episode one
よろしくおねがいします。
2021年4月26日 改稿
俺の両親は軍人だった。
特殊作戦軍に所属するエリート軍人。
日本が自衛隊を日本軍と改称してから随分と経つ。
公式には『日本国民の安全保障及び平和を目的とした日本自衛軍』と言うのだが。
『平和』の為の武力、ねぇ……?
大いなる矛盾だと思っているよ。
でも必要。
人類の永遠の命題ではないだろうか?
とにかく、そんなわけで日本には、陸軍、海軍、空軍、それから一般には秘匿されている特殊作戦軍、この四つの軍が存在している。
で、両親はその特殊作戦軍に所属していた。
過去形なのは、もう殉職したからだ。
12歳の頃だった。
当時は悲しかったのを覚えている。
でも、その頃から両親が軍人だったと知っていたし。
両親も口を酸っぱくして、自分達はお前をいつまでも愛していると、だから急に居なくなっても哀しむなと、お前が父さんや母さんを忘れなければ幸せだと言っていた。
両親は俺が幼い頃から、任務でよく飛び回っていた。
精鋭中の精鋭だったらしい両親は、上司や同僚、部下、それから同盟国軍の戦友たちに慕われていた。
任務の度に、幼い俺を彼らに預けていった両親。
お陰で俺は、日本語以外にもいくつかの外国語を習得した。
子供ってすごい。
そして何より、俺は学校に行っていなかった。
まさか、軍の基地や施設から登校するわけにはいかないし、拉致される危険性もあったのだ。
俺の両親は、さる筋ではいわば死神のように恐れられていたからな。
一体どんな経歴だったのだろうか?
まあ、いいか。
で、代わりに何をして過ごしていたかと言うと、ズバリ、軍事訓練だ。
いや、待ってほしい。
当時の俺は、それが軍事訓練とは知らなかった。
両親の戦友たちに騙されていたのだ。
どうやら俺は、両親の戦闘に関する才能をしっかり受け継いでいたらしい。
それはもう、この上ない程に。
連中もホンの遊びのつもりだったようだが、俺がスポンジの如く技術を吸収するのが面白くて、やり過ぎたようだ。
任務の帰還の度に俺を溺愛して行く両親に、そんなスキルを見せる機会なんてないし。
つまり親は子供が精鋭街道まっしぐらなのを知らないでいた。
バカ共も秘密にしていたようだ。
そりゃそうだろう。
自衛程度の技ならばともかく、自分の子供を殺戮兵器に魔改造されて喜ぶ親が何処にいるのだろうか、いや、いない。
もちろん戦闘技術と同時に、手の空いている者たちに一般教養も教えてもらった。
当時の俺はそれら訓練と勉強が楽しくて楽しくて、一生懸命取り組んだ。
結果、10歳11歳あたりの頃には一般兵士に勝るとも劣らない、一端の子供兵士に成長した。
いや、してしまったと言うべきか。
そして賢い、と言うか秀才だった俺氏は気付いたのだ。
俺の存在って完全に国際法違反じゃね? と。
つか今までの遊びって、全部訓練じゃね? と。
同時に思ったのだ。
それを知りながら嬉々として、一般教養はともかく戦闘技術を教える大人たちって、バカじゃね? とも。
ま、薄々気付いていたそれを承知で俺も訓練していたんだけど。
親も親だったよなぁ。
当時の俺、明らかに少年の体つきじゃなかったのに。
ちっとも気が付かねぇったーどーゆー事だよ?
ああ、そういえば親バカだったなぁ……
で、俺が12歳になったある日。
篠崎のおっちゃん、と俺が呼んでいた人に連れられて、特殊作戦軍の司令部に行った。
そこには、俺に関わっていた軍人たちが、みんな悲痛な顔をして俺を待っていた。
そして、俺は両親の戦死を知らされた。
まあ、篠崎のおっちゃんやみんなの表情と態度で、何となく悪いことだって俺は想像していたんだっけか。
遺体は二日後に届くとか言っていた。
死因は毒だとかなんとか。
任務で使用していた拠点で二人揃って死んでいたのを、同行していた兵士が定時連絡の無線に出なかったため、確認しに行ったら発見したそうだ。
任務地はごく普通の国の市街だったらしく、即、軍による調査が行われた。
普通はちょろっと調べて殉職扱いなんだけどな。
即行軍が動いて調査隊が派遣されるとか、どんだけだったのよ俺の親。
調査の結果、逮捕されたのが内部の人間。
あんなに怒り狂った篠崎のおっちゃんたちは初めて見たぜ。
ちなみに後から知ったのだが、篠崎のおっちゃんて日本軍総司令部総司令官、つまり元帥だったってこと。
俺からすればただのおっちゃんなんだけどな。
まあ、恩人だよ。
その後の処理なんかは、俺の預かり知らぬところだった。
葬式を済ませて、遺品を整理して、最後に両親のIDタグと遺産を受け取った。
あと、遺言書も貰った。
夫婦としての物と、母親の物と父親の物と、三つだ。
夫婦のやつからは、俺の身柄は篠崎のおっちゃんが預かってくれること。
遺産は必要なもの以外、処分。
金は全部俺のものになること。
最後に、好きに生きろ。
母親からは、まず謝罪が書いてあった。
死んだことや、その他様々なことについて。
で、次にとくとくと如何に俺のことを愛しているかが赤裸々(笑)に語ってあった。
100枚くらいに。
最後は、嫁ができたら報告しろってさ。
父親からのは、簡潔だったな。
レイプはするな、和姦しろ。
中出しするな、避妊しろ。
父さんは、同じ部隊の母さんに一目惚れをして、最終的に格闘術の訓練中に、どさくさに紛れてヤった。
好いた女ができたら、お前はちゃんと口説いてベッドでヤりなさい。
等々。
……マジバカじゃね?
