episode twenty-six
よろしくお願いします。
7月も中盤。
学校祭準備もいよいよ大詰め。
劇の練習も本番さながら、全て通しで行う。
練習用の簡易衣装もあるのだ。
セットも小道具も全部手作り。
すっげー超すげー。
気合い入りまくり。
体育館のステージと前方スペースを丸々使い、全身で演技を魅せる。
「はい! オッケーだよみんな!」
ふう、やりきった。
体育館あっつー。
額から汗が滝のように流れてくる。
「冬夜くん、お疲れ様です」
はいどうぞ、とスポーツドリンクとタオルを渡された。
「お、サンキュー裕璃」
「ううん、あ、はちみつレモンは?」
「食べる食べる。ありがとな」
「いいんだよ、喜んでもらえるなら!」
いい女だ。
うちのクラスの女子、みんな良妻だわ。
「じゃあ、今日はこの辺で!」
「お疲れ様-」
「お疲れー」
「うぃー」
劇が一段落したので、今日の練習はこれで終わりだ。
みんな口々に挨拶をして、撤収作業にはいる。
「ん、俺も帰るわ。じゃあな、裕璃」
タオルは裕璃にかえす。
最初の頃は俺が持って帰ろうとしていたのだが、その度に裕璃に止められていたので、今はもう大人しく渡している。
現地妻だよ最早。
学校祭諸々の状況が片付いたら、またレストラン名香野に飯を食いに行こう。
「うん、ばいばい冬夜くん」
裕璃に手を振って、昇降口へ向かって歩き出す。
途中すれ違う子たちにも手を振りながら靴を履き替えた。
「まって」
「お、春賀。お疲れ」
後ろから春賀が追いついてきた。
最近、少しは話せるようになってきてるのだ。
「冬夜、スゴく上手」
「春賀も、セリフは少ないけど、その分演技がすげーよ」
そう、春賀は主役。
当然セリフも多いのだが、俺の計らいとみんなの配慮でセリフが少なくなったのだ。
しかし、演技の難易度は上がったが。
「嬉しい、ありがとう」
「本番も頑張ろうな」
「うん。来週」
「おう!」
学校祭は夏休み前の2日間行われる。
もう来週の話だ。
「お兄ちゃん! ハルお姉ちゃん!」
「冬華、今終わり?」
「うん!」
冬華が元気いっぱいに走ってきた。
このクソ暑いのにスゴい。
夕方四時半過ぎ、まだまだ喧しいセミが鳴いている時間。
傾き始めた太陽光は、殺人レベルで降り注いでいる。
爽やかさの欠片もない。
暑いだけ。
早く楓号に乗り込まなきゃ。
カモンエアコン。
冷気よ俺に。
楓さんの車にたどり着き、助手席に乗り込む。
天 国 ! ! ! !
あ゛~……涼じい゛~……
「お、お帰りなさい、冬夜様……み、みなさんも……これ、の、飲み物です」
「ただいま楓お姉ちゃん! わー、喉カラカラだったんだ! ありがとう!!」
「ありがとう、楓さん」
楓さんがキンキンに冷えたスポーツドリンクをくれた。
二人は嬉しそうにふたを開け、ゴクゴク飲んでいる。
あちゃー、俺さっき飲んじゃった。
だけどそんな考えは顔に出さない。
せっかく用意してくれたのだ。
彼女の好意を踏みにじりたくない。
笑顔で受け取る。
できる男、俺。
「ありがと、楓さん。のど渇いてたんだ」
「い、いえ……うぅ、よかった」
消え入りそうな声で、よかったって呟くな。
俺と体を重ねてから、妙にしおらしくなった。
いじらしい。
金にがめつい楓さんが、頼んでもいないのに飲み物を買ってきてくれてる事も、その現れだろうか。
「ん」
キャップを開けて、俺もごくごく飲む。
……やべ、腹がちゃぷちゃぷする。
でも、横目でチラチラ俺を伺い、一気に飲んでる俺の姿を見てこっそり喜ぶ楓さん。
可愛いなおい!
嫌な顔やツラい顔は見せたくない。
「……ふう」
半分ほど飲み干し、一息つく。
大分暑さは無くなった。
「そ、それでは出します」
俺たちがキャップを閉めたタイミングを見て、車を出してくれる楓さん。
こういう所は、とても尊敬している。
小さな心配りが、よりよい異性関係を築くんだ。
同性関係?
知らんがな、俺はノンケ。
■□■□
ただいまー、と挨拶しなが帰宅した。
車を出た瞬間、広がる熱気が気色悪い。
あ~、家の中も暑いかな?
玄関を開け、自室に上がる。
アツ!
空気が温い。
うわ~、顔に纏わり付いてくる……
荷物を置いて、制服を脱ぐ。
ファブっとこう。
シュッシュッ。
着替えを持って、パンツ1枚で風呂場に向かう。
汗を落とさねば。
このまま楓さんたちとトレーニングを始めたら、全身から納豆の臭いが立ち上るよ。
納豆美味しいけど、臭いが強いよな~。
ま、そこがまた魅力かな?
納豆の。
洗濯機に下着やらをぶち込んで、風呂場に入る。
温めで。
「……あー、気持ちー」
ザアーっとシャワーを浴びて、頭も流す。
スッキリ。
脱衣所に出た。
「あ、とう……あう」
「あ、春賀。タオル取って」
春賀に遭遇。
これがラッキースケベか。
春賀のだけど。
俺は逆ラッキースケベ??
