episode eighteen
とある場所。
薄暗く怪しい佇まいの一室。
そこでは怪しい風貌の女達が集まり、会議が催されていた。
「では、我々は同盟を結び、全クラス合同で学校祭の出し物を行う」
「「「「「「異議なし」」」」」」
円卓を囲んだ代表者達が、司会の言葉に同意する。
さながらそれは、かの円卓の騎士達の会議に酷似したものであろうか。
「我々は出し物を『演劇』及び『喫茶店』とする」
「「「「「「異議なし」」」」」」
だが何の異論もでぬその会議は、はたして英雄らのそれとは異なっているだろう。
まるで魔王を中心とした協賛会議の如く。
「『演劇』の主役には、霧桐冬夜を抜擢することを決定す」
「「「「「「異議なし」」」」」」
ことごとく決まり行く決議の数々。
そんな最中、不意に議会の進行が止まり、部屋の片隅に司会の目が向いた。
「3組の……なんの異論も挟まないが、構わないな?」
そこには闇に紛れひっそりと潜む幾人かの女。
さっき来たのか、或いは最初から居たのか、それすらわからぬ女達が、今口を開いた。
「ええ、3組の総意として、この決定に口を挟むつもりはないわ」
「でもお忘れなきよう」
「冬夜くんの意志は私たちの意志」
「彼が反対するのなら……」
「尊重するのは彼の意志」
なんの躊躇いもなく、朗々と、粛々と言葉を続ける女達。
最早誰がどの言葉を言ったかも判らぬほどに、統一が成されている。
「……戯れ言を……貴様らとて彼の者の演劇や、喫茶店で働く姿を見たかろうて」
舌打ち混じりに、円卓を囲む者から声が上がった。
「ええ、そうね」
「でもそんなものは上部だけ」
「私たちは彼に愛されたいの」
「それに比べれば……ねぇ?」
姿は見えない。
だがその声音から、嘲笑を浮かべていることは明白であろう。
ギリッと歯を噛み締める音が響く。
「冬夜くんを私たちだけで独占するのはどうかと思うし」
「冬夜くんもそういうのは望んでない」
「だからこそこの同盟に参加したのに……」
「貴女方も結局は自分達の欲望を叶えたいだけなのね」
愚か、と小バカにしてクスクスと笑う女達。
愛に気づけなかった自分達のかつての姿を見ているようで。
それが一層滑稽に映り、女達の笑いを誘う。
「きっと冬夜くんはやってくれるわ?」
「楽しみにしていたら?」
「『冬夜くん』を見ようともしないおバカさん」
「一生処女で終えなさい」
では失礼、そう言って女達は闇に紛れて消えていった。
あとに残された女達の目に映るのは、嫉妬、嫉妬、嫉妬の炎。
自らの運命を、クラス分けを呪うしかない哀れな女達。
彼女達は誓う。
必ずや冬夜に処女を貰ってもらうと。
彼女達は思う。
必ずや3組の連中を見返してやると。
嗚呼、何て滑稽。
嗚呼、何て喜劇。
当の本人は、ただヤりたいだけだというのに。
誤解の恐ろしさを語るべきか、はたまた彼の上っ面の振る舞いを誉めるべきか。
複雑に絡み合った因果の中、彼女達の今後を予測することは出来ない。
ただ、1つ言えるとすれば。
早く帰れ、先生がそこまで来ているぞ?
この一言に尽きるだろう。
記録に残しておく。
案の定、彼女達は放課後、音楽室を勝手に占拠した罪で先生方に怒られたのだった。
なお、早々に気付いた3組の女子は、華麗にお叱りを回避した。
■□■□
「3人で出掛けるの、久しぶりだね!」
「そーいえばそうだなー」
記憶に無いが。
そんな適当な相づちを打っているのは、母さんの運転する車の中。
大型連休がやって来て、俺たちは警護官派遣センターへと向かっている。
「休みがとれてよかったわ~」
運転席に座る母さんは、上機嫌だ。
なんでも、俺が警護官を付けにいくので――って会社に話したら、すぐ休みがもらえたらしい。
さすが俺。
「しっかり選んで、いい人付けようね!」
「そうね!」
「はは、付いてもらうんだから。威張っちゃダメだって」
みんな旅行気分で楽しそうだ。
俺も後部座席に冬華とならんで、大人しく座っている。
実はそれっぽいことを言いつつも、一番楽しみなのは俺なんだ。
しっかり選別せねば。
センターの基準よりも、俺の基準で選びたい。
はっきり言って求めてるものが違うからな。
身を守る為じゃなくて、トレーニングの為に付けてもらうんだ。
口が軽そうな人は論外じゃん?
