episode two
「……一体どうなってるんだ」
夢か? 現実か? まさか天国……は行ける分けがねえな、俺の存在がそもそも犯罪だったし。俺がいけるならチンケな凶悪犯連中は全員天国いきだぜ。
まあいい、とにかく状況確認をしなければ。
なに、慌てることじゃない。
戦場じゃ、慌てたやつから先に死ぬ。慌てなくても死ぬ奴は死ぬ。
イージー俺。
しっかり声に出して、
「状況の確認だ」
う、ふう。
「まず意識、はっきりしている。次に身体、異常なし」
あの爆発だ、ふつうなら俺の体はモザイクかかるレベルで損傷してるよな。
だが、古傷まで無くなってやがる。
しかもつるつるすべすべ、卵肌ってね。
だがこの体つきは……
ついでにお約束のハッ、まさか!!
……へっ、付いてやがった、よろしく頼むぜ相棒。
だいぶ落ち着いてきたな。
「んで、現在位置……あ、スマホみっけ」
ロックは、虹彩認証か。
おっと、開いた。
スマホの黒い画面に映る顔は、いつも拝んでいた自分と変わらなかった。
この顔に生んでくれた両親には心から感謝。
甚だ状況は掴みかねるが今は助かる。
「3月25日、午前5時48分ね、おーけーおーけー」
普通に日本語だわ、表示。
んじゃあ、ここは日本か?
ぐるっと部屋を見渡す。
白黒のモザイク調だ、とてもおしゃれな部屋。
かなり広い15畳くらいあるか?
綺麗に整頓されている。
重ねて言うが、俺の部屋ではない。
どこっすか?
「よし、OKグー○ル」
……あれ。
ggれない……だとぉ!?
使えねぇ先生だなおい。
しょうがねえ、打ち込むか。
「現在位置、有効っと……あん?」
現在位置
スメラギ皇国 8州 指定第二都市 5区 1919番地1
「…………」
Lets try again
現在位置
スメラギ皇国 8sy……
「マジくマジからマジくマジかりマジマジきマジかる……」
皇皇国。
なんだこの国頭痛が痛いんか。
そして何より……
「日本じゃないのか……」
有り得ない。
けど、俺は俺だ。
死後の世界、か? 可能性は無きにしもあらず。
夢は、んん、こんな夢はねえな。
明晰夢にしても出来すぎだ。
……ふんっ! ボスッ
「腹パン、いてえ」
あー……とりあえず、最初は認めよう。
ここは日本じゃない、が、日本語OK。うん。
「はあ……てことはだ。ここは俺の家っつーか、住居ってことだよな? だから何だ、食べ物探しに行っても捕まらねえよな? パッと見、監視とか監禁とかそういうのじゃねえしな。うん」
はい、すいません。
実はさっきからお腹空いてました。
もう何か、どうでもいいや。
俺、生きてる。
乙乙、おいおい調べればいいよ、もう。
「ほいほいっと、冷蔵庫はどこかな~」
文明も日本じゃね? って感じだし。
キッチン探せばいいか。
「窓の外見た感じは、ここ多分3階だな」
この家広いわでかいわ。
すげーな。
んで、冷蔵庫。
2階か1階だよな、おそらく。
部屋を出て、1階まで降りた。
お、リビング。
ひっろい。
家具も一見高そうな。
ギラギラした成金ってわけじゃなさそうだが、裕福なのは間違いない。
「明太子クリームパスタが食べてえな」
完全に開き直った俺は、リビングと併設されていたキッチンで冷蔵庫を漁りながらぼやいた。
チルドに入っていた明太子を発見。
戸棚と引き出しを漁って、乾燥パスタとホワイトソース(缶詰)を引っ張り出す。
ああ、海苔も刻んでかけるか。
鍋を探し出して麺を軽く湯がいて、フライパンにイン。
隣で温めておいたホワイトソースとオリーブオイルをかけて火を通し軽く煽る。
皿にのせて明太子を放り込んだらごちゃごちゃかき混ぜた。
最後に海苔を千切りにして振りかけて、オッケー完成。
なかなか旨そう。
リビングのテーブルに座って朝ごはん。
「頂きます」
うん、結構イケる。
スマホをつけて、時間を確認。
午前6時29分。
「……むぐむぐ、んん、どうしたもんかね」
パスタを食べ終えて、片付けるのに席を立った。
ガチャ。←リビングへの扉が開いた音。
「……」←俺。
やっべえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!
