episode three
さて、そんな感じでプラプラっとスポーツショップにやって来た俺。
道中やばかった。何がヤバかったって、道行く女性はみんな美人。
男は一人も見かけなかった。
で、俺はずうっっっっっっっっっと見られていた。
チラ見、俺の顔と存在に驚愕して2度見、そのままポカンと俺をガン見。
このサイクルの繰返しだった。
まあ、店に入っても変わってないのだが。
仕方ないか。
男なんて滅多に出歩かないし、そのなかでも俺の容姿は奇跡の結晶だもんな。
冗談抜きで。
だが、何と言うか、落ち着かないな。
流石に敵意は無いけれど、向けられる視線がこうもあると鬱陶しい。
程々に流しておくか。
不埒な輩が居ないとも限らないし。
ああ、そう言えば財布は持ってきたけど、スマホ家に忘れてきちゃった。
周辺の地理は覚えたからいいんだけどさ。
とっとと欲しいもの買って、散歩でもして帰ろう。
冬華にはお昼外で食べてくるって言ってきたからな。
ぼうっと俺を見ていたけれども。
市街地探検へと洒落込んでもいいだろう。
痴漢(痴女か?)に遭ってもパンピーの5、6人位なら、素手で軽く転がせるしな。
いやダメだ。今の俺じゃ二人が限度である。
「すいません、宜しいでしょうか?」
売り場のお姉さんに笑顔で声をかける。
「は、はひっ! ななななにか御用でしょうかお客様!?」
落ち着けよお前。
「アンダーシャツと、トレーニングウェア3着ずつ。それから、ランニングシューズとダンベルの1キロ2個、あと10キロ2個。握力グリップ30キロとストレッチチューブ1つ。他のもいくつか探しているんですけど、男性用のウェアとかって置いてます?」
売り場は女性物がおおくて、探すのが億劫になった。
そこで、店員さんに直接聞いてみたのだ。
ウェアとシューズは色とメーカー、商品の型番も伝えておく。
家で調べておいたのだ。
「は、はひ! すぐにご用意致します! サイズはどうされますでしょうか!」
「165センチくらいだから……Mでよろしくお願いします。シューズは25,5センチで」
「承りました!」
ほうほう、了解とな。
言ってみるもんだね。
店員さんは、物凄い勢いで連絡を回してモノを用意しているようだ。
「男よ! イケメンよ! 天使よ!! 必ず全ての商品を用意して! 今後とも贔屓にしてもらうのよ!!」
……。
なんか、こういうのって、改めて俺は違う世界に来たんだって実感する。
「お客様、この店舗では荷物の宅配も承っておりますが! ご利用なされますか!?」
店員さん、テンション高いよ。
けど宅配サービスはナイス。
荷物になるの覚悟だったけど、嬉しい誤算だ。
「そうなんですか? では、宅配をお願いします」
「っ! 承りました! それではこちらにお越しください!」
今にもスキップを始めそうな店員さんのあとに続いて、サービスカウンターの誘導された。
ちょうど、頼んだ商品も届いたようだ。
うん、どれも文句はない。
「こちらに記入をお願いします!」
「はい」
ペンを受け取り、用紙に記入していく。
明日届くようだ。
支払いも同時に済ませ、揚々と店を出る。
俺が使ったペンの壮絶な奪い合いは見なかったことにする。
うん。
「「「「またのお越しをお待ちしております!」」」」
店員さんたちが一斉に頭を下げてきた。
おかしいな。
量販店なのに、俺だけVIPの送迎みたくなってるよ。
もう気にしてもしょうがないか。
■□■□
手ぶらでよくなったのをこれ幸いと、中心街へ繰り出した。
持ち合わせの心配はない。
部屋の引き出しにめっちゃ金が入っていた。
小遣いだか補助金だかは知らんがな。
どっちにしろ、子どもの持つ額じゃないのは明らかだな。
こっちじゃ普通なのか?
まあ、金は天下の廻りモノ。
使ってこそ意味があるよな。
さっきの店じゃ4万強使った。
しかし心配ご無用。
50万くらい持ってきたから大丈夫。
通貨の単位は向こうと同じく、円。
硬貨と紙幣のデザインは違うけどな。
しかしすげえなおい。
何がすごいかって、今の状況だよ。
((((;゜Д゜)))
↑こんな顔した女性たちが、モーゼの十戒の如く。
なまじ全員美人だから、面白可愛くなっている。
極意は慣れだな。
気にしたら負け。
腹へったな。
2時くらいか?
がっつりバランスよく食べたいな。
飯、特に昼飯は重要だ。
今後の体作りの為にも、しっかり摂取せねばならん。
む、このレストランでいいか。
金あるし。
カランカラン♪
「いらっしゃー……い、ま…………せ」
おっと店員さん、新パターンだな。
笑顔→驚愕→唖然。
スルーしてやるか。
「一人です」
人差し指を立てて、少し微笑んでみる。
「……」( ; ゜Д゜)
ダイジョブかよ。
しかしずいぶん若いな。
バイトか?