ま、着いたら考えればいいよね。
そうしてさらに車に揺られること十数分。
センターに到着した。
駐車場からしてかなり広い。
大抵が、軍の駐屯地と併設されているからな。
訓練施設とか、軍に借りているのだ。
このセンターも、駐屯地と併設されている。
車を降りて、センターの中へと入った。
綺麗な内部だ。
どこか病院じみた感じがする。
「お待ちしておりました。霧桐冬夜様とそのご家族様ですね? 早速ですが、こちらへ」
前もって話を通しておいたため、すんなりと案内をされる俺たち。
担当の人に連れられて、体育館のような場所まで案内された。
「申し訳ございません、霧桐様の警護官募集を出したところ……その、応募が殺到いたしまして」
そこにはずらっと、約百名ほどの女性達がいた。
「最高ランクの警護官募集待ちの方が、ほぼ全員……」
なるほど。
どうしようも無くなったと。
前代未聞だそうだ、この人数は。
今までは多くても5人、6人だったそう。
やはり彼女達だって、警護する男は選びたいだろう。
将来結婚する可能性がもっとも高いのだからな。
ま、俺のプロフィールが公開されれば、こんな状況も然りだろう。
どうするか……
よし、テストしよう。
「わかりました。じゃあ、母さんと冬華。ちょっと待ち合い室で待っててくれない?」
「え? 別にいいけど……」
「冬夜くん、一人で大丈夫?」
「平気だよ。ね?」
そう言って俺は二人をこのホールから追い出した。
ふう、これでよし。
二人ともチョロすぎ。
さてと、テストを始めようか。
「皆さん! 初めまして、霧桐冬夜です。本日は俺のためにありがとうございます。それで、俺としてもこの人数を雇うってのはムリなんで、簡単にテストしたいと思います」
すこし声を張って、全体に行き渡るようにする。
幸いこのホールの床は、柔道場のようになっているためぶん投げられて叩きつけられても、まあ、大丈夫だろう。
多分。
「簡単なテストです! 床に倒されたらそこで終了、頑張ってください!」
そう告げると、みんな首を傾げた。
「質問がございます」
「はい、何でしょう」
警護官候補の一人が手を挙げた。」
「倒されるというのは、誰にでしょうか?」
「自分以外の誰かにです」
そこで一旦切って、今度は全員に告げる。
「回りは全員敵、とりあえずそれで皆さんの実力を見たいのですが、いいですか?」
……。
ふむ、特に異論は無いな。
「では、始め!」
ふふふ、どうなることやら。
こいつの面白いところはいくつかある。
ルールが1つ、倒れなきゃいいって所だ。
同盟を組もうが、卑怯な手を使おうが、知ったこっちゃない。
極論、このホールから出て、どっかに隠れていたって何の問題もない。
近隣の駐屯地から爆薬掻っ払ってきて、爆殺したってルール違反ではないのだ。
まあ、ルール違反の前に、法律違反、さらにその前に軍隊に取り押さえられるだろうが。
戦闘技術も勿論だが、様々な事を見れるのが素晴らしい。
エクセレント。
「あ、あの、霧桐様……これで何が、きゃっ!?」
隣の案内人のお姉さんが質問してきた。
が、サッと抱き寄せ、体勢を崩す。
「お姉さんも敵なんですよ? 油断したら、だーめ」
チュッとほっぺにキスをする。
「……ほえ?」
ドサッと床に落っことして、お姉さんはご退場だ。
世界一幸せな退場だろうけど。
よっしゃ、俺も行くか。
何のために動きやすい格好で来たのかって話っすよ。
人数は想定外だったが、端っから手合わせはする予定だったのだ。
床を踏み込み、睨み合っていた二人組を強襲した。
俺だって全員を相手にするのは不可能。
最大限うまく立ち回って、組み合う人数を調整する。
今の体じゃ、同時に相手を出来るのは二人まで。
「っな! きゃっ!」
拳を放とうとしていた一人の腕をとってバランスを崩し、足をかけて前に転がす。
呆けている二人目と目を合わせ、ニッコリスマイル。
「はうっ!」
ズキューンとハートを撃ち抜かれ、脱け殻になった体をデコピンで倒す。
バタン!
バカみたいなやられ方だが、この世界で俺の容姿なら可能なんだ。
俺も上手くいくとは思ってなかった。
見とれてくれたらなーぐらいにしか思っていなかった。
「「「「「「え?」」」」」」
回りの警護官候補達は、俺の一連の行為を呆然と見ていた。
「どうしたんですか皆さん。自分以外ってんだから、当然俺も敵ですよ?」
そう言って近くにいた警護官候補の懐に入り込み、押し倒す勢いで背中から投げた。
「想定外の事で動けなくなるような方しか居ないようですね。では、この話は無かったことにします」
俺は1つため息を吐いて残念そうに言った。
実際残念だ。
この女性達はプロのハズなのに、対応できて無さすぎる。
確かに男の俺がいきなり乱入してきて、警護官候補を転がしたらビックリするだろう。
想定外もいいところだ。
だからって固まってていいかって話ではない。
守るのが仕事なのに、固まりましたってのはそれこそ論外だ。
口が固い云々前の問題である。
「……はぁ」
マジで期待はずれだ。
技術とかじゃなくて、心構えの方がダメだった。
プロちゃうのか。
とんでもなく厳しい訓練を受けてきたんじゃないのか。
また次を探そ――
轟!!!
「!? がっ!!??」
あっぶねぇえ!!
とっさにその場を飛び退き、顎をガードしたお陰で直撃は避けた!
俺の死角から本気で殺りに来ている一撃が飛んできたんだ。
食らってたら脳ミソが揺らされ終わってた。
全然気づけなかった。
「……マジかよ」
思わず声が出る一撃だ。
それを放った本人の方を向いた。
そこに居たのは、ジャージに身を包んだ一人の女性で。
てか、おい。
この人知ってる。
みんな知ってる。
この女性――
「楓さん!?」
なんと、ぴかぴか個人タクシーをやってる、俺も世話になったあのどこか構いたくなっちゃう女性、郡山楓だったのだ!
そして何と何と!
「「「「「「きょ、教官殿!?」」」」」」
お前教官だったのかよ!!
あの名刺詐欺じゃねーかよ!!
個人タクシーなんかやってんじゃねーよ!!