遺伝子受け継いでいるとか思いたくなかったよ。
12歳の子供になんて遺書残してんだよって話だぜ。
俺への遺書は、夫婦としてので十分なのに。
何で二人とも個人の遺書まで俺宛なんだよ?
片方生き残る事を考えてなかったのかな?
やっぱバカだわ。
その後は結局、篠崎のおっちゃんに引き取られて。
俺は、両親と同じく軍人の道を歩むことにした。
非公式で、18まで訓練と積んで、晴れて正式に入隊を果たして。
その時に一悶着あったんだけど。
曰く、俺の戸籍が無かったらしい。
ま、それは置いといて。
だって篠崎のおっちゃん元帥だぜ?
どうにかなったんだろ、たぶん。
普通に違法行為だがな。
そんなわけで、俺も軍人になった。
少尉からいきなり始まったよ。
初任務は、紛争地帯に放り込まれた。
訓練の方が厳しいなって思ったな……
殺すってことや、人間を傷付けるってことに忌避感は無かった。
サイコパスってわけでもなかったが。
必要ならって、割りきっていた。
幼少からの環境も、影響していただろう。
で、さらにいくつか任務を重ねて、俺は19歳になった。
階級も上がって、大尉になった!
異例だろこ歳でこの階級は。
そんなある日、俺は地下の訓練施設に呼び出された。
屋内戦を想定した施設だ。
で、そこにノコノコ出張ったのが運の尽きで。
俺のことが気に食わない連中、百名程によるアツアツの歓迎を受けた。
装備が明らかに訓練のそれではなく、おそらく第三国が絡んでたんだろう。
連中を焚き付け、秘密裏に装備の給与……って所か?
ナイフ1本でどうしろってんだ。
ゲームやらじゃあるまいし、一人で戦闘するには無理があるのよ。
それでも客観的に見て、俺の戦闘能力が最高峰なのは揺るがない。
殺るだけ殺ってやったさ。
四人で一個小隊を編成していた連中だったが。
練度の低い小隊を後ろから襲い、1殺。
2殺、拳銃を奪って3殺。
敵の反撃、銃撃を敵の死体で防ぎつつ応戦、4殺。
手早く装備をぶん盗って、身を隠す。
途中、奪った通信機に連絡が来た。
出入り口の封鎖が完了、ガンシップの120㎜でも持ってくれば突破できるって……脱出不可能ってこったな。
へっ、親子2世共々敵は身内にありってか。
クソッタレめ。
そのあとしばらく戦闘行動が続いたんだけれど。
結局俺は死んだ。
連中の目的は俺の足止め。
最終的には施設ごと吹っ飛ばされた。
一瞬の激しい閃光、身を震わす轟音、全身がバラバラになるような衝撃、そして灼熱。
こりゃあ助からない。
それこそゲームじゃあるまい、どんなに強くても俺は人間には変わりない。
意識が無くなっていった。
最期に脳裏に浮かんだのは、俺を育ててくれた人たち、そして両親の顔だった。
『--……』
父さん? 母さん? 何か言ってんのか?
聞こえねえよ、もう。
19歳でくたばるのか。
『--……』
親不孝だな、この歳じゃ。
篠崎のおっちゃん、すまんね。
ふう……
どんどん意識が飛んで行き、なにもわからなくなった。
そうして俺は死んだ。
そう、死んだ。
「……ハズなんだけどな~」
目を開けたら、飛び込んできたのは知らない天井。
見回すと、知らない部屋。
「……マジかよ」
意味がわからんが、うん、意味がわからん。
姿見があった、うん、俺が映っている。
歳は若返ってる、か?
15歳前後だと思う。
めっちゃカッコいい美しい、俺氏。
実は氷の美貌なんて言われてました、マジで。
ちょっと目付きが柔らかくなってるな。
は? ん?
グレーのスウェットをめくってみた。
お、体つきはパンピーだな。
デブじゃないが、鍛えてあるわけでもない。
じゃあ、俺じゃない?
わからん……
「俺は死んだ。確かに死んだ。マジリアリー事実。だが、俺は生きてる! Why tell me reason!! Where am I?」
お前ら、耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!
何を言ってるかわからねえと思うが、俺も何が起きたかわからねえ!!
2021年4月26日
以前の私は「英語使える俺マジかっこE」「颯爽とルビを振る俺チョーイカス」と本気で思っておりました。投稿再開以降の文章は、多少痛みが引いていると思います。今よりあほだった自分が投稿していた30話程度まではご容赦ください。