだけど。
彼女はどこか、柔らかい笑顔を湛えている。
そうして何も言わずに車を出した。
目的地に到着。
「……お帰りをお待ちしております」
全てを包み込むような、暖かな笑顔。
ああ、また1つ死ねない理由が増えちったな。
あっちでは大切な人や仲間をおいて逝った。
悲しみだけを残しちまった。
よな?
よっしゃあいつ死んだラッキーとか思われてたら泣くよマジで。
今生、前みたいに早死にする気なんてサラサラ無い。
可能な限り生きて帰ってやるんだ。
今後の性活……生活のためにも。
待ってろよ、冬華。
お兄ちゃんが今助けてやるからな。
読んで下さりありがとうございます。
最近バイトのシフトがマジキチで、更新遅れたら申し訳ありません。
それでは。




