episode nineteen
「楓さん!?」
「「「「「「きょ、教官殿!?」」」」」」
俺、警護官探しに来た。
テストした。
期待外れだった。
K.Oされかけた。
楓さん出てきた←今ここ。
こいつは想定外だ!
だがしかし、俺は甘くない。
特に固まったりとかはせず、笑顔で楓さんに近付いた。
「ビックリしましたよ! まさか教官をしていらしたんです、ねっ!」
気さくに話しかけ、笑顔で腹パン!
バシッ!
チッ、止められた。
「あ、あぅ……お、お久しぶりです、お客さま……あの、サイン、た、大切にしてます」
そんな状況で呑気に挨拶してきやがる。
ナニモンだこいつ?
……教官にみえねーよなぁ、若いし。
「はい、お久しぶりです。お客さまとかではなく、冬夜でいいですよ?」
「い、いえそんな……畏れ多いです……はい」
「その割りには結構えげつない事してきましたよね?」
「ひぅ……そ、それはそのぅ、とても興味が沸いたと言うか……天使なだけじゃないんだなと、その、思ったら……」
そう、思ったら。
思ったら殺っちゃうんだ?
ふーんへーそーなんだー。
「あ、あの……男性に何て失礼な事を私……」
「いえいえ、お構い無く。ところで、こんなのはいかがです?」
「……えっと、ッ!」
背中に隠していたナイフを右手で素早く取りだし、目線を動かさずに下から楓さんの太ももを切り裂きにかかった。
だが、とっさに手で払うと、今度はその場で回し蹴りを放ってきた。
この距離体勢でそれをやるかよ!
ナイフを持っていない左腕でガードし、一旦距離をとる。
因みに護身用程度であれば、男性のみ刃物の携帯は暗黙されている。
都合いい世の中だ。
「あ、あのぅ……天使「冬夜で」……冬夜様は、一体……」
何者なんですか、とオドオド聞いてくる。
「何者って、俺は俺ですよ……あ、ここで起きたことは家族には内緒で。皆さんもお願いしますよ?」
ま、完全に漏れないってのは無理だな。
ただ、仕事人としてのプライドにはちょっかいをかけたから、守秘義務をある程度は守ってくれると思う。
「あう……では、なぜここに、いらしたんですか……?」
はw
そんなの警護官欲しいからだろ。
「いえ、だから。警護官をスカウトに」
「あの、いえ、失礼ですが……冬夜様には、必要は、その……」
「……」
うん。
確かにそうだよな。
書類上なんの問題はないが、このやり取りを考えたら、要らなくね? って思うよな。
そこんとこ全く考えて無かった俺バカすぎだろ。
いや、考えて無かったワケではないけど。
はい嘘。
ごめんなさい。
頭切れるひと相手には中途半端な言い訳も通用しないよな~。
当たり前だよな~。
世の中チョロすぎて、たった2ヶ月やそこらで俺までバカになっちまった。
「……ま、そうですよね」
俺はナイフを仕舞って、楓さんに向き直る。
「因みに、俺の申請した書類の備考欄、読みました?」
「ひ、あ、あの……ごめんなさい……読んでないです……」
一応俺の目的はそこに書いてあるんだ。
ちょっとぼかしてあるがな。
「『ランニング、ストレッチその他運動の補助を要求します』」
てな具合だ。
嘘は言ってないし、政治家よりは正直だろう?
ポイントはその他運動って所です。
「……それは、」
「そういうわけなんで。でも、今回は見送ることにしましたよ」
くるりと回りをみながら言う。
楓さんも釣られて回りを見た。
候補の女性達はみな、シュンと俯いてしまった。
可愛い。
「さ、採用されないんです、か?」
「ええ、そういうことですね」
残念ながら。
そういうと、楓さんは少し考え込んだのち、顔をこっちに向けた。
「あ、あの……では、私が契約するというのはどうでしょう……? 車も付きますし、その、お得……です」
おっかなびっくり告げる楓さん。
ちょっと指先をくわえているのが子供っぽい。
可愛い女性がやると許される。
そこの部分、後で俺にもくわえさせて。
だがその提案はグレート。
パーフェクト。
そうだよね、教官だって警護官の資格あるんだもん。
なれるよね、警護官。
だが、候補の女性達からブーイングが入った。
「な! ずるいです教官殿!!」
「そうですよ!」
「不意討ちなんて卑怯です!」
「最高の警護対象なのに!!」
「玉の輿……玉の輿……」
「悪魔!」
「処女!」
「魔女予備軍!」
「そーだそーだ、もっと言えー!」
「ずるー!」
「ブーブー↓」
すごい。
100人前後の大合唱だ。
楓さん、舐められてますよ?
そう思って彼女の方を見た俺は、
「黙れ」
鬼 を 見 た ! ! !
