episode twenty-three
冬華と母さんにメールいれとこう。
今からまた春賀の家まで行ったら、遅くなるからな。
「つ、着きました」
「ほんとありがと楓さん、助かった」
「い、いえ……で、では私は車で待ってますから……」
「了解」
さて、春賀や。
何用でござるか。
大方予想はつくけどな。
街頭が無い暗い夜道を少し、春賀の家の玄関まで歩く。
春賀発見。
「……なにしてんの」
玄関の前で、膝を抱えて座り込んでいた。
「あ」
涙の跡が残る顔を上げ、俺を認めると立ち上がって抱き付いてきた。
「行かないで。わがままいってごめんなさい。でもすぐにもう一人は嫌」
抑揚の無い、だけどしっかり感情のこもった声でそう告げる春賀。
顔を埋めている俺の腹部が、じんわりと熱くなり水に濡れた。
再び涙を流したのだろう。
やっぱりこうなったのね。
胸元にある春賀の頭を撫でながら、俺は言葉を探した。
一番簡単な方法はお持ち帰りすることだが、これは俺の一存だけでは決められ……る、か?
あれ、意外といけるかな?
母さんはあざとくおねだりすればオッケー楽勝じゃん。
で、冬華はチョロインだからこれも楽勝じゃん。
楓さんは金以外基本イエスウーメンだからノープロブレムだろ?
oh,my god!
神よ、貴方は春賀をお持ち帰りしろと仰るのですね……?
でもなー。
それっぽい理由もなく……あるじゃん。
あるじゃん理由。
それっぽいの。
主演同士ってことでいいだろ。
役同士うんちゃらかんちゃらー的な。
それっぽいわー。
oh,my goddess!!
神よ、貴女は春賀をどうしてもお持ち帰りしろと仰るのですね……?
よし、それなら持ち帰るか。
美少女が家に増えるのは歓迎だからな。
警護官の苦労は増えるだろうが、金に見合った働きをしてもらわねば。
楓さんなら大丈夫だろ、多分。
「春賀」
「ぐず、ん?」
「家くるか?」
こうして我が家に居候が一人増えた。
とりあえず俺のメイドにしよう。
うん。
■□■□
「と、言うことで。俺のメイドです」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる春賀。
時は夜、場所はリビング。
ソファに座る母さんと冬華に、春賀を紹介している。
『メイド拾ってきたー』と、帰ってきたのが先程。
背景説明をして、紹介が終わったのが今。
「お母さんは、そ、その……反対かな?」
「むー! 私も反対だよ!」
反対、か。
良いのかね二人とも、そんなことを抜かして。
「母さん」
「……はい」
俺の顔色を伺いながら返事をする母さん。
上目遣いをやめい。
ムラムラするだろうが。
「……を……よ?」
こそっと耳元にささやく。
すると、
「お母さんは賛成。春賀ちゃん、よろしくおねがいね?」
何と言うことでしょう!
この素晴らしい手のひら返し。
何てことはない、『何でも言うことを聞く券10枚あげるよ?』って言っただけだ。
俺にとっちゃ紙の切れ端に書いて渡すだけだが、母さんたちからしてみれば千金に値するだろう。
楽勝。
「え! お母さん!! むー、ふん!」
冬華可愛い。
ほっぺを膨らませてそっぽを向いてる。
チラチラと横目で俺の様子を伺いながらってのが、また愛くるしさを引き出している。
因みに春賀は紹介を終えると俺の後ろに隠れた。
この行動がまた冬華の機嫌を悪くしているのだ。
「冬華」
「……なにお兄ちゃん」
私怒ってますアピール。
男に対してここまでの態度をとれるようになったのか。
全然恐くはないんだが、自分の意見をはっきり言える女になってきてくれて嬉しい。
でも、俺にはいつまでも従順でいてくれよ。
でないと困る、俺が。
「……で……る?」
すると、
「お兄ちゃん、反対してごめんなさい。春賀さん、よろしくお願いします!」
何ということry。
このすばry。
何てことはない、『5州の遊園地で二人っきりのデートする?』って言っただけだ。
効果は抜群だったが。
「ありがとう二人とも。じゃ、部屋は楓さんの隣でいいかな」
「何でも……何でもいいのね? ふふ……うふふ……うふふふふふふ……」
「デートデートデート……でゅふふふふえへへへ……デュウエートぉ……おにいたまとおデートできるにゃんて……」
聞いてねえし。
逝っちゃったよ。
冬華、その笑い方はお外でしてはいけませんよ?
ヤバイ人だからそれ。
「じゃ、春賀はこっち。楓さん、話があるから後で俺の部屋来て?」
「う、わかった」
「ひぅ……は、話? わかりました……」
なんか急に家に人が増えたな。
加那や七海が泊まりに来たら、あいつらまで住むとか言い出さねーかな?
あ、やべフラグ?
