ちびイタチたちの事情
≪珠子視点≫
あの子たち、捨てられた村のはずれで見つけたんだよ。そこにはひどく痩せた鼬の妖が口に山鳥を咥えて斃れていたんだ。火山の噴火の灰が降ったあと、人も動物も捨てた土地。おそらく食べ物が無かったのだろうね。ようやく見つけた獲物を子どもの所へ運び、そこで力尽きたらしい。3匹の子鼬たちは動かない母親を何とかしようとしている様子だった。あたしが近づいて手を伸ばすと、母親を守ろうとするように噛みついてきたんだよ。まだ小さいのに健気じゃない。
しばらく猫の姿でなだめているうちに子鼬たちも母親が死んだことを悟ったらしい。母親の残した最後の獲物を3匹に切り分けてやり、母鼬の遺骸を土に埋めた。母鼬は妖だったけど、この子鼬たちも妖になっていた。おそらくお腹に子を宿した親鼬が魔を受けたのだろうね。しかし妖といってもあまりに幼くて。放っておくこともできないので、宿へ連れて行くことにしたんだ。生まれて来れなかったあたしの子のかわりにね。
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≪鎌鼬の視点≫
私たちの記憶は、母さまのお腹の中にいる時に突然始まります。母さまは大きな熊の魔物に噛みついていました。魔物と母さまのやりとりははっきり覚えています。
「小さな獣が山の主を襲うとはなかなかの気合いだな。わしが怖くないのか。」
「お腹の子のために、血が欲しい。肉が欲しい。ここには鼠も兎もいない。」
「災いで山野が荒れたのだ。去る者は去り、残った者もいずれ死ぬ。」
「この体では遠くへは行けぬ。ここで子を産み育てるしかない。だからわたしは肉が欲しい。」
「その想いは判った。しかしこの魔物の肉を喰らい血をすするなら、お前も魔となろうぞ。」
母さまは魔物の肉を噛みとり流れる血を舐めました。そして母さまは妖となりました。その血は私たちの体にも流れ、私たちは生まれる前から妖となりました。
あたりの野山には蛇も蛙もほとんどいなくなっていました。妖となって、獣の頃より命の力は強くなったけれど、それでも何か食べなければ生きてゆけません。危険は承知で山を下りましたが、谷間の村はとうに捨てられていました。草の中に枯れ残った雑穀を喰う鼠が少しいたぐらいで、その程度ではやはり栄養が足りませんでした。
母さまはがんばって私たちを産みました。乳の出が良くなかったので、私たちはひもじかったです。乳が足りない分を補おうとしたのか、早く狩りを教えようとしたのか、目があいてすぐの頃から母さまは獲物の血を飲ませてくれました。こうして私たちは生き延びたけれど、母さまは日ごとに弱って行きました。自分が死んでも私たちを生かそうとしたのでしょう。でも結局母さまは私達を育てあげることはできませんでした。
母さまが倒れ、どうすればよいか判らないでいる私たちの前に猫のお姉さんがあらわれました。母さまを葬り、私たちは母さまの獲った最後の獲物を分け合って食べました。猫のお姉さんは、私たちのお姉さんになってくれると言いました。
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ボクたち姉妹はひと腹の3匹。お姉さんたちが世話をしてくれるおかげで、少しづつ大きく育っている。体の調子も良くなって来た。やはりボクたちは鼬の妖だそうだ。それも普通より強い妖力があるらしい。鎌鼬の技はまだ練習中だ。
こないだから、人の家で暮らしている。お肉とか美味しいものを食べられるのがうれしい。そして、ボクたちはこの人から名前をもらった。獣には名は無いが、妖には自身の名前がある。その名のほかに『とおり名』を持つのが普通だ。とおり名は誰かからもらうもので、普段はこっち名をつかう。ボクは「はる」。姉妹は「なつ」と「あき」で、季節の呼び名だ。あと「ふゆ」は?
ボクたちは今は3匹だけど、本当は4匹だった。お母様とボクたちが妖になって少しした頃、しばらく獲物が捕れない時期があった。このままでは皆死んでしまう。ボクたちはお母様には生きてほしかった。お腹の中でいちばん小さい子が自分の命を絶った。突然のことで、ボクたちには止めることができなかった。そのとき、その子は持っていた妖力を3分の1づつボクたちにくれた。だから、ボクたちの中には末の妹が3分の1づつ生きているはず。そう想って心の中に「ふゆちゃん」って呼びかけると、小さく返事があった気がする。「なつ」と「あき」に話すと、2人も「ふゆ」を感じると言っていた。