「あの、一人ですよ?」
「ハッ! ご、ごめんなさい!! ここここちらへどうぞ!」
立ち直ったか。
日よけのついた窓際の二人がけの席に案内された。
落ち着いた雰囲気のみせだな。
客は俺一人だけだ。
さっきの店員が、店の奥からチラチラみてくる。
もじもじしながら、何か躊躇っているように感じる。
「すいませーん」
注文したいから呼んでみた。
「は、はい! ただいま!」
とことこ小走りで寄ってくる。
「お、お伺いしましゅ!」
あ、噛んだ。
クスッて笑っちまったじゃねーか。
あーあ、真っ赤になっちゃったよ。
可愛いから良いんだけどね。
「ふふ、じゃあこのハンバーグとBセット。それから生ハムサラダを。あ、ハンバーグのタレはデミ、Bセットはライス、飲み物は烏龍茶で」
「かしこまりました! ハンバーグのデミ、Bセットはライスで烏龍茶ですね! お飲み物は先にお持ちしますか?」
「お願いします」
「少々お待ちください!」
パタパタと厨房に注文を伝えに行く店員さん。
肘をつきながら、それを横目で見送った。
で、伝え終わると、店員さんはやっぱりもじもじしながらチラ見してくる。
やがて、意を決したように俺の方へ寄ってきた。
「あ、あの! と、霧桐くん、ですよね?」
あん?
何で俺の名前知ってんだ?
やばい知人か?
どうする……
「ああ、そうだけど……」
曖昧な笑みを浮かべ、言外にそちらは? と、匂わせる。
まじ知り合いだったらどうしよ。
俺の帝王時代(黒)の記憶がないのは結構不味いな。
3階のベランダから飛び降りて、ショックによる記憶喪失でも装うか?
無理だな。
「私! あの、今年一緒のクラスだった名香野です……名香野 裕璃、覚えていませんか?」
ナカノ ユリ、ね。
今年って、中学二年で一緒だったってことか。
なのに、『覚えていませんか?』って……
この体の持ち主だったやつの軌跡が伺える。
帝王説を裏付ける証言が出たな……
だがちょうど良い、これに乗っておくに越したことはねえ。
「えーっと……」
そう返すと、裕璃は見るからに落ち込んで、ションボリしてしまった。
「そうだよね……霧桐くんみたいな人と同じクラスになれたのも奇跡なのに……名前を覚えてもらうなんておこがましいよね……こんな土手カボチャみたいな女なんて……無視しないでくれるだけで十分慈悲をうけてるよね……」
うおーいおいおい落ち込みすぎ卑屈すぎだろ。
土手カボチャって。
外跳ねのショートが特徴的な、俺からすれば可愛らしい子なんだが。
この世界の女性のレベルが高すぎなんだよ。
男の基準がバカなだけだよ。
野郎はもれなく作画崩壊のくせにさ。
「ごめんね裕璃さん。今覚えたから、もう忘れないよ。今日から友達ってことでさ、裕璃さんも気軽に俺の名前呼んでよ」
申し訳なさそうな顔をしつつ、にっこり笑って裕璃の手を軽く握った。
これで堕ちないわけがない。
この世界について何時間も調べたんだぜ。
「ええええ、ええええええええ!?ちょちょ、むむ、むむ霧桐くん!? 名前なんて畏れ多い! というか、友達だなんて滅相もない!!」
畏れ多いのは予想外だが。
チョロい。
イージーすぎだろ。
スウィートスウィート。
「そんなこと言わずにさ。仲良くしてくれると嬉しいな。ほら、これからもよろしくね?」
流し目をしつつ、掴んだ手をニギニギする。
自分の優れた容姿の使い方は、十分に承知している。
前世で、特殊作戦軍のお姉さん達にしこたま仕込まれた。
ついでに筆下ろしもされた。
そして俺は絶倫だってことが判明した。
こっちの体はどうなんだろうな?
閑話休題
「うううううう、……ぅん。よろしく、と、とと、冬夜、くん」
裕璃は真っ赤になって、コクりとうなずいた。
「ふふ、じゃあ少し話でもする? あ、バイト中なの?」
「ううん、バイトじゃないよ。ここ、私の家なの」
「そうなのか! それでか」
「うん、お母さんの料理はとっても美味しいんだよ! たくさん食べてね!」
ほう、そうなのか。
だが転生初日にして第1美少女友達ゲットだぜ。
そのあと料理が出来上がって、しっかり頂いた。
言うだけあって、すごく美味しかった。
3年も同じクラスにがいいね、なんて話して店を後にした。
連絡先は、スマホを忘れたから裕璃のアドレスをメモ用紙にもらってきた。
うぇーい。
ずいぶん長居しちまった。
日が西に傾いている。
そろそろ帰るか。
家まで二時間ぐらい歩くよな、ここからだと。
どうせ遅くなるんだし、腹ごなしをかねて遠回りしてくか。
■□■□
~裕璃~
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
むど……冬夜くんかっこよすぎる!
スッゴい美人だよね~……
しかもメチャクチャ優しいし。
最初の頃の印象と全然違う。
冬夜くん……下界に降りた天使かな?
美味しそうにご飯食べてたなぁ。
可愛すぎて死ぬかと思った……
今どきあんな男性いないよね~……やっぱり天使なのかな?
