episode fourteen
色々あった4月は、あっという間に過ぎていった。
冬華とは今までより仲良くなった。
クラスメイトは安定の安定感。
レストラン名香野のオーナー、瑞希さんとも親しくなれたし。
それで、現在は何かって言うと。
テスト期間真っ只中なのである。
5月の半ばにある中間テスト、その1週間前はテスト週間となって、部活などが停止する。
学校としては、それで勉強しろってことなんだろう。
俺からすれば、中三レベルだからな~って感じ。
数学はオッケー余裕。
理科も大丈夫。
国語と外国語などの言語科目は、絶対なんて存在しない。
ま、高得点はとれるけど、満点は無理だろうな。
社会は改めて、テスト範囲を見直そうと思う。
常識的なところで間違えたら、洒落にならん。
こんなところだろう。
ところで、現在は午前11時。
土曜日だ。
初夏の陽気で、薄着でも十分に暖かい。
日差しはこれから梅雨に入るとは思えない、さらさらとしており心地よい。
俺は朝からいつもより長めに走り込んで、ついさっきまで筋トレに勤しんでいた。
なかなかのボディーになってきたんじゃないか?
数日前、風呂上がりに腰にタオル巻いて、母さんと冬華にふんっ! って、見せてやった。
そしたら鼻血噴いてたからな。
実用的な筋肉だから、ボディービル選手みたいな派手さはない。
だが、いずれはしなやかでバネのある筋肉に包まれたい。
目標は35歳くらいで、古代ギリシャの戦士たちみたいなボディーになることだな。
あいつらすげえよ。
あの時代なら、連中は最強の軍隊じゃねーのか?
運用方法と然るべき装備・兵站さえあれば、世界を圧巻できたんじゃねーかって思う。
でも、慣れない気候とか土地で戦うのは難しいか。
そういえば、日本の軍隊も世界と比べたとき最強だって時代もあったんだぜ?
戦国時代の日本軍だ。
織田だの上杉だの武田だの毛利だのって時代のことだな。
九鬼水軍や村上水軍ってのも居たが、ここでは陸上の戦力についてである。
おそらく国内でドンパチやらず、とっとと一致団結して外征してりゃ、徳川300年の時代遅れなんて無かっただろう。
火縄銃を持たせ、刀をぶら下げ槍を握らせて地べたで戦争させたら、当時世界最高峰の軍事力だったんじゃねーかな。
豊臣が朝鮮侵略をしたけど、あれは指導者が無能だったろ。
一説じゃ、梅毒で頭がやられてラリってたって話もある。
信長と秀吉とじゃ、同じ侵略でも結果は変わってたんじゃないかな?
叶うことなら、戦国の英傑たちが散らずに手を取り合って欲しかった。
毘沙門天とまで謳われた軍神、上杉謙信。
赤備え、最強の騎馬隊を誇った、武田信玄。
越後の龍、甲斐の虎とあだ名された彼らを筆頭に、九州の隼人たちや島津四兄弟。
四国の長宗我部をはじめとした猛者たち。
やり手の松平、守りに関して右に出る者がいない後北条。
中国毛利の両川と親分を含めた、三本の矢。
時代はすこし後に生まれるが、世が世なら台風の目となった麒麟児、独眼竜伊達政宗。
そして、革新的な思考を持ち、戦国の世に新たな風を吹かせると思われたが、謀叛によって炎に沈んだ一人の男。
第六天魔王とまで畏れられた、戦国の恒星、織田信長。
他にも大勢の英雄たちが生まれた、あの時代。
もし、もしも。
もしも全員が生きて手を取り日本を統治し、世界と渡り合っていたら?
机上の空論でしかないけれど、今とは大きく歴史の流れは変わっていたように思われる。
ま、所詮は俺の妄想だ。
忘れてくれ。
で、筋トレを終わりにして、対人戦の訓練中だ。
こればっかりは見られちゃ不味い。
「ふっ! ……シッ!」
素手とナイフを使って、イメージした敵を無力化する。
見られちゃ不味い、不味いんだが実戦形式で訓練したい。
勘が鈍りそうだ。
はあ~……。
俺の人生がそもそも軍一筋だったからなぁ。
やっぱこう、もやっとしたものがある。
あ~、警護官雇っちゃおうかな?
男性専門のSPみたいなもんだ。
厳しい審査基準を経て合格する彼女たちは、精鋭中の精鋭。
女性の職の中で最も人気の高い職で、世の野郎共にも人気があるらしい。
……。
けっ!!
ぺっ!!!
くっそーむかつく。
美人があのクソゲロニートゴミクズブス野郎共に犯されているところ想像すると、殺意が沸々と沸いてくる。
紛争地帯でどさくさに紛れてレイプするやつとか、何度も見かけたが悉くぶっ殺した。
大丈夫、紛争地帯だから。
人を人足らしめているのは理性なのに、そいつを忘れたらただの獣よ?
獣を撃って処罰される軍法はありません。
詭弁だがな。
そんなワケで、まあ、百万歩譲って合意の上なら許せるんだけど。
俺が言うなって話っすよね!
落ち着け俺、話が逸れ始めたぞ。
で、その男性警護官なんだけど、守秘義務とか色々あるからさ。
俺の訓練とかトレーニングとか、付き合って貰おうかなって。
でも、大抵が住み込みになるからな。
金銭面での心配は一切無いんだが、オッケー貰えるかな?
