黒犬の伝説 (郷土の伝承)
【 市の広報誌の記事より 】
市内の北部、新谷村のあたりでは近年猪や鹿の被害が増えています。このあたりでは昔から獣の被害に悩んでいたようです。
新谷村は江戸時代に開墾された新田集落です。細い川に沿って谷間を拓いて段々の畑を作り豆や麦や根菜が作られました。当時はまだため池がなく、量が少なく冷たすぎる山水では田んぼはできなかったそうです。
畑の作物は良く育ちましたが、春と秋には山から猪がたくさん下りてきて畑や村の家々を荒らしました。困った村人は本村の栃川村の神社の神様に助けを請いました。すると大きな黒犬があらわれました。新村の人々はこの黒犬を連れ帰りました。翌日から黒犬は猪を退治しはじめました。村の柵の前に出て群れる猪を次々と屠り、見えるあたりに1匹もいなくなると、山へ入って猪を追ったそうです。数年たつうちに猪の被害はほとんど無くなりました。黒犬は猪だけではなく熊や狼も退治したので、村のまわりの山は安全になり、子供たちが枝拾いに入れるぐらいになったそうです。
こうして大任を果たした黒犬は神様のもとへ呼ばれ、その功績で神と同じ姿をもらいました。力強い若者の姿となった黒犬は新村の娘を妻に迎え、神社のある本村に家を構えました。しかし村人の中には快く思わない者もいました。翌年、ふたたび新村を猪が襲いました。黒犬は大急ぎで村へ駆けつけましたが、わずか間に合わず、村には大きな被害が出てしまいました。黒犬は新妻との暮らしに油断していた自分を悔やみながら本村へ戻ると、なんと家は焼かれて身重の妻も殺されていました。
大切に思っていたものを何も守れなかった黒犬は、怒りと失意のままに本村の家々を壊してまわりました。それを諫めて止めたのが隣の東村の神。黒犬はつらい思を抱えて新村の山裾の洞窟にこもりました。新村の村人は後を追いましたが洞窟はからっぽでした。そこで村人は東村の神を呼んでここに社を造り、洞窟に消えた黒犬を想い村が猪の害から守られるよう祈るようになりました。
新谷村の神社は本村の栃川村の神社とちがって東村と同じ稲荷神です。神社の裏の洞窟は「黒犬様の洞」と呼ばれ、神聖な場所とされていて、秋祭の時に祭事がおこなわれます。