うふふふふ、3年もおんなじクラスならいいね、だって!
アドレスも渡したし、小説みたいな恋に発展しちゃうとか???
キャーー!
こうしちゃいられない!
皆に自慢しなきゃ!
帰る前にダメもとでツーショット要求してみたけど、まさかオッケー出るなんて!
もう宝物だよ~。
冬夜くんが座った席は封印したし。
もう彼専用席。
お母さんにも自慢しよっと♪
■□■□
あーやべ。
もう真っ暗じゃねえか。
スマホ忘れたから連絡いれられねえしな。
公衆電話も、番号わからないから無駄だし。
……あれ、あそこ家だよな?
警察めっちゃ来てる。
どこの世界のパトカーも警告灯はくるくる回るんだな。
っておい!
家には冬華しか居なかったよな!?
バッカ、のんきに公僕評価してる場合じゃねえ!
ダッシュで百メートルほどを駆け抜け、玄関についた。
パトカーは4、5台来ていた。
家の周りには警官はいない
ガチャン! と、一気に玄関を開け放ってち、リビングへ――
「ただい――」
「ッ! 冬夜くん!! 冬夜くん冬夜くん冬夜くん冬夜くん冬夜くん!!!! うう……びええええん! よがっだよおおおおお冬夜くん! 行方不明になっちゃったかと、ぐずんしくしく」
母さんが突っ込んできた。
そして号泣、崩壊。
は?
「お、お兄ちゃん!」
あ、冬華だ。
無事だったか。
「あ、あのね! お昼過ぎてもリビングに来なくて、それで家中探したの! でも居なくて、それで、ごめんなさい、お兄ちゃんの部屋に入っちゃったの。そしたら、スマホがあって、お兄ちゃん居なくて! 暗くなっても帰ってこなくて……うう、えぐ……それでね……それでね……」
あかん、こいつもか。
こいつも泣くのか。
ああ、それでこの警察か。
俺が居ないってんで、呼んだのか。
リビングからゾロゾロと、警察官が出てくる。
あー、例に漏れず全員女性そして美人。
で、俺を見て固まっている。
こいつらもかよ。
「ほら、母さん泣くなよ、みっともないだろ? 見ての通り、俺はピンピンしてるって。冬華、俺、出掛けるって言ったよな? お昼も外で食べるとも。しっかりしてよ。あと、部屋くらい入ったって怒んないから」
えぐえぐと泣く二人を宥め、警察官の皆さんに向き直る。
「この度はとんだご迷惑をお掛け致しました。二人のとんだ早とちりで……大変申し訳ございません」
深々と腰を折って、謝罪する。
めんどいよね、お上仕事って。
上からの命令に逆らえないもんね。
縦社会だもんね、わかるよわかる。
仕事増やしてすんませね、ほんと。
「い、いえ! 顔をあげてください! 何事もなくてよかったですよ! こ、こんなにかっこよくて美人で優しいし男性が実在してたなんて……」
最後のほう心の声漏れてる。
まったく。
帰って早々大変だったぜ。
警察の皆さんを丁寧に一人一人握手し追い返して、母さんと冬華をリビングに放り込む。
これからナニをするかって?
決まってんだろ。
説教だよ。
転生初日に警察沙汰、からの説教。
こんな体験してるやつ、滅多にいねえだろ。
つかいねえよ。
俺だけだよ。
光栄だなおい。
「まず冬華。ちゃんと人の話を聞きなさい。今回はまだ取り返しがついたけど、もし将来重大な場面でやっちまったらどうするんだよ? これからは、常に落ち着くことを心がけるんだぜ」
「で、でも――」
「あ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「よろしい」
笑顔って万能だよね。
部屋の温度を一気に下げたよ、俺。
「母さん」
「……はい」
「母さんまで慌ててどうするの? 冬華の話をしっかり聞いて、どっしり構えてもらわなきゃ、困るよ。あれじゃクスリをキメたジャンキーだよ。会社でもああなってないか心配だよ。警察は出前じゃないんだから、ホイホイ呼ばないでね?」
「で、でも――」
「あ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「よろしい」
笑顔ってすごいね。
雪でも降るんじゃね、この部屋。
「まあ、心配してくれたのはうれしいよ。ありがとう」
チュっと、二人のおでこに唇を落とした。
あざといだろ? でもそこが痺れます。
「あうあうあう」
「あうあうあう」
二人とも真っ赤になってやがる。
ま、この可愛さに免じて許してやろう。
「さあ、ご飯にしようよ。お腹すいたし」
なかなか刺激的な1日だったな。
これからこんな毎日が続くのか?
はは、退屈とは無縁そうだな。
こうして、俺の2度目の人生の初日が更けていった。
とか思ったときが俺にもありました。
このあと風呂入ってたら、冬華とニアミスしたんすよね。
普通悲鳴あげるじゃん、女の子が。
キャーとか。
違うんです。
股間をガン見なんですよ。
ふはは、良い度胸だな。
そのまま突入してやったぜ。
その後風呂場でナニがあったかは、ナイショっすよ?
じゃ、アデュー。