母さんや冬華には1度薦められたこともあったんだけど、断っちゃったんだ。
そのあと調べてみて、やっぱり雇おうかなって気になった。
ま、後で聞いてみるか。
多分オッケーだろ。
「フッ! ……フゥ、ハアァ……シャワー浴びよ」
部屋のフローリングに垂れた汗を拭いて、窓を開け換気する。
汗が滝みたいに垂れてきて鬱陶しい。
前髪がへばりついてくる。
「髪も切らなきゃな……」
適当に前髪をかきあげて、脱衣場に向かった。
服を洗濯機に放り込んで、風呂に入る。
「あ~、気持ちええなぁ~」
ぬるめのシャワーを浴びて、頭と体をよく流す。
石鹸もつけてよく洗い、スッキリしてから体を拭いた。
半ズボンだけ履いて、上半身はネイキッド姿でリビングに向かう。
カチャっとリビングのドアをあけて中に入ると――
「「「あ」」」
中にいた3人と目があった。
自室から風呂場まで、リビング通らなくても行けるから来客に気づかなかったな。
部屋にいたときも、わからなかったし。
観察力が鈍りすぎか?
ま、いいだろ。
戦場じゃあるまいに。
「いらっしゃい、加那、七海。ゆっくりしてけよ」
そう、中にいたのはこの二人。
それから我が妹、冬華の計三人だ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ああ、そういえばだな。おはよ」
「今日は三人でテスト勉強するの!」
「そうか、頑張れよ。昼飯作ってやろーか? ちょうど俺も食べようと思ったところなんだ。なにがいい?」
「やった! ありがとお兄ちゃん! 二人とも、何かある?」
そこでやっと二人に会話を向けた冬華。
加那は真顔で俺の体を見つめている。
一瞬見えたJKのパンチラを脳裏に焼き付けようとする男子高校生の如く!
七海はポカンとお口とお目目を開けて、俺をうっとり眺めている。
さながら夜空を彩る星々に心を奪われ見とれるが如く!
ふはは、刮目せよぉ!
もっとだ、もっと俺を見てくれぇ!
なんて冗談かましてる場合じゃねーわ。
昼メシ何にするんだろ。
「「な、何でもいいれす……お願いします……ゴクン」」
この二人ってタイプは違うけど息ぴったりだよね。
名コンビだ。
「う~ん、じゃあお兄ちゃんに任せるよ!」
「そうか。じゃあ適当に作るよ」
「うん! お願いします!」
りょうかーい、と手を振り、結構な設備のあるキッチンに引っ込んだ。
二人はまだポケッと俺を眺めていたが、俺が引っ込むと冬華に掴みかかっていた。
「ちょっと冬華! 冬夜さん、家ではいつもあの格好なの!?」
「ずるいぞとーか! ここは天界かよ! ルシファー様のあんな姿……アタシ今日泊まりたい!」
七海よ、ルシファーは天界を追放されました。
お前好きすぎだろルシファー。
なに、実はオタッキー?
中二病? ってやつか?
で、何食おうかな。
冷蔵庫を漁ったら、肉を見つけた。
これにしよう。
鶏肉か。
……。
決めた。
フライパンを加熱して、オリーブオイルをしく。
4人分鶏肉を放り込んで、蓋を閉じ蒸し気味で火を通す。
その間にマヨネーズを作る。
卵黄、赤ワインビネガー、オリーブオイル、胡椒、塩を混ぜて、味を整える。
焼き上がった鶏肉を、キッチンペーパーに乗せて、横にスライスする。
このスライスしたところに、ハムととろけるチーズを乗せてさっきのマヨを塗り、上から切った鶏肉の片割れを乗せ、挟み込む。
その肉をフライパンに戻して、表面がカリッとなるまで焼く。
ファイヤー。
焼き上がったら皿に乗っけて、横にお好みで付けられるようさっきのマヨを乗っけておく。
「できたぜ~」
リビングのテーブルに4つ、鶏肉を出す。
サラダとパンも一緒に出した。
「「「わあ!」」」
ついでに茶目っ気たっぷりにウインクしつつ、赤ワインも一本開けた。
「内緒だぞ? 一杯だけな」
でないとヤバイ。
主に俺が。
ワイングラスに注いで、三人に振る舞う。
最後にナイフとフォークを準備して完成だ。
「さて、頂きます」
「「「頂きます!」」」
さっそくモグモグし始めたのは、案の定七海だ。
うめーうめーと肉を頬張っている。
本当に正直で可愛い娘だ。
ぜひ美味しく頂きたい。
きっとうめーうめー。
加那はおもむろにスマホを取り出して、パシャパシャやり始めた。
はよ食べろ。
冷めるぞ。
この冷めた表情を熱で浮かせたい。
俺の料理で。ふひゃ!
冬華はなれたもんで、嬉しそうに肉を切り分けて食べている。
とても上品だ。
とある場所では下品に乱れるのだが、今は置いておこう。
こんな休日も悪くないか。
このあと勉強するって感じなのかな。
俺もまざって教えてあげたい。
中間テストに保健が無いのが残念である。
ま、普通の科目を上手に教えて、好感度をあげておくのも悪くないだろう。
今更あげたって関係ないとは思うけどな。
1兆と1兆1の違いみてーなもんだろ。
あ、加那が唇についたマヨ舐めた。
えっろ。
あ~、早くお勉強教えてえな~。




