episode sixteen
「……ん」
ベッドの上で体を起こして、スマホを見る。
時刻は5時。
暁を覚えない春は通り越し、空は真っ暗ではなくうっすら青くなっている。
いつも通りの日課を終え、軽くランニングをしてきた。
シャワーを浴びて、リビングに行く。
丁度出勤のタイミングだった母さんに挨拶をしてから、朝食をとった。
午前7時を回ったところ。
先日のうちに今日の勉強会の事は、母さんに伝えてある。
やはり心配されたが、結局はオッケーだった。
俺に甘すぎじゃね? って思ったが、この程度は甘いのうちに入らない。
まず、世の女性は男を出産すること自体名誉なことで、過保護になるのは当たり前。
この世界、生まれた男は砂糖漬けかよってレベルで甘やかされて育つ。
家庭でも社会でも、あらゆる面で優遇され甘やかされる。
結果は推して知るべし。
今日だってさっきお小遣い(10万)貰えたし。
全く素敵な世界に来たもんだ。
だけどまあ、あまり母さんには心配かけるようなことはしない方針なのだ。
どこか無条件な愛情みたいなのが、母さんや冬華へある。
きっとこの体に刻まれた、親子の、家族の情なのだろうと勝手に結論付けている。
冷めた言い方をするなら、種の、遺伝子の存続を求める生物の本能的なモノなんだろうけど。
幸せに感じるなら良いじゃないか。
この理論でいくと、俺の肉体関係上等主義がまかり通る。
幸せならいいじゃない!
気持ちいいならいいじゃない!
ってな。
つーわけで、今日の勉強会も張り切っていこう!
勉強道具をいれた鞄を持って、冬華の部屋に声をかけてから玄関に向かった。
「じゃ、行ってくるよ冬華」
「ふぁーい、行ってらっしゃーい……」
ちょっと寝ぼけてんな。
休日だし、こんなもんだろ。
ベッドの上で、目をぐしぐししている冬華を想像しながら、俺は颯爽とレストラン名香野に向かった。
キラリ。
■□■□
レストラン名香野には、8時半過ぎ、9時前ごろついた。
みんなは既に集まっている模様。
裕璃が出迎えてくれた。
レストラン名香野、つまり名香野家は3階建てだ。
1階はレストラン、それより上が生活空間、という造りである。
今回、俺たちは2階のリビングで勉強会だ。
今日も店は普通に営業中のため、瑞希さんは厨房である。
しかしテスト週間の土日は、裕璃の勉強のため予約客しか店にいれていなそうだ。
従ってそれほど忙しくならず、こうして裕璃もホールに出ず勉強できるというわけである。
瑞希さんから直接料理出されるとか、けしからんな。
客が羨ましいよ。
全員女性だが。
「おはよう! 待ってたよ、冬夜くん」
裕璃を皮切りに、それぞれ挨拶をしてくるクラスメイツ。
「ああ、おはよう」
俺も負けじと、少し微笑んで挨拶を返す。
みんなはほんのり頬を染めながら、嬉しそうに笑ってくれた。
ああ~この空気たまんねーわ。
なんつの、乙女! みたいな空気よ。
この子達は、性的快楽ももちろん与えてくれるが、さらに他にはない癒しも同時にくれる。
そう、今のように。
ああああ、俺の貧弱な語彙ではこれが限界だ。
分かる!?
こう、何て言うのかな、この世界の女性にはあまり無い……その、余裕? ってのかな。
ゆったりとした愛みたいな、とにかく、そうなんだ。
決してジェンダーとか差別的な意味では無いんだが、夫を立てて自分は3歩後ろをしずしず歩く撫子って形容がしっくり来る。
別に結婚はしてないんだがな。
そんなゆったりまったりな空気の中で、勉強会は始まった。
男はバカでもスウィートに生きていける世界だが、女性は普通に競争社会だ。
学力はとても重要なので、みんな真面目に勉強するし、頭も良い。
もちろん学力が全てではないぞ?
しかし、基本女性のスペックは総じて高いので、社会全体のレベルも高いのだ。
厳しい世の中。
日本より、数段上ではなかろうか?
