古屋の怪・後編
≪珠子≫
陽子さんは見当ついてたみたいだけど、やはり座敷童だったね。ここに店を開いた先代が岩手の村の出だったみたいだね。サヨちゃんは、子どもの頃のその人と遊んだことがあるんだね。その村が廃村になる時に、生まれ育った家の床柱を外して、ここへ持って来たんだ。サヨちゃんはそれについて来たんだね。でもここにはサヨちゃんと遊ぶような歳の子どもはいなかったんだね。店先に来る子どもはいても家の中に上がる子はなかったって。それもここ何年も板戸が閉められてて、表から聞こえる声を聞くだけだったって。
座敷童のことは陽子さんから教わっていたよ。東北の岩手県あたりにはけっこういたんだってね。子どもたちが遊んでいると姿をあらわして一緒に遊ぶ。お菓子が好きで、きれい好きで部屋を掃除したり片付けたりもする。子どもには見えても普通は大人には見えない、おとなしくて優しい妖怪。たいていは家に居着いているけれど、子どもに付いて行って、余所の家に移ることもあるって。ここで一人じゃ寂しいよね。うちに来れたらいいのに。
お饅頭食べてお茶飲みながら、ちびは自分たちのことやあたしのことをサヨちゃんにあれこれ話して。くすくす楽しそうに笑うサヨちゃん。チラ見してると、時々その姿が少し薄れるんだよね。それに気付いているのかいないのか、ハルちゃんとアキちゃんはサヨちゃんの手を掴んだり服を引っ張ったり。ナイスだよ。ハルちゃんの「ボク言葉」に笑ってるし。
そう、座敷童って、遊んだりお菓子を食べたりできなかった子どもの想いが姿になった妖なんだよね。だから、楽しく過ごしてその想いが薄れると消えてしまうことがあるって、陽子さんは言ってた。でも、せっかく友達になれたのに、そのまま消えてしまうなんて悲しすぎるよね。もっともっと楽しい事があるんだよ。美味しい御馳走だってあるんだから。
ちびたちが妖だって知って、サヨちゃんは少し驚いていたね。妖気を持った獣は見かけたことがあるけど、人の姿の妖に会った事は無いんだってね。そうだよね、普通に人里の家の中にいたら、強い妖になんて出会うことはまずないよね。
駅前の夕方のチャイムが鳴ったよ。「もうみんな帰るの?」ってサヨちゃん。「う~ん、また明日また遊べる?」とナツちゃん。「でも今晩、サヨちゃんひとりなんだよね。」「じゃ、ボクのうちに来てよ。ねえ、ねえ。」あはは、予想以上の展開だよ。ちびたち。「ねえ、たまこねえちゃ。サヨちゃんうちに呼んでもいいよね。」って。にゃおっ。あたしも大歓迎だよ。夕御飯も一緒に食べようよね。ここは強引に誘うしか無いじゃん。
「ええ・・・お家って、わたし行っていいのかしら。」 あはは、サヨちゃん、その気になって来たよ。あと少し。「うちはね。あたしたちと狐の陽子様。離れに大家さんのフトシにいちゃ。そんだけだよ。あ、フトシって人間だけど、妖のこと良く知ってるから、妖みたいなもの。」「ええと、その狐様って、昨日来ていた方ですよね。」やはりサヨちゃん、陽子さんの正体に気付いていたね。「陽子様って、ボクたちのお母さんがわりだから。」
「あの・・・フトシ・・・様?って、大人の方ですか。」 やはりサヨちゃんは大人が苦手なのかしら。「フトシって、へろへろよわっちいんだから、ひょろにいちゃん。ね。」 サヨちゃん苦笑してるよ。いいぞアキちゃん。あたしもひと押し。「あ、太志はあたしたちの隣の家に住んでるんだから、気にしなくていいよ。会いたくなかったら顔出さなきゃいいんだから。」
かなり強引に話を進めて、ひょろ志に電話して迎えに来てもらった。ハルちゃんは前の席に座って、太志にすごくおおまかに説明。かわりにナツちゃんがサヨちゃんの左手を持って、右手はアキちゃんが。あたしは太志の膝の上ね。定員オーバーだから猫の姿だよ。
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≪太志≫
珠子さんからアッシー君のお呼び出し。電話の説明では、あの古家に居着いていた妖をウチに連れて帰るみたいです。「すっごくいい子だから。大人の人を怖がるかもしれないので、とにかく優しく静かにしててね。」と言われました。僕は家の横手に車を着けて、運転席で小さくなってました。
その子はちびたちより1つか2つ年上ぐらいの、着物を着たおかっぱ頭の女の子でした。両腕をアキちゃんとナツちゃんに抱えられて、なんか拉致っぽいですね。定員オーバーだからと言って珠子さんは猫の姿で僕の膝の上。なぜ僕の膝。助手席に座ったハルちゃんが、すっごく簡単に説明してくれました。「この子は、サヨちゃん。今晩はウチに泊まってもらうの。今日はみんなで仲良く遊んだよ。いい子だよ。あ、今日のお夕食はサヨちゃんと母屋で食べるから。」
サヨちゃんを囲んで一行は母屋の方へ。微かに笑い声が聞こえる中、陽子さんが仕事から帰って来ました。しばらくして、二階の電気が消えて。
あの子は座敷童という妖だそうです。「しばらくここに居ることになった。とっても温和しい子だから、仲良くしてやってくれ。」って、陽子さんが僕の所に来て説明してくれました。
