働かざるものは (1)
半月経過して、僕は依然として失業中。貯蓄はほとんど無し。雇用保険が頼みの生活です。田舎に逃げたので家賃はかからないけど、予定外の居候のために食費が増大してます。ちょっとヤバい物を造って小遣い稼ぎします。
無職というと侘びしいけれど、フルイタム自由時間というと超贅沢な感じ。職探しもしなきゃならないけど、余りの時間を活用しなければもったいないです。実は納屋は秘密の工作室になっているのです。
先期の棚卸しの際、会社(先日潰れた!)で廃棄する古い機械を譲り受けました。ふた昔前の工作機械など売れば屑鉄値段ですが、いざ買うとなるとけっこう大変です。
「倉庫にある古いフライスとか、全部処分するから運び出すぞ。手伝えよ。」
「えっと、あの台帳落ちの、捨てるんですか。捨てるなら欲しいです。まだ使えそうだから。」
「捨てるんじゃなくて、売るんだよ。まあ屑鉄値段だけどな。」
「なら、ボーナスと相殺で僕にくださいよ。」
「運ぶなら工場のトラック貸すけど、置く所あるのか。」
「んじゃ、こないだの南洋鋼器のキャンセルの時のステン材も貰っていいですよね。」
「あれ、本当はすっごく高い材なんだぞ。まあ、細く切ってしまってるから、やはり屑鉄だなあ。」
という具合。納屋の床はコンクリ打ってあり、元々脱穀機とか使うように動力線が入っていたので、フライス盤や帯鋸盤とかを据え付けるのは簡単でした。まわりに住民がいないので、多少の音が出ても全然平気ですし。あ、ボーナス前に会社潰れたから、僕だけボーナスの分を先貰いして得したことになりますね。
専攻は電気だけど、そこは貧乏2流大学の工学部。実習のほか実験設備の製作などでいろんな技は身につけています。会社では営業だったけど、手不足の時や急ぎの時にはバイトがわりに工場の手伝いもしました。専門職のようには行かないけれど、初心者程度の加工はできるようになりました。これを生かして趣味関係の工作をします。
工業系で工作というと、フィギュアとかロボットとかいろいろありますが、これからやろうとしているのはナイフ製作。大学時代の先輩がそっち系の店にいて、会うたびにいろいろ話を聞かされました。いわゆるサバイバルナイフ。本当の実用品ではなく、派手な見栄えと大げさな造形の趣味用品。日本刀のように鋼を鍛えて造るのではなく、刃物用の鋼材を切り抜き削って造るのが主流とか。「かっこいいの作ってくれたら高く買うよ。」だそうです。
見本がわりに撮ってきた写真をもとにデザインを考えて、帯鋸で切断して、フライスで削って。外形ができたら刃になるように削って、グリップとヒルトの角を整形。あとは丁寧に磨き出す。
機械と一緒に廃品のステンレス材を取り込んだのは、これが目縦金属の刃物用鋼材だったからです。普通に個人で買うとなると簡単では無い素材です。切って削るといっても相手は硬いステンレス鋼。古くても工場の工作機で力はあります。力が強くてブレない機械があるとけっこうサクサクとできます。手でハンドル回して送る旧式の機械はホビー用の一点物にはかえって好都合です。まず治具を作って試行錯誤やって、一日かかって2本できました。試しに夕食用のお肉を切ってみると、けっこうヤバい切れ味。これでいくらで売れるか。明日試しに持って行くつもりです。
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≪猫又≫
今日は私たちは母屋の部屋の片付け。とりあえず、台所と居間を片付ければここで暮らせそう。だいぶ湿っぽいけど布団はありました。寝床の問題は解決。これは明日「ひよろ志」に干してもらおう。ホントは猫って働き者じゃないはずなんだけど、妖狐様って家事は不慣れなんだよね。ちびたちはまだ変化できないので手伝いにならないし。まあ少しづつやりましょうかね。奥の部屋には古雑誌が残っていて、けっこう面白い記事が載ってました。読みながらごろ寝していると、そろそろ夕方でした。あ、お昼御飯食べてない。
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≪妖狐≫
空き屋になっている母屋に住んで良いと言われたので、今日は部屋の片付け。私は何をしていいのか判らないので、片付けはタマコに任せて、ちび鼬たちの訓練。外へ出るなというので部屋の中で飛び跳ねていたら、音がするとタマコに怒られた。ちびたちが腹が減ったというので、細志のところへ。細志はなにやら機械を動かして金物を削っていた。午後は納屋の奥にあった筵に向かって妖術の訓練。ちびたちの鎌鼬もけっこう使えるようになったから、そろそろ狩りの練習をしても良さそうだな。