豹変ぶりが……ガクブル……
オドオドビクビクちっちゃく丸まってた雰囲気とはうって変わり。
『ぶっ殺すぞ、あ?』みたいな覇気が全身から溢れている。
視線だけで屈強な戦士だって気絶しそう。
え、誰コイツ。
別人すぎだろ……
哀れ警護官候補達。
地雷とは、目視が困難だから危険なんだよ。
しかし確かに納得、教官だわな。
しかもただの教官じゃねえ、鬼教官だ。
どこぞの軍曹にも負けてねぇよ……
「貴様ら……誰に口を利いている……?」
「「「「「「……ひっ! (ガクガクブルブル)」」」」」」
「答えろ!!!」
「「「「「「も、申し訳ございません!」」」」」」
「答えろ言った!!!!」
「「「「「「s、sir, yes sir!!!!!」」」」」」
あ。
「……なんだと……?」
はいバカ。
これは自業自得だろ。
女性の上官に向けて『sir』とか自殺志願者かよ。
しかも相手はこの鬼だろ。
カムバックいつのも楓さーん。
無理か。
「「「「「「ッ!!! も、申し訳――」」」」」」
「もういい。そこへ並べ、10秒だ」
「「「「「「い、yes ma'am!!!!!!」」」」」」
シュヴァインシュタイガー!
じゃなくて、シュバッ! と擬音が似合う動きで、整列する候補達。
おっと、楓さんや。
そのメリケンサック、どうするのかな?
あー指に嵌めちゃいましたかー。
ブオンブオン音出てるよ拳を振る度に。
候補達の顔色は……あーあ、可哀想に。
真っ青だよ。
秋晴れの空より青く澄んでるよ。
どこか遠い所を見ながら、つうっと一筋涙を流してる人まで居るじゃないか。
ごめんな、みんな。
俺にはどうすることも出来ないんだ……
俺は……俺は無力だ!!
あ、始まった。
放送出来ねえよ……
~ただ今処理中です。暫くお待ちください~
Lording now……
■□■□
「それでは、本日からお願いすることになりました、楓さんです」
帰宅後。
俺は契約の決まった楓さんを改めて家族に紹介している。
あの後の惨劇はもう忘れた。
世の中には知らなくて良いことがたくさんあるんだ。
因みに楓さんはジャージからフォーマルなスーツに着替えている。
意外と似合うな。
ダメダメな雰囲気とのミスマッチがたまんねぇ。
「あ、あの……お世話になります……、こ、郡山楓といいます……」
よろしくお願いします、と元の楓さんに戻って挨拶をしている。
母さんや冬華は最初、彼女を信用できるのかと疑っていた。
しかし、契約に際し楓さんの経歴を見たら安心したようだ。
優秀な警護官の母をもって、幼い頃から警護官のイロハを教わっていたらしい。
中学卒業後、警護官育成学校に入学。
倍率60倍を超える極めて狭き門だ。
卒業と同時に、警護官の資格を得て、なぜかそれを返上し軍に入隊。
18から6年間と少々従軍し、特殊部隊員まで務めたそうな。
しかし24で除隊、引き留められたが本人はそれを断って、ぴかぴか個人タクシーを始めた。
驚き、タクシー本職なんだ。
だが、副業で警護官育成の教官を兼任していたようだ。
その際に、警護官の資格を再び得たそう。
本人曰く、楽しい人生だそうだ。
で、現在楓さんは25歳。
食べ頃……っていうのは置いといて。
「母の冬美です、自慢の息子なの、よろしくね?」
「妹の冬華です! お兄ちゃんをお願いします!!」
リビングソファで仲良く対面している姿からは、あの鬼の片鱗すら見当たらない。
きっと夢だね☆
「あ、あぅ、仲良く、していきたい……です」
母さんも冬華もニッコニコしている。
楓さんのこのキャラが琴線に触れたようだ。
……あの姿は言わぬが花だな。
「うふふ、こちらこそ」
「よろしくね、楓お姉ちゃん!」
「あわわ……わ、私がお姉ちゃん……」
俺はこのまったりした光景を微笑みながら見守っている。
二人は気付いていないようだが、楓さん、拳銃とナイフ持ってるぞ?
ジャケットに不自然なシワがあるし。
若干左の肩が上がってる。
ナイフは腰の後ろだ。
ジャケットが張らないよう座っている。
ナイフのシルエットが浮かんじゃうからね。
いくら警護官とて、銃器の携帯は厳しく制限させているのだ。
ナイフはそうでもないが。
で、それを普段から携帯できている楓さんの信用の高さが窺える。
もちろん上手く扱う能力も証明されているだろう。
俺が銃器の所持申請出来るのは……確かに16歳だったか?
講習に行って免許証を発行してもらえば男なら所持が認められているのだ。
だが悲しいかな、努力もできないもやし野郎たちでは、その後の携帯許可証を取得できないの。
見た感じ割りと簡単そうなので、すぐとりたい。
来年か……。
バイクと銃のライセンス、楽しみだ。
「それじゃ、お家の案内と楓お姉ちゃんのお部屋を決めよう!」
「そうね、じゃあ冬華。ちゃんと案内するのよ?」
「うん! お兄ちゃんも一緒に行こ!」
一緒にイこう……だとぉ!?
なにそれ3P?
いや、母さん入れて4Pか?
うん、冗談。
早く早くと急かす冬華に苦笑いを浮かべ、ソファをたった。
早く早くって、全く。
俺は早漏じゃねーんだぜ?
知ってるよな、冬華なら。
「焦ると足の小指ぶつけるって」
冬華の後をおって、俺も家を案内される。
こんな風にして、我が家には新たな同居人が増えた。
まずは楓さんの処女を美味しく貰うとして。
親子丼は中々難しいけど。
冬華&楓の3Pならイケるかも?
フリフリ揺れる目の前の尻2つを眺めながら、俺はそんなことを考えていた。