■□■□
コンコン
「はい」
「し、失礼します……楓です」
「どうぞ」
二時間ほど後、寝る前ごろに楓さんが来た。
タイミングが素晴らしい。
さすがだ。
モノクロ調の俺の部屋は、ソファまで置いてあるのだ。
そこに掛けるよう楓さんに言う。
「お、お話とは……」
「ん、まずはこれ。とりあえず本体代としばらくの使用料と本体代ね」
「あ、ありがとうございます」
30万ほど入った封筒を楓さんに渡す。
「で、相談なんだけど」
「はい……何でしょう?」
「皇国軍の医療技術、義手とかの分野は民間より進んでるよね?」
「は、はい」
「じゃ、楓さん。春賀の左目に義眼入れてやるように、軍に話通してきてよ。今でも多少は利くでしょ、顔」
「ふえぇ……い、いくらなんでもそ、それは、その、む、無理です!」
「だろうな。今は無理だろ、今は。とりあえずそれは最後に話そう。で、ものは試しなんだけど。春賀に拳銃の扱いとナイフ、格闘術仕込んでくれない?」
「け、拳銃なんて持ち歩いて無いです……」
へーとぼけるんだ。
嘘ついたらハリセンボン飲ますよ?
「ふーん……じゃあいつもジャケット内側、左肩の下に入ってるのは何?」
「……う……バナ、ナ?」
「舐めてんの?」
「うぅ……ごめんなさい……どうしてわかったの……」
「この前チラ見した」
って言うのは嘘だけど。
「あ、あぅ……そ、そんなハズは……」
「とにかく護身術からでいいから教えてあげてよ。隻眼なのに距離感しっかり掴めてるし、筋はいいと思うよ?」
「あ、あの……何で春賀さんを?」
縮こまって、オドオドしながら聞いてくる楓さん。
そんなことあんたが一番わかってるんじゃないの?
俺は、はぁ、と一つ息を吐いて、足を組んだ。
似合いすぎてヤバイ。
ハリウッドスター狙えます。
「ここ何日間か、付けられてるでしょ?」
わかってるよね、と視線で問いかける。
「……」
「俺が移動する度に、必ず決まった人数と車両、バイクが付けてきてるの」
「わ、私も確認して……います」
楓さんも認めた。
やっぱり俺の気のせいじゃなかった。
「ランニングの時は、多分7人の人間が交互に20メートル位後ろを」
「は、はい……日によって変わります。そ、それから車両は5台、日替わりで、3、4台後ろを自然に……」
「うん、バイクは2台だよね?」
「は、はい……私もそう思います」
「プロ?」
「……お、恐らく」
「独り言だけどさ。元とは言え、特殊部隊員をターゲットにするには身内の裏切りが必要だよね」
「……」
「もしそうなら、突き止めればおっきな貸しが出来るよなー軍に」
「……」
「で、俺がターゲットでも相手は相当なもんだから。もし連中が犯罪組織や準軍事組織なら、結局公安や特殊部隊が対策に動くよね。それか何か理由があってワンちゃんらが俺たちを付けているのか、やっぱり害虫にまとわりつかれているのか。前者はワケわからんし、楓さんに位は連絡しない? ないよね、連絡」
「……は、はい」
「で、多分奴らは害虫だろ? 全体の規模はわからないけど、最低、人間は10人、車は5台、バイク2台。結構な集団じゃない?」
「うぅ、はい」
「これ自体そこそこのネタでしょ? 楓さんが軍にリークするにしても、実際に俺たちがアクションを受けてもさ」
「ま、まだはっきりしてないので……」
「そう、だからなるべく家族の安全は確保したいんだ。だから、気配を殺すのが上手い春賀に、戦闘能力を持って欲しいわけよ」
きっと上手く初撃を入れやすいだろう。
「そ、そういうことでしたら……」
「まあ、殺しまでできなくていいから、自衛と戦闘が出来るくらいでいいよ」
「……と、冬夜様……」
「ん?」
「ほ、本当に、貴方は一体……」
「はは、賢しいだけの子供だよ」
前世で戦争を仕事にしてました。
なんて言われたら、俺はそいつを病院に送り込むが。
言えねーわ。
「ま、そんなネタがあれば、春賀の左目もどうにかなりそうだからな」
よろしく、と楓さんの肩をポンと叩く。
「この話は内緒でね?」
「は、はい……冬夜様や私も、い、今まで通り生活を……」
「ん」
「で、では私はこれで」
「うん、ありがとね。あ、一緒に寝る?」
「ふぁ!? い、いいいいえ! つつ、つ慎んでえ、遠慮しましゅ……それでは……」
「クックッ……おやすみ」
「は、はい……おやすみなさい」
噛んだ。
噛んだよ(笑)
フラれちまったが、まあいいだろ。
しっかしまあ、面倒事の香りがプンプンするわー。
せめて学校祭まではおとなしくしててもらいたい。
行動パターンをランダムにしたり、少しは対策をしてるんだけどな。
効果があるといいが……
母さんが目標の場合も考えたが、な。
言っちゃ悪いが、ただの会社役員だし、ヤバイ仕事ってわけでもない。
また、伯爵位なんてものもほとんど関係ないだろう。
やっぱりターゲットは、俺か楓さんでいいんだよな……
俺たちが気づいていることに感付かれて、強行手段に出られても困るから、派手なことは出来ないし。
苦肉の策で、春賀を母さんと冬華に付けるしかないよな……
クソ、ワケわかんねーぜ。
ああ、劇の練習もしなきゃな~。
忙しい……
読んでくださって、ありがとうございます。
それでは。