俺以外の人間がいる可能性から目を逸らしていた可能性が爆発!!
空になった皿を持ったまま、入ってきた人物と鉢会わせることになった俺。
入ってきたのは寝間着に身を包んだ女性だった。
うわクッソ美人。
艶やかな肩過ぎほどの黒髪、スタイルは最高。
上から87、55、81。(俺調べ)
身長は160センチくらい。
パッチリした目元に、スッキリとした鼻梁。
プルプルしたピンクの唇。
処女雪のような白い肌、ほんのりほっぺに朱がさしている。
うん、美人だな。
で、だ。
それより一番重要なことがある。
この女は誰だってのと、俺との関係性だ!
だってほら、俺は俺だけど、この状況に対してはあまりにも無力だ。
状況が全くつかめていないのだから。
何を言っているのかわからねえが、少なくとも今の俺の目覚めた場所の住人であろうことは予測できるだろう。
やべえ。
ああ、ほらつまりうんとほら。
俺はあくまで日本人、気づいたらってか向こうで死んだら俺になってた。
自分の経歴がわからない。
まあ、なんだ。
薄々察していたんだけど、天国説とならんでありえねーって仮説があった。
あの爆発だ。
生きている可能性はゼロどころか、体が原型をとどめているのかも怪しい。
それを加味したうえで……
さっき体を確認したときにな、明らかに俺の体つきじゃなかった。
俺はもっとムキムキなんだ。こんな貧弱では断じてない。
かといって長期間意識不明の病人が目覚めた体つきでもない。
で、だ。
これ、例のアレじゃね、アレ。
流行りのTENSEIってやつさ。
あーあーあー、逸れた逸れた。
今はこの状況をどうするかっすよ。
誰だよ状況確認どうでもいいとか言ったやつ。
自分の事もわかってないじゃん。
「……」
クールなふりを装い未だに美人を見つめることしかできない俺。
どーしよ。
一方美人さんは、俺を見るなり目を見開いた。
そして、鈴を転がしたようなきれいな声で、口を開いた。
「……と、冬夜くん? 体調は大丈夫なの? 3日前から寝込んだっきり……何も食べないで、水しか飲んでなかった……」
先にアクションを起こしてくれて助かった。
面識もあったようだしな。
美人さんは、明らかに怯えたような、しかし、しっかり俺を心配した気配で告げる。
おおそして、いくつかの情報を手に入れたぞ。
まず名前。
変わっていないな。
あえて言うなら、前世の俺と。
俺もトウヤって名前だった。
漢字はどうだろうな?
んで、次。
3日前から寝込んでいた。
もしかして、この体って1回死んだのか?
なにかしら起きて?
転生説が正しいなら、俺はこの体に転生したことになる。
魂的な? 意味わからん。
非科学的だ――と言いたいところだが、そうでなければ説明できない。
さっきまでの俺、向こうの体が吹っ飛んでジ・エンド。
その時同じタイミングでこの体のやつが死んだ。
で、ソウル的な何かが抜けたこの体に、俺の魂がこんにちは。
うんうん、これでいいや。
この設定……説明でなら、万事上手く事が運んでくれる。
多分。
よし、これでいこう。
考えてもわからんものはわからん。
生きているって素晴らしい。
今はこの場を切り抜ける方が先決。
「えっと、あのね、冬夜くん。私……母さん、今日からまた仕事だから、看病できないの。一人で大丈夫?」
はいきた。
オーケー、理解。
この人俺のってかこの体の持ち主の母さんだ。
こんな美人が母親とか、すげえな。
ここは無難に返しとくか。
「ああ、母さんおはよう。体調はもう平気だよ。お腹空いちゃって、勝手に色々使っちゃった。3日間ありがとねう。俺はもう少し休んでるよ。それじゃ、仕事頑張ってね」
一気に言い切って振り返り、手早く流しに皿を放り込む。
普段の二人の間柄が分からない以上、ぼろが出る前に撤退すべきである。
そして再びリビングを向いたらぎょっとした。
先ほどの女性……母さんが、さっきの場所にぺたんとへたりこんでボロボロ泣いていたのだ。
何故。
だが……
……うっひょーやっべえめっちゃそそる。
っと、そんな場合じゃないどうしたっていうんだ。
無視するわけにもいくまい、声をかけてみるか……
「かあさ――」
「お母さん?」
なに!? 誰だ!
