謎剣の件
悪ノリの銅剣ができました。洋白を主体に、中心に楔型に砲金を挟んだものと白銅を挟んだもの。それぞれ2本まとめて作ってしまいました。材の取りの具合で刃渡約35cm。片手剣には少し短いけど、取り回しやすいのはこれぐらいかな。刃は形だけ削りましたが、切れるように研いでいません。見栄えするように刃幅を広く取ったので突き刺すには鋭さが欠けます。高価な材料を節約するため、鍔は別に作って銀ロウ付け。装飾品らしく、刀身には唐草のような模様を彫りました。中古の彫刻盤が安く出ていて思わず買ってしまったので。形ができたのを一旦薄く黒染めして、それから全体を磨きなおして、溝や内角のあたりが黒く残る感じにしました。完全に装飾品です。
刀身には小穴を開けて色石を埋めることにしました。スナおばちゃんは最大5mmぐらいの大きさの小石が出せるというので、身近な物質の酸化アルミを原料に作れるサファイアを頼んでみたんですが・・・ 「この大きさだと透明なのは無理だったね。」と言って見せてくれたのは、青色で半透明の球体。光をあてると、中に白い光芒が見えます。これって、スターサファイアじゃないですか。「らいむに訊いて、不純物を調節してみたんだけど」って出したのは、黄色と赤色。赤はルビーだけど黄色のイエローサファイアって珍しいんじやなかったかしら。「この程度でいいのなら、それほど難しくないよ。」って、小箱にいっぱい。産地不明なので宝石としては売れませんが、剣の飾りなら全然問題ないでしょう。
ここまで作ったので、今日は猫人の村の皮職人さんを訪ねて、腰に吊るベルトと鞘を作ってもらいます。グリップは向こうの細工師さんが作れるって言ってたので、それも相談です。僕は戦闘力が無いので無理言って珠子さんに護衛を頼んでいます。英語も頼りないですし。
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まず犬人の村へ挨拶に寄りました。井戸の横、テーブルと反対側に小さな小屋のような物が2つできていました。横に竈がありますが・・・冬の間の沐浴場。つまり竈でお湯を沸かして、中で体を洗って、火で乾かすんですね。暖かい時期は川で洗うけれど、冬は鍋で沸かした湯で体を拭くぐらいだったって。薪には不自由しないんだから、五右衛門風呂でも作れたらいいんですが。
鍛冶師さんは仕事場にいました。今日は先日の鋼板で鍬を作っていしまた。こちらには備中鍬みたいなのは無いんですね。絵を描いて見せると、鉄がたくさんあるから作ってみたいと言ってました。
猫車計画は順調に進んでいるそうです。車輪は向こうの標準型の運搬車の物を流用。車軸も運搬車の物を基に安く作れるように調整できたそうです。車台は、脚立の工房が受けてくれたそうです。一般的な大きさの脚立の片側を元に車軸受けと足を付けるという絶妙のアイディア。値段もそうですが、職人が馴れている加工で早く作れるというのは重要です。荷台は、側面の傾斜を無くして・・・標準サイズの木箱用の部材を利用して・・・縦使いと横使いで2タイプ。幅が狭くて深い肥料・土砂用と、浅くて広い苗物・収穫物用ですか。
もう少ししたら、第一陣の納品日だそうです。そのために、狼の襲撃で住人が減った白牙村の空き屋を改修して、猫車の組み立て作業場と倉庫を作ったそうです。あそこは魔獣暴走の時の防衛拠点としても役立ちますから、冬の間に少しでも整備しておければ助かりますね。白牙村には山の水が引かれていますから、水車を付けられると便利でしょうね。
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猫人の宿場の村。皮職人さんの家をしらないので、食堂へ寄りました。そしたら近くだからってわざわざ呼びに行ってくれました。「どうせナムさんは、うちでお昼食べるんだから。」って。そうなら、お昼は僕がおごらなきゃ・・・ってこっちのお金持ってないです。え、珠子さん、持ってるんですか。どうやって?