そんなに頭が良いんだから、男なんて家畜にしちまえばいいのに。
因みに、そういった思想は危険思想とされているようだ。
道徳観念、倫理的にアウトらしい。
実際に男の家畜化、種馬のように扱うことを目的とした、革命テロ集団も存在する。
俺からすれば、はっきり言ってテロリストの思考の方が効率的だと思うんだが。
空気を読んで、口には出さないけどね。
片や、神の名の元、人殺しを正当化している連中。
片や、世界の存続と社会変革を掲げ、男の家畜化を目指す連中。
上はなんとも言えんけど、下には一言言えるよ?
ヤってやるから大人しくしてろってな!
多分、この一言でテロ集団は消えると思う。
要はヤりたいだけだろ。
任せろ、俺に。
閑話休題
「それじゃ、一旦休憩にしようか」
裕璃の声をきっかけに、みんな体を伸ばしてリラックスする。
ボディーラインが強調され良い感じ。
良い匂いが振りまかれもう最高。
JCパラダイス、略してシーパラ。
「うーん……」
俺ももちろん真面目に教科書を読んでいたため、肩や目、腰が少し痛い。
グググ、っと伸びながら、目頭をもんだ。
「冬夜くん、私たちでマッサージしよっか?」
すると、3人の女子がそう提案してきた。
「え、いいの? それならお願いするよ」
ふはは、遠慮なんてものは父親のキャンタマに置いてきたぜ。
俺はこれ幸いと、マッサージを頼んだ。
「ふふ、まかせて。私たち、マッサージは得意なんだ」
「うん。3人で練習したの」
「痛かったら言ってね?」
「あい。お願いね」
うつ伏せで寝転んでいるため、はいって返事が、あいになっちまった。
クスッと笑われた気が。
可愛いとか言われた気が。
何だかエロいことされそうな気が。
杞憂でした。
「……ん、ふう……」
はい今の声エロいヤツだと思った人。
廊下に立ってろ。
残念、俺の声でした。
しかし言うだけあって上手い。
3人で俺の体を分担してやってくれる。
3ヶ所同時攻めは基本ですよねやっぱ。
俺も得意だよ。
左右のBチクを指で攻めつつ。
栗とリスのお二方を舌で愛撫。
放送事故は起こさない俺って天才。
「んしょ……冬夜くん、どう?」
最高ですよ、お嬢さん。
前世の行き付けだった整体師には及ばないけど。
こう、気持ちが籠ってるのが伝わってくる。
俺を心から労ってくれてる思いが出てきてて、それが嬉しい。
「う~ん、じょーずだねぇ……」
体の芯からポカポカしてきて、堪らなく心地良い。
目がトロンとしてきたと思ったら、急激に眠くなってきた。
グッ、グッ、とリズミカルに圧せられる体。
「……あれ、冬夜くん? 寝ちゃった」
「ホントだ。可愛いね」
「無防備すぎだよ~」
そんな声と、優しく頭を撫でられる感触を最後に、俺の意識は微睡みに沈んだ。
■□■□
「……くん、冬夜くん」
ユサユサと体を揺すられる。
誰だよ。
俺は……あ。
「…………ごめん」
パチッと目をあけ、まず謝った。
いま何時かわからないが、外は茜色に染まっている。
黄昏時かよ。
寝過ぎだろ俺。
「んーん、いいんだよ。みんなはさっき帰ったところ」
あちゃー、マジか。
冗談抜きで申し訳ないな。
勉強やってる横でグースカ寝てるとか……うわぁ殺してぇ。
つーか、じゃあこの子は裕璃か。
やっと頭が冴えてきた。
「ほんとにごめん……みんなにも謝んなきゃな」
そう言うと、裕璃は優しく笑ってくれた。
「いいんだよ。ゆっくり休めた? 私たちの側でゆっくり休んでくれてるって、みんな嬉しがってたよ?」
もちろん私もね、と告げる裕璃の顔は堪らなく美しかった。
俺は思わずその顔にドキリとして、見とれそうに――
――は、ならず、11Pをする機会を逃したことを悔やんだり悔やまなかったり。
人 間 の ク ズ ! ! !
ク ズ の 鏡 ! ! ! !
だけど、本当に申し訳なく思っている。
そのあと俺はしっかり裕璃に謝って、レストラン名香野を後にした。
明日学校で謝らなきゃね!