てこてこと、さっき母さんが出てきた廊下から、女の子が歩いてきた。
クッソ可愛い何この生き物。
小さい母さんだ。
俺と同じくらいの年齢だろう。
母さんんが熟れた果実なら、この子はまだ青い果実だろう。
甘さでは負けるが、弾けるような瑞々しさがある。
身長は150センチもない。
胸も控えめだ。
髪は黒でショート。
とっても可愛らしい。
「あ……と、冬華ちゃん、うう、うぐ、あのね、お兄ちゃんがね、冬夜くんがね、私を母さんって呼んでくれたのよ……? ありがとうって、仕事頑張ってねって……うう、しくしくえぐえぐ」
ほう。
この子はトウカって言うのかね。
俺の名前との関連性を感じる。
俺が兄ってことでいいのか?
冬華は母さんの視線を追って、俺を見つけた。
どうやら気づいていなかったみたいだ。
「お、おにい、ちゃん……?」
先ほど宜しくビクビクおどおどしてる気が。
いや、それより。
ここも上手く切り抜けなければ。
なぜか母なる女性が泣きやがったからな。
撤退は悪手だ。
「ああ、トウカ。おはよう。早いね、起きるの。お腹すいてんなら、何か作るけど食べる?」
「ふ、ふぇ!? お、おおおおはよお兄ちゃん! う、ううううんうん! 食べます食べます! お願いします!!」
うおい、スゴい勢いで返された。
だから何故。
俺に対して腰が低すぎじゃね? この母娘。
んん、事態の収集がつかん!
「じゃあ、適当に座っといて? ほら、お母さんも、泣いてないで座ってよ。仕事遅れるんじゃない?」
「お、お兄ちゃんが! お兄ちゃんがお兄ちゃんが、うう、はあはあ優しいお兄ちゃんだお兄ちゃんだ何何何夢かな?」
「うう、えぐえぐ……またお母さんて……これは夢かしら? 明日死ぬのかしら、私」
……うまく切り抜けて撤退するんだもん。
■□■□
俺はその後、どうにか二人を椅子に座らせ朝ごはんを出した。
明太子クリームパスタだ。
泣き止んだらやたらとふわふわしている母さんを、呆然としているトウカと一緒に出勤を見送って、俺は自室へとかけ上がった。
スマホとパソコンを使って、色々調べた。
結果、いくつか判明したことがある。
この世界、この場合世界でいいのかわからないが、普通に地球でいいっぽい。
太陽とかも、あと月も。
で、この俺がいる国、スメラギ皇国は立憲君主制であった。
つか、統治機構は日本とほぼ変わらん。
だが、未だに貴族が残っている。
まあ、貴族位といっても有形無実みたいなものだが。
日本でいうところの天皇と皇族が、それぞれ皇王と皇爵になるようだ。
で、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続いていく。
家族についても部屋の中をあさり情報をえた。
母さんは霧桐 冬美といい、伯爵位を持っているらしい。
この都市に本社がある、大企業の役員をやっている。
スゲーな。
本社勤めだ。
あ、妹は霧桐 冬華。
可愛いスゴく。
俺のいっこ下。
教育制度も6・3・3・4で向こうと大きな相違はなかった。
因みに俺は14歳、今年の12月で15歳になるようだ。
中学三年ってことだな。
机の引き出しから学生証が出てきた。
俺、というかこの体、まあ、俺でいいか。
俺は霧桐 冬夜という名前だ。
キリギリ トウヤじゃないぞ?
ムドウ トウヤだ。
間違えるなよ?
使用言語は日本語。
まあ、こっちだと皇用語っていうらしいが。
公と皇をかけてんのかな? 皇用語を下々が用いていいのかは疑問だが……そういうものなのだろう。
そして、一番驚いた事がある。
それはな……
男女人口比率、1:300ってことだよ!