で、皮職人のナムさんに謎剣を見せて、鞘とベルトを作る相談。戦闘用ではなく趣味の飾り物である事は理解してくれました。使いやすさを損なわないようにして、飾りになるように縫い目を入れるそうです。ナムさん、2本色違いの剣だから、吊りは左右どちらでも付けられるようにすると言ってくれました。左右に剣を吊る2刀使いの剣士もいるそうです。いつのまに話が伝わったのか、その頃には細工師さんも来られて、グリップをどうするか相談。ちょうど良い大きさの鹿の角があるので、それでどうかって。滑りやすいので実戦には不向きだが、貴族の飾りや儀式用の小剣にはよく使うのだそうです。三色の宝石と釣り合う素材はそれぐらいじゃないかと。なんかとんでもない剣になりそうです。
ちょうどその頃、食堂には旅の一行が到着していました。ここで昼食を取って、今晩は峠下の宿に泊まるのでしょう。一行は人間ではなく、エルフさんでした。ここの食堂は豆料理が美味いと聞いて立ち寄ったみたいです。エルフさんたちの村は、国境を越えた少し先で街道を離れて山中を行ったあたりだそうです。
エルフさんたちは豆のスープと芋と豆の煮物を食べてました。肉類は全然食べない訳ではないけどあまり好きではないらしいです。一人の女性が果物は無いかと訊いて、おかみさんが出してきたのは柿。秋の味覚ですね。皿に乗せて上を切りとって、匙ですくって食べる。え、エルフさん、こんな食べ方は知らなかったって? お酒で渋抜きして柔らかくするって、スナおばちゃんが教えたんですか。エルフの村では渋柿はお酒にするらしいです。
それから、店先で売っているメープル風味クレープ風お菓子を大喜びで食べていました。「一日早く故郷の香りを嗅げた」と。連邦の南の端の方まで行って、往復2か月あまりの旅だったそうです。
ひとりのエルフさんから「突然で申し訳無いが」と声をかけられました。「さきほど向こうで出されていた剣だが、できればあれを見せてもらえないだろうか。」
「えっと、あれは飾り物で実用になる物では無いですよ。」と一応説明。「聞こえてた話しでは、あれは銅剣のようだが、あの地肌の色は見たことが無い。銅は魔法と馴染みが良いので、魔法を纏わせるような使い方には具合が良いのだが、残念ながら銅剣は脆いのが普通なので。折れにくい物はないかと思っていたのだ。」と。らいむちゃんの電撃の杖みたいですね。
グリップが付いていないので、布を巻いて持ってもらいました。片手に持って壁に向かってひと振り、そのまま左右に素早く振って。「ちょっと魔力を通してみたいが、いいだろうか。」 僕もどうなるのか気になりました。
開いている窓から外の人がいない方に向けて。剣が鈍く光るとともに、細い炎が出て、次は眩しく光って。なんかすごいです。「私も良いだろうか。彼は火と光遣いで、私は風遣いなので。」もう一人に交代して、今度は剣を振るのに合わせて風が巻き起こって。剣を変えて、同じようにもう一度。「普通の銅剣と違ってしなやかで、それでいて魔力の通りも滑らか」というのが2人の感想。バネ性の高い洋白の圧延ものですから。「青い方が硬く、赤い方がぶれにくい」って、白銅と砲金、そうでしょう。微妙に魔力の通り方も違って、炎は青い方が通りが良い、風と光は赤い方が良い・・・んだけれど、差は小さいそうです。
なんとなく欲しそうにしていましたから、急がなければ注文に合わせて作ると言いました。片手剣なら18インチで細身の物、杖なら長くて軽い方が・・・やはり、らいむちゃんの放電みたいなのでしょうか、魔法も先が細い方が狙い良いらしいです。結局らいむちゃんと同じ洋白のストックを作ることにしました。お二方とも身長が高いので、念のため持ちやすい長さをメモ。納品日も打ち合わせ。代金はどうしよう・・・カエデ糖と柿酒でいかがですか。・・・それじゃ安すぎるって、特産の織物も付けてくれるそうです。なんか、エルフの織物って綺麗らしいですね。
ここから峠下の宿までは坂道を約20km。徒歩では日暮れまでに着くのは厳しいでしょう。あまり長話はできませんから、手短に魔獣暴走の事を話しました。エルフの住むあたりは暴走に巻き込まれることは無いそうですが、今年は山の獣の気が立っていて動きが変だから、来年に暴走があると予想していると。エルフは長命らしく、グループのリーダーは300歳を越えたぐらいだそうです。過去の暴走の時も、前の年から山が騒がしかったそうです。そして暴走の半月前ぐらいに急に獣の姿が消えるというのです。これはこちらでは把握できていない新しい情報です。できれば、エルフの村でも予兆に気をつけておいてもらえると助かります。
あとで皮職人さんが教えてくれました。このあたりでは、平時には、普通の村人や獣人は長さ10インチ(約25cm)より短い剣しか着けて歩けないそうです。犬人たちの護身用の短剣ですね。ハンターは18インチ(約45cm)まで、貴族は2フィートまでで、それより長い剣を持てるのは上級ハンターや騎士待遇の者だけだそうです。槍や杖は長さ制限が無いので、それで注文が杖になったんでしょう。
突然ですが、エルフさん登場です