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≪陽子≫
やはり、あの家に居たのは座敷童だったよ。過疎の村が廃村になって岩手から来たってな。来たものの、こっちでも家に子どもがいなくて寂しかったってね。座敷童ってな、ホント寂しがりなんだよ。元々は不作の年とかで間引かれたり産後すぐに死んだ子の霊で、何事もなく成長できたら、友達と遊んだり美味しい物を食べたりできたかもしれない。そんな無念の想いが姿になった妖なんだよ。だからたいていは4・5歳ぐらい姿で現れるんだね。子どもを育てられない貧しい村の事情を全部飲み込んで、その上で生きている子たちと一緒に遊び見守りたいって思う、そんな優しいやつなんだよ。恨みや憎しみがあれば魔になるところだろうが。
座敷童は、家の子どもと一緒に成長する者もいて、その場合はたいてい12歳ぐらいで姿を消す。昔の子はそれぐらいになると家の仕事をして遊んでいられなくなるからね。子どもの心を持った僅かの大人以外には姿を現さないと言われている。まあ、珠子は、本人はまだ半分子どもだと思っているし、私らが妖だと知って安心できたんだろうな。しかし、チビたちが腕を持って引き留めていたんだって。それで太志の前でも消えられなかったんだな。ああ、もうすっかり姿を見られて覚悟はできているみたいだぞ。明日は挨拶に来るってな。
あの子、小代はな、生まれたものの息をしなかった子だったらしいな。今なら救われたかもしれないが、昔の田舎では仕方なかっただろうな。だから、あいつ、小代はな、できるなら他の子どもたちのように大きくなりたいってね。その気持ちがあれば、もう簡単に消えたりすることは無いだろうな。
あはは、布団の中でも両腕をちびに掴まえられているみたいだったぞ。あいつら、ずっと一緒にいて欲しいんだろうな。「小代ねえちゃん」ってな。あ、あの子、肉より魚が食べたいって言ってたぞ。太志、シャケか何か冷蔵庫にあったろ。
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≪小代≫
あ、あたし、小代です。わたしは山の村の家に居着いていた妖です。家に子どもが来ると、一緒に遊んだり、お団子とか一緒に食べたり。時には家のお片付けをしたり。楽しそうな子どもの様子を見ていると楽しくて楽しくて。
もともと貧しい村でしたから、作柄が良くなかったりすると村を離れる者もありました。一時は暮らしが上向きましたが、その後はまた村を離れる者が増えて子どもはみるみる少なくなりました。最後は村の者すべてが引っ越すことになり村は閉じられました。その時に潰される家の床柱を運び出す者がいました。昔この家にいた子ども。それはわたしがよくもたれていた柱だから、わたしは一緒に村を離れました。留まろうにも家が潰され村が無くなれば家憑きの妖は消えるしかないですから。そうして、村から遠くの街に移り住みました。でも、そこにもわたしと遊ぶような子どもはいませんでした。板戸が閉じられればときどき外から聞こえる子どもの声をきくだけ。それでも消える決心もできないまま古家に居残ってました。
奇妙な気配を感じた翌日、小さな子がやって来ました。わたしと同じかひとつ下ぐらいの子。私の頼る床柱の横にはお団子とお饅頭もあって、楽しそうに遊ぶ姿を見ているうちに、一緒に遊びたくなって。そっと声をかけてしまいました「わたしも一緒にあそんでいいかな?」って。「ねえ、お姉ちゃん、ここの子なの?」って話しかけてくれました。嬉しかったです。しばらくぶりで、ずいぶん長く遊んでしまいました。
なんか不思議な雰囲気だと感じていたけど、その子たちは実は人間ではなくて獣の妖でした。お姉さんみたいな猫の妖もあらわれて、いろいろお話しているうちに、その子たちの家に行くことになってしまいました。しっかりわたしの腕を掴んで、絶対に放さないって感じで。あんなにしてもらって、たいへん嬉しかったです。
ハルちゃん、ナツちゃん、アキちゃん。その子たちの家へは大人の男の人に乗り物で運んでもらいました。その人は、わたしの事は何も訊かずに優しく微笑んでいました。妖のことは知った上で普通に接してくれる人で、子どもにも優しい人だそうです。大人の人に姿を見せた事はほとんど無いのですが、この人たちなら一緒に過ごせるような気がしました。
昨日の強い気配は、一緒に暮らしている妖の狐様で、わたしを優しく抱いて頭を撫でてくださいました。みんなで一緒に夕御飯をいただきました。こんなの初めてです。もうすっかり満足して、何時消えても良いぐらい。でも、ハルちゃんとナツちゃんが、寝る時も私の手を握っていて、これじゃ消えるなんてできませんよね。わたしも本当は消えたりしたくないです。わたしのこと、お姉さんって呼んでくれて。できるなら、この子たちと一緒に大きくなるまで暮らしたいです。