マジかよ、滅びね? って思ったが、ここまで少男多女社会になったのはここ最近らしい。
数十年前までは1:40くらいの水準だったそうだ。
太古より、この世界では男性が少なく、古代社会では大切に保護され、甘やかされ、崇められてきた。
んで、その風潮は現在までバッチリ続いているようだ。
男ってだけで、働かずに悠々自適な生活送れるらしい。
補助金で。
そんな社会が続いたもんだから、男はすべからく高慢ちきで、傲慢で、プライドが無駄に高く、世の女性を悉く見下しているんだと。ついでに軟弱者の根性なし。あと種無し。
で、近年特にその傾向が加速して、子作りがなされないようだ。
因みに、醜美の感覚は前と同じみたいだ。
それを踏まえて言うと、この世界の男の顔面偏差値低すぎてヤバイ。
これで俳優やってんのかよ、みたいな。
どうやら、この世界の俳優は当然かなりイケメンな部類だが、前世の基準のフツメンよりちょっと上程度だ。
醜美の感覚は前世と同じ。
大事なので2回言いました。
俺 大 勝 利 ! ! ! ! !
ククククク、笑いが止まらねぇ……
まあ、それはおいといて。
一方、女性はみんな美人。
ネットを漁ってもブスが欠片も見つからない。
きっと、昔から脈々と続く男に選ばれるための競争社会で、ある種の自然選択の結果というべきなんだろう。
強く、健康で、美しい女達だけが子を残してきたのだ。
ようは、ブスが淘汰された社会ってことだな。
で、みんな美人になったから、余計男が調子に乗ったと。
比較基準がないからね。
ブスがいなきゃ美人もいないってのは、あながち的を得た言葉だな。
んで、男の顔面がヤバイのは、選ばれるための努力、そして進化をしなかったからだろうな。
黙っていても女が来るから、ブスでもカスでも何でもござれってか。
けっ。
美人が可哀想だ。
美人を射止めるのは努力と運だって相場が決まっているんだぜ?
今の世界を動かしているのは、9割9分9厘女性で。
男なんてみんなくそニートなのに、今でも無条件で崇められるとか意味不明。
働けよカス共。
次いでに、近年あまりにも少男多女が進んだため。
議会にある法律案が出されたようだ。
男性は45歳までに10人以上の女性と結婚・出産又は、精子バンクへの精子提供、このどちらかの義務化、というものだ。
結婚や精子提供は、する度に国から金がもらえるのだ。
結構な額を。
現行の法律では、男性の権利として重婚やらが認められている。
それを義務にしようぜって法律だ。
世の野郎共はこれに猛反対らしい。
集団自殺で抗議するバカも結構出ているらしい。
ヤるくらいなら死んでやるってか?
んなアホな。
100年後には冗談抜きで滅びるぞこの社会。
で、調べていくうちに思ったんだけど。
流れ的に、俺って家やら世間やらで、まるで帝王のように振る舞ってたんじゃないかってさ。
だってこの社会の風潮で、このフェイスだぜ?
スターリンよりやべぇ独裁統治だった可能性だってある。
ああ、道理であの二人の反応だって納得した。
同時に不味いな。
俺の普通は、彼女達の知る俺の異常だ。
まさか得体のしれない男が転生しました何て言えないし、ましてや家族なんだからな。
騙すようで悪いが、上手く言い訳を考えねば。
それにしても、俺もあっさりあの二人を家族だと受け入れたよな。
やっぱ、脳は変わっていないから、体が自然と受け入れたのかな?
だとすると、何で俺にはこの体での人生の記憶が無いのかってのと、脳が違うのに前の俺の記憶があるのかって疑問が出てくる。
……が、考えても無駄だろう。
閑話休題
さしあたって、考えるべきなのは
1 上手い言い訳考える
2 様々な単位とかは一緒、国語、数学、理科は大丈夫。英語やフランス語に該当する言語もある。学校の授業は外国語として英語をやるっぽい。こっちだと、北海連合王国っていうイギリス的なポジションの国の言語。だが、社会系の科目はヤバイ。勉強しなければ。
3 周辺地理を覚える。中学生なので、学校まで迷子にならないようにしなければ。
4 鍛える。基本スペックは知らねえが、なにせ筋肉は裏切らない。この世界の軍人には負けたくない。
5 長生きする。この世界がなんであれ、天寿を全うしたい。
こんなもんだろう。
まだまだわからないことがたくさんあるな。
ま、とりあえず近くのスポーツショップでも行くか。
何にせよ、2度目の人生にして、初めての学校生活、青春だ。
前世での生活に後悔はないが、同世代との触れ合いは殆どなかった。
どんなもんだか、楽しみである。