にしても、おう春賀。
嬉しそうだな。
素直で宜しい。
「はい、タオル」
「助かる」
口元をぴくぴくさせながら、無表情でタオルを渡してくれた。
因みに、この世界は男女ともに局部の露出を禁止する法律はない。
だが、男はそもそも人前に肌を見せたがらないし。
女性が露出したら男を中心に絶対零度の眼差しを受けるため、女性も露出はしない。
犯罪者(美女)としての露出狂は居るが。
会いたい切実に。
で、今の状況。
春賀とっちゃ最高のサービスシーンだ。
今晩は捗るだろうな。
そんな感じのやり取りをしつつ、いつもの日課を消化していった。
学校祭楽しみだ。
■□■□
~楓~
初めて冬夜様に会ったのは、私のタクシーを利用してくださった時。
噂の天使が止めてくれて、嬉しくてサインをもらってしまいました。
今でも宝物です。
人前に出るとあがってしまう、ショボい女に優しく対応してくれて。
まさしく天使だったなあ。
帰りは、何だか不思議な感じだったけれど。
それからしばらく、冬夜様とは接触はありませんでした。
けど、警護官の教官としてセンターにいたら、冬夜様が警護官の派遣を申し込んでいる書類を見てしまったのです。
あの時本当に見ておいてよかった……
私は当日、こっそり冬夜様の様子を見ていました。
ご家族の二人を追い出して、何をするのかと思いきや。
その後の光景に、私は目を見開きました。
気付いたら、体が勝手に動いていて。
でもそのおかげで、冬夜様の警護官になれたのでよかったです。
その後は、彼のロードワークを手伝ったり。
とても充実した毎日です。
世の中の男性のように、女性に強く当たったりせず。
世の中の男性のように、か弱くない。
まるでお話に出てくる、理想の男性のようです。
ただ、私のお金を譲るわけにはいきませんよ?
そこだけは譲れません。
お金、大切。
そんなある日。
その日は久しぶりに春賀さんとの3人ではなく、冬夜様と二人っきりで模擬戦をしていました。
でも、いつものように、拳や脚の軌跡にキレがありません。
呼吸もバラバラで、とても荒々しい。
そんなことを考えながら、正拳を撃ちました。
だけど、
「ッ!?」
腕ごと絡め捕られ、こちらに倒れ込んでくる。
マズい、どうする――
「――っあん♥」
ちょ、あ、ひゃあ!
と、とと冬夜様!?
首、なめちゃ、あ……いやぁ♥
未体験の感覚に、ただ震えることしかできません。
冬夜様が何事か呟いて、そのまま押し倒されまし
た。
その後の事は、正直記憶が曖昧です。
あんなに胸を揉まれたのも、生まれて初めてでした……
ムニムニと揉まれたと思ったら、指先が触るか触らないか程度の力加減で、円を描くようにクルクルと。
焦らしに焦らされ、先端を攻められた時はもう……♥
優しく、時には痛いくらいに口でされて……うう、胸でイッたのはあれが最初です♥
しかも、私に恥ずかしい思いばかりさせて……鬼畜!
でも、そんなところも素敵でした。
セックスをリードしてくれる男性なんて、とっくに絶滅したこの世の中で、冬夜様はまるで現人神ですね。
20も半ばを過ぎた、こじらせ処女の私。
強い男性と交わりたいという、密かな願望がまさか叶えられるなんて。
夢みたいです!
それに冬夜様は、様々なコトを教えてくださいました。
ここはこう、あそこはどう、これは気持ちいい、それは最高などなど。
お口でするのも、教えてくださいました。
薄々感じでいたけれど、やっぱり冬夜様は非童貞だったのですね。
経験豊富です。
初めてを頂けないかったのは残念ですが。
口で咥えるという、あこがれの行為ができたので、嬉しかったです。
あの触感、あの臭い、あの味……♥
そしたらなんとなんと、私にもお返しでシてくれたのです!
と、とても上手でした。
つい出ちゃった♥
冬夜様に顔射してしまったのにも関わらず、冷たく口を歪め嬉々として私を言葉で責めてきました。
それだけでまた私は……///
そんなこともあって。
最近は警護官の仕事にも、いっそう気合いが入ります。
どうしてこんなにも素晴らしいのか、などなどいくつか心に抱く疑問はあります。
けれど、この方の警護官になれたことは、本当に幸せで、運がよかったです。
そろそろ帰ってくる時間ですね。
飲み物を買っておきましょう。
今日も暑いですから。
えへへ、喜んでくれるかな?
あの素敵な横顔、思い出すだけで胸がキュンとします。
冬夜様。
何があっても私は貴男をお守りいたします。
お側に居られなくなるのは残念ですが、必要ならば命をかけて警護官の役目を全うさせてくださいね!
追伸
たまにはご褒美も欲しいです……♥
楓さんは、心の中ではちゃんと喋れるんですよ。
ただ、ちょっとコミュ障なだけです。
冬夜様、私めにご寵愛を頂けませんか?
「あ、あぅ……と、冬夜様……わ、わたくしめに、うぅ、ご、ご寵愛を……♥」
ほら、ポンコツですから。
次は学校祭です。
それでは。




